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Vol.29 これから重要性を増す「キャリア教育」を考える

 

 最近ニュースなどで「大学生の就職活動事情」がよく取り上げられているようです。ニュースを見るたびに妻が「ウチの高校生は大丈夫なのかしら?」と心配しながら私に話題を投げかけてくるからです。話を聞いてみると、妻の不安が「景気動向に伴う内定率の低下」といった表面的なものではなく、「求められる人材の質が明らかに変わっているように感じる」ことだとわかってきました。我が家内のことは別としても、妻が感じるこの不安はある部分では「日本の先行きそのもの」とも考えることができるのではないでしょうか。特に小学生をお持ちのご家庭では、今のうちに親子でこうした「10年後、20年後の日本がどうなるのか」といったテーマについて話し合っておくべきことをお勧めします。これは、これまで「キャリア教育」というくくりの中では軽視されてきた部分だからです。

日本国外での採用強化

 いろいろな情報を集めてみると、今年(2010年)は企業の新卒採用に関して「分岐点」になるかもしれません。国内だけでなく海外にも拠点を持つ企業の中に「日本国外での採用を強化する」動きが出始めているからです。そういった企業は三菱重工からユニクロまで様々ですが、特にパナソニックは来年度採用予定1390人のうち1100人を海外で採用し、日本国内の290人についても留学生を積極的に採用するとのことで、欲しいのは「世界を舞台に常に挑戦し続ける姿勢と、尖った個性や能力を持つ人材」だそうです。また、「均質的な人材を採用するつもりはありません」とホームページには明記されています。これらは「リクルートスーツとマニュアル通りの面接準備」に力を入れる、世の中にあふれる一般的な大学生に対する挑戦状とも受け取ることができます。
 楽天では「社内公用語を英語にする」との方針が発表されています。社長のインタビューをTVで見ましたが、「日本語文化の会社には英語を使う世界中の優秀な人材が入ってくれないから」とのことでした。個々の企業の方針に対する是非について語る気はありませんが、20年前の自分が今の時代を生きていたら「就職なんてできそうにない」ということだけは、はっきりと断言できるような気がします。
 企業の生き残りのためには、少子高齢化が進む日本国内だけを商圏にしていては先細りですから、中国をはじめとする新興国への進出が不可欠なのでしょう。そうなれば、コストの高い日本人を大量に採用し続ける必要はなくなります。日本人の採用枠は「幹部候補の本当に優秀な学生だけ」とし、後は各地の優秀でコストの安い若者たちを採用すれば事足りることでしょう。
 つまり、日本の多くの大学生にとっては、そう遠くない将来に「就職活動時のライバルはアジア全域の優秀な学生たち」ということになってしまうことが予想されるのです。

 

必要なのは異なる考え・価値観を理解しあう力

 こうした時代に必要とされるスキルを考えてみます。「英語や中国語が自由自在に使える」ことは前提になりそうですが、それ以外に重要視されるのが「コミュニケーション能力」です。これまで日本の中では当然のように通用してきた文化や慣習も、これからは常識ではなくなります。その分「価値感が異なる様々な人材をコーディネートしてチームとしてまとめる能力」が、リーダーには当然求められるようになるでしょう。
 そのためには、まず自分の考えや主張を常に持ち、自分と異なる考え・価値観の仲間や顧客を受け入れながら仕事を進めていく姿勢・習慣が求められます。積極性はもちろんのこと、提案型の仕事を進めるためのプレゼン力(表現力)、チームをまとめるためのコミュニケーション力や課題対応力も必要です。
 ところが残念ながら、今の日本の学校では、小学校であれ中学校であれ高校であれ、このような「今後必要とされる能力を磨くシステム」は構築されていません。これまで日本で行われている「キャリア教育」のほとんどは、「進路選択」だったり「仕事調べ」だったりと、「社会のことを知ろう」という点に重点が置かれてきました。特に高校の普通科が予備校化している状況の中では「とにかく点数を取ってよい大学に行くこと」が第一義とされている部分があって、「社会から求められる人材の育成」は手付かずになっているのが現実です。
 むしろ「空気を読む」という言葉の通り、子どもたちは学校を中心とする彼らの生活圏の中で、違う価値観を排除しようとしたり自分の考えを主張せずにその場に合わせようとしたりすることばかりを、無意識のうちに学んでいるような気がしてならないのです。これらは彼らが将来求められるスキルとは真逆の事象としか私には思えないのです。

 

真の国語力が日本の未来をつくる

    

 「10年後、20年後の日本がどうなるのか」について考えるというのは、小学生にとってはかなり難しいことかもしれません。しかしながら、これから日本の企業が生き残りを賭けて目指そうとしている方向性、子どもたちが近い将来に置かれるであろう厳しい競争について、あえて普段からご家庭で話題にすることこそ、今の子どもたちにとって本当に必要な「キャリア教育」だと私は思います。
 「自分の考えを書いたり話したりして表現すること」が必要とされる理由を、「国語の得点のため」ではなく「未来を生き抜くため」と根拠を持って話せる子どもが一人でも二人でも増えないと、本当に日本が滅びるような気がしてならないのです。     

 

vol.29 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2010年 8月号掲載

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