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Vol.106 中学入試で増える「思考力型入試」のいま

 2017年度の中学入試では、「英語」で受験できる私立中学の増加に加えて、2020年の大学入試改革と連動した「思考力型入試」に注目が集まっています。まだまだ一部の学校が採り入れている段階ですが、その注目度は高く、もしかすると5年後・10年後には当たり前の入試システムになっているかもしれません。今回は、そんな「思考力型入試」について紹介していきます。

「思考力型入試」を導入する背景は?

 現在の大学入試センター試験は、現中2(2018年春に高校受験)の世代から新テストに切り替わります。まだまだ未確定なものもありますが、理科と数学を併せた新教科の入試問題、記述式の入試問題などの導入が検討されていて、保護者世代が経験してきた入試システムとは大きく変わることが予想されています。その根幹は「従来型の入試で問 われた『知識・技能』だけでなく『思考力・判断力・表現力』も問う出題をする」という方針にあることを知っておいてください。
 現在の小学生が社会人となり、バリバリと最前線で働くようになる頃には、グローバル化の加速はもちろんのこと、人工知能が人間の仕事を奪っていくとも言われています。誰も想像できない時代をたくましく生き抜かなければならない子どもたちに求められるのは、「正解のない問題」に対して自分の頭で考え抜く習慣、あるいはチームを組んで知識や経験 を出し合い多様な視点から解決策を生み出していくための力なのでしょう。そんな彼らに求められる能力が、従来のような「正解力」に終始するはずがありません。だから、前述の「思考力・判断力・表現力」に加えて、大学のAO入試や就職活動時に問われる「主体性・協働性」まで視野に入れて、中高6年間をかけてじっくりと子どもたちの可能性を磨き上げようと考える私立中学が増えてきているのです。
 今回の大学入試改革をきっかけとして、これから中学入試は急激に多様化していくでしょう。これらの変化を敏感に察したいくつかの私立中学が提示した形態の一つが「思考力型入試」なのです。

「思考力型入試」の中身をのぞいてみる

 いくつかの学校の「思考力型入試」を調べてみましたが、保護者目線で見て私自身がいちばん衝撃を受けた試験内容を紹介してみようと思います。東京にある日本大学豊山女子中学校の思考力型入試です。内容をまとめた表をご覧ください。
 試験当日の着席完了が9時で11時30分には試験が終わるとされており、算数や国語のペーパーテストはありません。それどころか、試験中に教室を出て校内の図書館に行ったり学校のタブレットで調べものをしたりしてもいいのですから、試験監督がカンニングを見張るなんてこともありません。与えられるテーマが各教科に連動するのでしょうから、自分の得意教科に連動するテーマを選択して、楽しくそして深く調べていくことでしょう。求められていることは「習ったことを覚えて、できるようにする練習をたくさん積む」ではなく「普段から自分にとって興味関心があることを、どれだけ自学自習しているか」ですので、本当に塾泣かせの入試システムです。模試の偏差値なんてアテになりません。

日本大学豊山女子中学校 H28 思考力型入試試験内容 (日大豊山女子中学校HPより)

所要時間 5~10分 60~90分
内容
4. 発表
受験生1名、試験官2名で行います。はじめに、まとめた内容について試験官に発表します。
発表が終わった後、試験官がテーマを選んだ理由や考え等を聞きます。
※「自分の言葉で、論理的に話すことができたか」
「根拠となることが客観的な事実に基づいているか」
「幅広い視野を持って物事を見ているか」がポイントとなります。
1. テーマ決定
与えられたテーマの中から、興味のあるものを一つ選び、発表する方針(立場や組み立て)を決めます。
2. 情報収集
選んだテーマについて、本校図書館の本や、タブレット(本校のものを使用します)で様々な情報を集めます。
3.まとめ作業
集めた情報から、考えの根拠になるものを探し、それらと考えを関連付けながらまとめていきます。
まとめは、文章や絵、図や表などを用いて1枚の用紙に仕上げます。
※まとめが完成した受験生から順に「4. 発表」に移ります。
制限時間内にまとめが完成すれば、かかった時間の長短は評価の対象とはなりません。

 日大豊山女子中学校のHPには、受験生にむけてこんなメッセージが掲載されています。
 「学習することの始まりは、なぜだろう? どうしてそうなるのだろう? 不思議だな? などという疑問や興味、関心を持つことです。その疑問を書籍や新聞など様々なものを利用して調べ、自分の意見や考えを人に伝える力が必要です」
 この試験での募集人員は20名(入試は2回行われる)で、まだまだ従来型の試験での募集人員のほうが多いのですが、こうした試験内容の入試を導入することで「どんな生徒に来てもらいたいか、どんな資質を伸ばしていきたいか」というメッセージは強く伝わってきます。ちなみに、出願手続きから入学手続きまですべてwebで行うことになっていますので、保護者にとってはこちらのハードルのほうが高いかもしれません……。
 次に紹介するのは、東京にある聖学院中学校です。この学校は他校に先駆けて「思考力入試」を取り入れたことで近年人気が高まっているのですが、2016年度の試験では「レゴブロック」を取り入れるユニークさが話題となりました。レゴブロックを企業研修に取り入れるメソッドはすでに開発されているとのことで、その理論を小学生向けに活用しているそうです。その中身が気になりますよね。     

聖学院中学校 2016年度ものづくり思考力入試問題 (聖学院中学校HPより)

問1 問2 問3
自分が得意なことをブロックで表現し、説明文を書く(150字程度)。 ある国の気候、月別の降水量、米の生産量、日本の国別米の輸入量を元に、その国の問題点を考え、ブロックで解決策を表現。その説明文を書く(150 字程度)。別途図表あり 右記2つの作品をあわせて自分がその解決策にどう関われるかを表現し説明文を書く(150字程度)。

 この問題の面白いところは、問1と問2を関連づけしなければならないところです。問1だけを見れば小学1年生や2年生でもできますが、問2はある国の「農業問題」に関する解決策の表現ですから、問3まで視野に入れると、その構成は大人でも難しいものになります。また、ブロックで表現したものに関する説明が必要ですから、「考えながら作る」という経験をしたことのない子どもにとっては、そのハードルはおそらく低いものではないはずです。HPには受験生の解答例が紹介されていて、その発想には驚かされるものがあります。問2で「脱出船」を作った受験生の作品と問1~問3までの解答は、ちょっと大人には想像しにくいものですし、私の時代ならば「真面目にやれ!」と怒られてしまう ものかもしれません。それを解答例として認めて掲載する学校側の許容力に、この試験の面白さと可能性を感じました。

 とはいえ、現実には「思考力型入試」が本当に市民権を得るのはまだまだ先のこととなるでしょう。現在小学4年生・5年生のお子さまのほとんどが「他人事の世界」で終わってしまう話だと思います。この手の入試を行う学校でも大半の生徒は「従来型の入試」で合格を勝ち取っているのですから。しかしながら、10年、20年というスパンでお子さまの将来を考えると、12歳の段階で試しておく必要はないとしても、小学生・中学生の間に磨いておきたい「新しい資質」が登場していることをキチンと頭に入れ、普段の作文講座とあわせて、適切な時期に適切な経験を積ませてあげることが保護者の役割として加わり始めているのかもしれません。     

vol.106 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2017年2月号掲載

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