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Vol.137 公立中高一貫校誕生から20 年、現在の姿と今後

 公立中高一貫校は、宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校が開校した1999年から20年の歴史を刻んできました。その人気は安定していて、特に首都圏では、今春(2019年)、大宮国際中等教育学校が開校し、茨城県では2020年から2022年にかけて中高一貫校を10校(県立高校に併設は9校)増設することが発表されるなど、その需要は高まるばかりです。今回は、中学進学時の進路として定着した公立中高一貫校の現状についてまとめていきます。

公立中高一貫校には2種類ある

 公立中高一貫校には「中等教育学校」と「併設型」の2種類があります。中等教育学校は、中学と高校を分けずに6年一貫の教育を行い、高校入試を行わないので途中から入学する者はいません。併設型は高校入試が行われるので、高1で新規の入学者を迎えます。茨城県では県内有数の進学校である県立水戸一高と土浦一高に今後中学校を併設する予定で、千葉県では2008年から県内トップの県立千葉高に、2016年には県立東葛飾高に中学校を併設済みです。
 東京都には公立中高一貫校が11校(都立10校、区立1校)あり、都立の10校は中等教育学校が5校、併設型が5校の内訳となっていますが、併設型の5校は2021年から順次高校入試を停止して完全中高一貫に移行することが決まっています。その理由は、都内公立中学生および保護者に対する意識調査結果から推測できます。調査結果によると、併設型の都立高校を志望した回答者の割合は都内公立中学生の3・5%、都内公立中学校保護者の1・5%と大変低いものでした。下の表をご覧いただくと、併設型の中高一貫校が中学生とその保護者に敬遠されている理由が見てとれます。

併設型中高一貫校である都立高校を志望しない理由

 こうした理由からは「公立中高一貫に通うなら中学から」という指向が読み取れますが、皆さまのお考えはいかがでしょうか。この指向が東京特有のものでなければ、将来的には全国の併設型公立中高一貫校でも「募集停止」が起こりうるかもしれません。特に保護者の半数以上が選んだ「附属中学から入学するからこそメリットがある」という回答は重いもので、中学生の親だからこそ見えることがあるのでしょう。具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。

公立中高一貫校のメリットって何だろう

 誰もが考える最大のメリットは「公立でありながら、高校入試を経ずに高校へ進学できる」ことでしょう。高校受験がない分、カリキュラム編成や時間の使い方にゆとりができることは事実です。
 都立中高一貫校については、中等教育学校5校中4校、併設型5校中2校が「高校段階の指導内容の一部を中学校段階へ移行」を実施していることが報告されています(併設型2校は、高校段階で再度履修する)。高校段階の学習内容の一部を発展的学習として中学校段階で扱っている学校もあり、「中学校段階で高校段階の学習内容は扱わない」としているのは10校中1校(併設型)しかありません。
 その分、補習や補講が実施されたり宿題も多くなったりと、受験勉強に励んでいた小6時代よりも学習時間が多くなったと感じる生徒もいるようです。
 また、いわゆる「中だるみ」が心配されますが、多くの私立中高一貫校が「中だるみ」を防ぐための中間目標として英検取得を掲げているのと同様に、都立中高一貫校でも力を入れているようです。実用英語技能検定(英検)の取得状況が公表されていますので、全国平均と比べてみます。

英検3級以上実取得率・英検2級以上実取得率

 力の入れ方は数値を見れば一目瞭然です。都立中高一貫校(10校)では、中学3年段階で全体の6割近い生徒がすでに英検準2級以上を取得していることにご注目ください。データによると未受験の生徒も16%弱いるため、中3段階で英検3級~5級の取得に留まっている者は26・5%(およそ4人に1人)しかおらず、実取得率について全国平均を大きく上回っていることがわかります。
 高1になると併設型の5校に高校入試組が合流するため準2級以上の取得率が伸びていませんが、中等教育学校(途中入学者がいない)5校に限れば3人に2人が高1段階で準2級以上を取得している高い水準にあります。
 英語は英検を軸として強化を目指し、前述の「高校内容を中学で学ぶカリキュラム編成」を数学や社会を中心に行っているのが、都立中高一貫校の特徴です。また、探究活動やキャリア教育にも力を入れているので、特に中学校時代の3年間は体力面で疲れてしまう一面がありながらも密度の濃い毎日を送れることでしょう。

 仕事柄、保護者の方から中学受験に関する相談を受ける機会があるのですが、ここ数年は「公立中高一貫校だけを志望する」というご家庭が減った実感があります。10年ほど前だと「私立受験ほどにガツガツやらせず、お金もかけず、入学できたらラッキー」という考えのご家庭が一定数ありましたが、最近は「公立中高一貫が第一志望であっても私立中学を併願する」というケースがほとんどです。
 公立中高一貫校が誕生してから20年、その取り組みや目指すもの、そして大学合格実績も広く知られるようになったことで、学校選びにおいて「公立中高一貫ってどうなの?」という声も聞かなくなりましたし、「公立か私立か」ではなく中高一貫6年間の教育そのものに魅力を感じて学校を探し、その中身を丁寧に調べているご家庭が増えた印象を強く持っています。どの学校もまだまだ試行錯誤をくり返していて発展途上ですから、今後起こるであろうさまざまな変化に注目してください。

vol.137 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2019年9月号掲載

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