子供の考える力・書く力はこうすれば伸びる!

HOME > 齋藤孝先生インタビュー > Vol.4 「上機嫌になりましょう。」

Vol.4 「上機嫌になりましょう。」

タイトル

ご機嫌はいかがですか?

現代の日本では、あらゆる場面で不機嫌をあらわにする人が後を絶ちません。電車で。職場で。レストラン、そしてSNSで……。

無数の不機嫌が蔓延し、社会の空気を淀ませ、全体のパフォーマンスを低下させています。考えてみてください。不機嫌を表に出して、物事がうまくいくケースがあるでしょうか?

自身が不機嫌だとなかなか仕事に集中できずに生産性は下がります。不機嫌な状態では、一方的に部下を叱るばかり、部下の話には一切耳を傾けず、それどころか部下の不機嫌も生み、泥沼にはまっていきます。

上司が不機嫌だとトラブルに関する報告に二の足を踏む可能性がありますし、ましてそうした上司とのコミュニケーションからイノベーションが生まれることなど、望むべくもありません。これは上司をおうちの方、部下をお子さんと言い換えても差し障りはないでしょう。

それなのに、社会はどんどん不機嫌に覆われていく。教育者として、コミュニケーション論を語る者として、私はこの事態をひどく憂いています。

インターネットの発展によって、ツイッターやフェイスブックなどのSNSが普及したのも、社会の不機嫌を増大させている要因の一つであるように思います。個人が自身の言論や情報を即時に世界中に発信できるツールであるSNSは、素晴らしい発明である一方で、同時に個人の不機嫌を広く世の中に発散してしまうツールにもなりました。

私たちは、人類の歴史のなかでもっとも自身の不機嫌を人前にさらしてしまう危険と背中合わせの時代を生きているともいえるでしょう。もはや不機嫌は、世間にとっても、そしてあなたの人生にとっても、「罪」なのです。

不機嫌はなおせます

しかし、ご安心ください。機嫌とは、人の表情や態度に表れる快・不快の状態です。つまり不機嫌とは、不快な気分を表情や態度に表しているさまをいう言葉です。上機嫌だと自覚するだけでも変化が起きます。

機嫌というのは、理性や知性とは相反する分野のように思われがちですが、気分をコントロールすることは立派な知的能力の一つです。上機嫌と頭がいい状態は両立します。

前向きに生産性のあることを考えている人の頭やからだは柔軟に動いています。表情もやわらかですし、ポジティブな空気を発します。不機嫌がクセになると、頭もからだも動きにくくなります。運動不足と同じで運動能力が下がってしまいます。気分をコントロールすることはこころの運動能力を維持し、仕事や人間関係のパフォーマンスを上げる知的技術です。気分をコントロールするワザを習得してしまえば、毎日顔を洗ったり、服を着たりするように、自然と上機嫌を保てるようになります。

ワザは訓練によって習得できます。運動と同じで訓練を続けると、上機嫌の筋力がついてこころの可動範囲が広がり、上機嫌が生活に占める割合が増えるのです。

思春期にこそ感情のコントロールを

一方で不機嫌が許される存在があります。それは「子ども」です。

「情報伝達としての不機嫌」を上手に活用しているのが、赤ちゃんです。生まれたばかりの赤ちゃんは、自分の状態を周囲に素早く伝え、ミルクをもらったり、おむつを替えてもらったり、世話をしてもらわないと生きていけません。そこで、泣いたりわめいたりすることで、コミュニケーションを行います。これは、不機嫌による情報伝達に他なりません。

しかし赤ちゃんがなぜ、いつも不機嫌でいて許されるのか。それは言葉が使えずに、自分の不機嫌の原因を自分では解消することができないからです。

では、一体いつまで不機嫌で許されるでしょうか?

私はせいぜい小学校低学年くらいまでだと思っています。高学年になれば十分に自分の気分をコントロールできるだけの分別が身につけられると思うのです。

世間にはいまだ「思春期は不機嫌な時期」「思春期に悩んだり傷ついたりしたほうが成長できる」という風潮が強くあります。これは十代の子どもたちの力をあまりにも低く見すぎているように思います。正直私は、思春期が「反抗期」である必要はないと考えています。上機嫌を保つというのは「人に気を遣う」ことと深く結びついています。そうしたこころの習慣をある時期だけなくしていいというのはおかしな話ですし、18歳になれば選挙権が与えられます。早く身につけられるなら、早いにこしたことはありません。

むしろ体調の変化もあって精神的に葛藤の多い思春期にこそ、「せめて外では機嫌よくしなさい、自分の気分をコントロールしなさい」という指導をしておくことが大切ではないでしょうか。

まずは、あなたから

不機嫌が場を支配し全員を憂鬱にさせてしまうことがあるように、上機嫌は場に広がって全員の気分を和らげるものです。

あなたが上機嫌になれば、周りも上機嫌に変わっていく。

集団の空気が硬く萎縮していても、他者へのサービス精神にあふれ、生きることのエネルギーにあふれた人が一人でもいれば、場の調子は必ず良い方向へと転じていきます。

上機嫌であるというのは、人に対してオープンであるということです。

その時々の気分で揺れることなく、つねに安定した上機嫌の心持ちを維持継続して物事に対応できる人は、円滑にコミュニケーションができます。コミュニケーションを通じて周囲にも良い効果を及ぼすことができ、結果的に自分の気持ちもさらに向上します。

「上機嫌は人のためならず」。周囲の不機嫌に悩んでいる人、コミュニケーションのとり方に悩んでいる人こそ、上機嫌の効能に助けられるはずです。

vol.4 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2019年4月号掲載

一覧へ戻る
春の入会キャンペーン
無料体験キット