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Vol.45 デジタル教養を身につけていきましょう

タイトル

人類史に残る大変革

 スマホがあれば、指1本で世界中の情報を調べられ、SNSやチャットを使えば、すぐに情報交換もできる。インターネットのおかげで私たちの暮らしは驚くほど便利になり、いつでもどこでも誰でも簡単に情報にアクセスできるようになりました。パソコンやインターネットを使うことが当たり前になり、多くの情報へのアクセスを可能にし、世界の距離はいちだんと縮まりました。会ったことも話したこともない世界中の人たちと、瞬時にコミュニケーションできるようになりました。世界初の実用的な電話を発明したグラハム・ベルが聞いたら卒倒しそうです。
 ビジネスの領域でも、ITのおかげで業務の効率化やコストカットが可能になり、変革のインパクトは大変なものです。
 そこで時代はDX。人類誕生以来、社会の変革は進む一方です。人類史に残る大変革のタイミングを体験できるのは、貴重なことです。しかし、DXを「IT化と似たもの」と考えていては、これからの時代を生き残ることはできません。ある調査によると、「約8割の企業は、DXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革の段階に至っていない」のが現実のようです。  

検索リテラシーはありますか

 前述したように、8割の企業がDXを推進できていない現状に強い危機感を覚えているのは国です。行政サービスを見直すべく、デジタル・ガバメントの実現を進めています。
 それは、単にオンライン申請ができるようになるといったことではなく、Society5.0(p5参照)に対応したサービスを提供することが目的です。
 Society5.0では、IoTにより新たな価値を生み出すことが掲げられています。IoTによってあらゆるモノとインターネットがつながると、あちこちから「電気つけますか」「窓を開けますか」「ドアを閉めます」などと言われ続けるようになるかもしれません。
 私は最近、AI音声サービスが反応しすぎるので、機能を止めることにしました……。その恩恵を正しく受けている人がどれだけいるのか考えると、技術革新が進んだからと言って、すべての人が使いこなせるわけではないのがつらいところです。
 たとえばビッグデータ。これを活用するにはデータサイエンスの知識が必要です。膨大なデータの中から、必要なデータを取り出し、分析し、加工する。ですが、ビッグデータを使いこなせるデータサイエンティストはほんのひと握りしかいません。
 棋士の藤井聡太さんがAIを使って将棋の研究をしていることはよく知られています。ある対局での藤井さんの差し手が、ディープラーニングによって導き出された差し手と同じだったということがありましたが、AI並みのデータ分析ができるのは極めて稀なことです。
 ビッグデータとは言わないまでも、私たちの周りにもかなりの量の情報が流れ込んでいます。自分にとって必要なデータを取り出すには、「ググればいい」と思うかもしれません。しかし簡単にググれるのは、「あの店、どこだっけ」「あの映画に出ていた俳優、何ていう名前だっけ」といった“答えのある問い”です。
 今はVUCA(ブーカ)の時代であり、答えのない問いに対峙する時代。あふれるほどある情報の中から、自分が欲しい答えをいかに短時間で見つけるか。そのために重要なのは、検索するためのキーワード選びです。たとえば、パソコンを使っていて急にインターネットがつながらなくなったので、その原因と対処法をスマホで調べたいとき。「ネットつながらない」と検索しただけでは解決しません。
 ○○社のルーターについて故障かどうか、状況が特定できる言葉で、かつ他の人も入力しそうな言葉を選んで検索しないと、本当に欲しい情報には手が届きません。検索ワードの選び方と組み合わせ方によって、得られる成果が大きく変わります。つまり、検索ワードのリテラシーを身につけることが必要になってくるのです。
 産業革命のとき、急速な機械化によって失業する人が多くいました。今は、人間がAIにとって代わられるという不安がはびこっています。
 しかし、技術やシステムは、あくまでも手段。もちろんDXもしかり。私たち人間が〝手段〟に振り回されてしまっては本末転倒です。有意義に活用できるくらいの知識とスキルは持っておきたいものです。

学校という場を生かしたICT化

 私は大学で、教職課程を履修する学生たちを指導しています。文部科学省からは、テクノロジーを活用する授業を組み入れてほしいという要請がくるので、その都度授業内容を新しく組み替えています。その要請によって、教育のICT化がますます進んでいることを実感しています。
 オンラインで授業が受けられるということは、いずれはほかの学校の授業も受けられるようになる可能性もあります。アメリカのマサチューセッツ工科大学では、オープンなカリキュラムについては、大規模公開オンライン講座を実施しています。一流大学の授業に、世界中からアクセスできる時代になったのです。
 テクノロジーによって、グローバルな格差が縮小していますが、デジタル格差はいろいろな局面で影響していくでしょう。DXを実践していると言っても、攻めのDXか守りのDXかで成果は変わってきます。
 攻めに転じるために必須の人材として注目を浴びているのが、エヴァンジェリストです。ITについて広範な知識を持ち、DXを啓発する専門職を指します。戦略なきDXに陥っている企業や組織は多々あるのが現状です。ますますエヴァンジェリストのニーズは高まると言えるでしょう。
 小学校では、英語教育やプログラミング教育が必修化されたとともに、「思考力・判断力・表現力」が重視されています。教育のICT化はまさに、こうした人材、エヴァンジェリストの育成が目的なのです。いま、子どもたちは端末の中で1人で思考することはもちろん、検索することで必要な情報の判断力を養ったり、クラスの仲間とオンラインでディスカッションしたりすることで情報力を磨いているのです。ぜひ、新しい技術を活用しながら、学びに生かし、これからの日本を作っていってほしいと思います。

vol.45 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年4月号掲載

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