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Vol.54 遊び力を高めましょう

タイトル

遊びが育む「生きるチカラ」

 いまの時代、どこで生きていくにしても、コミュニケーション力が不可欠です。
 コミュニケーション力は、大人になってから躍起になって身につけようとするよりも、子ども時代に遊びの中で培っていくのがいちばんです。大学生をみているとよくわかりますが、いい「遊び体験」をたくさんしてきた人は、間違いなくコミュニケーション上手になります。
 遊びは、人と人を笑顔でつなげる重要なコミュニケーションツールであり、強力な“きずな熟成グッズ”なのです。
 おそらくこれから必要とされる学力というのは、「主体的な思考力」です。ある教科が得意だ、テストの成績がいいといったことよりも、この状況で何ができるかを自分の頭で柔軟に考えていく力。そういう発想力で、自ら遊びを作る力です。
 この主体的な思考力とは、そのまま「仕事力」に置き換えることができます。仕事を与えられるとまじめに一生懸命やる、そういう人も必要です。しかし、いまいる環境の中で、自分で仕事を見つけ出して、おもしろがれる人のほうが、仕事力が高い。就活では、間違いなく後者が選ばれます。
 主体的な思考力、クリエイティビティというのは、就活を控えた年齢になってにわかに身につけられるようなスキルではありません。むしろ生き方の姿勢です。それは、子どものころから、どんなふうに遊んできたか、その積み重ねで変わってくるのです。

異種混淆で免疫を高める

 最近は、子どもたちを取り巻く世界がどんどん同質化しています。年齢の異なる子たちが入り乱れて遊ぶ、といったことが少なくなりました。
 もっとも少なくなっているのが、よその大人と接触する機会です。隣近所の交流が少ないので顔見知りの大人もあまりいないうえに、怪しい人との接触を心配する親から「知らない人から声をかけられても、話をしてはいけません」と言われて育っています。子どもたちが接する大人は、両親、祖父母、学校や塾、友だちのお母さん、習い事の先生くらい。世間の多彩さを知る機会が減っています。
 狭められた環境のなかで、安心できる人とだけ接して育つことは、子どもにとっていいことでしょうか。無菌状態で純粋培養されていると、ちょっとした菌にも弱くなる。抵抗力がないので、すぐに参ってしまいます。これは人間関係においてもそのままいえることです。
 対人対応力は、いろいろな人とたくさん接触してコミュニケーションすることで練られていきます。その中で人間洞察力がつき、「あれ?この人ちょっとおかしいな」といった違和感を察知するセンサーも敏感に働くようになるのです。
 ところが、いろいろな人と接していない人は、そういうセンサーを日ごろ使っていないので、対人感度が鈍い。その結果、だまされるなどして痛い目に遭いやすいのです。一生無菌状態のまま生きていけるわけではありませんから、外の世界にいろいろ触れて免疫をつけ、人間関係にタフになることも成長において大切なプロセスです。たとえば、耳慣れない方言を使って話す親戚のおじさん、おばさんの存在も、新鮮な刺激をもたらします。
 異質な環境、異質な言語空間、異質な考え方といったものが、感覚に揺さぶりをかけ、人間関係の免疫を高めてくれるのです。同種、同類の人と過ごすだけでは、そういう新鮮な感覚には出合えません。世の中にはいろいろな人がいます。違う人種、違う言語、違う文化、違う考え方をする人がいるのは当たり前で、多彩な人々が混在しているのが社会というのです。異質な人との出会いが、人間としての幅を広げる。その積み重ねが、違いを認めて、違いを受けとめる姿勢を培います。
 自分と違う価値観をもつ人を受け入れられず、極端になると「許せない」という歪んだ感覚で他者を攻撃したり排除したりしようとすることは、非常に狭量で、危険です。いろいろな人を寛容に受けとめられる、子どもたちにはそうあってほしい。それが社会への適応力であり、人間関係にタフになるということです。

「親子でヘボ将棋」のすすめ

 私は子どものころ、夕食後によく父と将棋を指していました。父が「やるか?」と言うと、「うん」と答えて私が将棋盤を出す。
 ふたりともあまりうまくはありませんでしたが、ヘボはヘボなりに楽しいものです。小学校も高学年頃になると、父親と面と向かって話をしろと言われたら、数分ともたないでしょうが、将棋を指す目的があると、ずっと向かい合えます。まず、将棋を指すこと自体が対話になります。さらに会話をすることで、二重の対話が成り立ちます。私が将棋の本を読んで、覚えたての穴熊戦法などをやると、「ほほう、なんだ、本でも読んだか」と父は言います。深い話をしなくとも、親子でそういう時間を共有して、ボソリボソリ言葉を交わすだけで、なんとなく安心できるコミュニケーションになっていました。
 このヘボ将棋は高校生のころまでやっていました。なんとのんびりしていたことかと思いますし、父が亡くなったいまとなっては、とても懐かしく、愛おしい時間です。そのようなゆっくり流れる時間の中で、親は子どもの成長や変化を感じとり、子どもは親に守られた環境の心地よさや安らぎを感じることができます。勝ち負けにこだわらないヘボ将棋だったから味わえた時間でした。

コミュニケーションの道具としての将棋

 将棋は、プロの人たちが真剣に指す緊張感のある世界と、素人がゆるく楽しむ世界とではまったく別物です。素人のゆる将棋のほうはコミュニケーションにとてもいい。うまくなくても、駒を動かしながら、話に興じることが楽しいのです。
 いまではまったく「縁台将棋」といった、のどかさがない時代になってしまいましたが、家庭で親子が、お正月などに祖父と孫が将棋盤に向かい合うのは、まだできるのではないかと思います。そんな遊びをしながら、新たな世界に少しずつ慣れていく。まずは将棋盤越しに向き合う時間をもってみてはいかがでしょうか。

vol.54 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年1月号掲載

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