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Vol.3 学習指導要領の改訂から見えること(下)

 

 現行の学習指導要領では、その理念として「生きる力」をはぐくむことが挙げられています。「生きる力」とは『いかに社会が変化しようと、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力』のことで、この理念は新しい学習指導要領に引き継がれます。この理念の導入こそが学力低下の原因であるかのように見ている人も少なくないのですが、前回も紹介した論理的思考力・表現力・発想力といった「21世紀型の学力」養成につながるこの理念自体は、決して否定されるべきものではありません。
 今回は「生きる力」をとりまく状況について考えながら、「21世紀型の学力」を身につけるヒントを探りたいと思います。

「読解力」でみる「21世紀型の学力」

 例えば「読解力」で考えてみましょう。私が子どもの頃受けていた国語の授業は、教科書の文章を何時間もかけてじっくり読んでいく精読型でした。その中で「主人公の気持ち」をとらえたり、「文章中の『それ』が何を指すのか」を考えたりすることが学習の中心だったと記憶しています。このスタイルでは設問に対する模範解答が決まっていて、勘のいい子だと「あぁ、出題者はこのように答えてほしいのだな」と察することが可能です。「自分の考えをまとめて表現する」ことより「作者・出題者の意図を把握する」ことが勉強の中心とされていたのです。これは文学的鑑賞という範囲には、ある程度あてはまっているのかもしれませんが、「生きる力」あるいは「21世紀型の学力」養成に適しているかといえば、必ずしも二重丸をつけられるものではないようです。
 
 この「21世紀型の学力」を測るひとつの指標として、「OECDによる国際的な生徒の学力到達度調査(PISA)」があります。日本は第1回の調査から参加していますが、回を重ねるごとに順位を落としており、学力低下の象徴・根拠として大きく報道されました。この調査で測られる「PISA型の読解力」とは、文章の読み込みだけではなく、図・表・写真といった資料から自分で情報を読み取り、自分の考えをまとめて書く力を指し、「21世紀型の学力」の目指すものに近いと考えられます。
 このPISA型の読解力を「21世紀の学力」と呼ぶのであれば、少なくとも従来の学習スタイルでは、学力を定着させることは難しいと言わざるを得ません。国はこの学力を必要としたからこそ、指導要領を改訂してでも学習スタイルを変えようとしているわけです。ところが現場の先生の多くは、この種の読解力を伸ばす授業を受けてきていないため、「どうすれば伸ばすことができるのか」が見えず、手探り状態で授業を進めざるを得なかったのではないでしょうか。これが現場(教室)の混乱を招き、保護者が学校教育に不信感を募らせてきた背景ではないかと考えられるのです。


大学生と「21世紀型の学力」

 では、どうすれば「21世紀型の学力」が身につくのでしょうか。私は、保護者や先生等、子どもに接する大人たちが、「多面的に物事を見る習慣」を意識し、子どもに繰り返し伝えていくしかないと考えています。
 具体的な例を挙げましょう。近年、大学生を指導する先生で「提出されるレポートの質の低下」を嘆く人が多くなっているそうです。かつては図書館にこもって文献を探すところから始めていたものが、今ではインターネットを使って検索すれば大抵の情報が得られるからです。そして先生たちが嘆く一番の問題は、検索する行為そのものではなく「検索結果をそのまま貼り付ける」ことなのです。ネット上で拾える情報のすべてが正しいとは限らないのに「真偽の検証もしない」、レポートである以上自分の意見や考えを加味すべきなのに「情報の加工もしない」、こうした薄っぺらな内容のレポートを平気で提出する学生が急激に増えているそうです。
 この話を聞く限り、こうした大学生に「21世紀型の学力」が身についているかは、疑問です。勝手な推測ですが、これは特定の大学の話ではなく日本のほとんどの大学で起こっているであろう憂慮すべき問題だと思います。


「21世紀型の学力」を身につけるには

 こうした危機感の広がりを示すひとつの根拠として、中学入試はもちろん高校や大学入試、そして入社試験でも、算数・数学の分野において「パズルのような問題」の出題例が急激に増えていることが挙げられます。「公式を覚えて、数値をあてはめて答えを出す」能力とは別の、「一方からだけでなく色々な方向から、自分自身で調べ見て考える」能力、つまり前述の「多面的に物事を見る習慣」を試そうとする傾向は、学校や企業が「レポートの質」と同様の危機感を抱いているからに他ならないのです。今年の東京大学の入試問題(数学)で、受験生を悩ませたと評判の問題は「正八面体のひとつの面を下にして水平な台の上に置く。この八面体を真上から見た図(平面図)を描け」というものでした。計算も論証もいらない、ただ図を描く問題です。
 「21世紀型の学力」を身につけるヒントは、この問題にどう対応するか、という出題意図に隠されているような気がします。


vol.3 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2008年 6月号掲載

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