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Vol.30 高校が育てるべきは“エリート”か“リーダー”か

 

 先月の記事で、「今の日本の学校では『これからの日本に求められる能力を磨くシステム』は構築されていない」ということを書きました。最近の報道においても「公立高校の予備校化」が急激に進んでいることにスポットが当てられています。皆さんは、高校が育成すべき人材についてどのようにお考えですか。高校の役割は「高学歴エリート育成」であるべきでしょうか、それとも「21世紀の日本を各方面で支えるリーダー育成」であるべきでしょうか。20年後、30年後の日本を背負って立つ子どもたちが、今どのように育てられようとしているのかを、今回は紹介していきたいと思います。

変わる公立高校

 4月のことですが、埼玉県の公立高校の中から「進学重点校」として11校が指定されたとの報道がありました。埼玉県内の高校は、難関大合格に必要なセンター試験での高得点者の割合が47都道府県で最下位に近い状況にあるとされています。
 そのため県では、県内高校生の学力低下には「指導する側」の問題も大きいと考え、学力向上対策に乗り出しました。選ばれた11校では、授業改善や補習授業に取り組むことはもちろん、授業の相互見学や、進学補習・合宿の合同開催なども行うそうです。
 さらに、県立高校生全体の学力底上げに向け、東京大学と連携し、新教材の開発などに取り組むことも始めるそうです。東京大学には例えば、国語・数学・英語3教科について、生徒の学習意欲を引き出す「埼玉版教材」作成協力や、授業改善の先頭に立てる教員を養成するプログラムの開発を依頼するようです。

 

「浦西難関大倶楽部」

 より具体的な報道もありました。今回進学重点校に指定された浦和西高校では、難関大志望の生徒を集めて「浦西難関大倶楽部(参加生徒は新2・3年生の86人)」を発足させたそうです。
主な内容は、
・校内の自習室を午前7時半から午後7時半まで開放し、年2000時間を目標に自習にあたらせる。
・教員が自習時間数をチェックし、不十分な生徒は退会させる。
・大手予備校からの講師派遣も行い、難関大に合格する勉強のポイントなどを指導してもらう。
となっていました。これを見る限り、私のイメージする(かつての)公立高校とはかけ離れた、私立高校と変わらないサービスぶりです。皆さんはこのシステムをどのように思われますか。

 

公立高校の“エリート”育成

    

 公立高校における「進学重点校」制度は、東京都が初めて導入したものです。全国的にも有名な日比谷高校が、平成5年度に東大合格者が1名になってしまうほど凋落してしまったことを受けて、平成13年からスタートしました。高校入試において公立でありながら「独自の入試問題」で選抜を行うことを始めたのも東京都。日比谷高校が最初です。日比谷高校では、今春の東大合格者が37人まで増えており、大学合格実績をきっかけに公立高校の復権を実現するための最前線を走っているのです。
 日比谷高校の前校長(平成13年当時の校長)は、新聞のインタビューに対して、
・「東大に何人」の話題は日比谷の宿命と感じた。
・着実に進学実績を上げることが生徒の期待に応えること。
と答えています。
 もちろん日比谷高校の古き良き伝統は保たれていると思いますが、公立トップ校がこの路線をとってしまうと、それに続く2番手・3番手の高校も「予備校化路線」を取らざるをえなくなります。生徒の資質が下がれば下がるほど「より勉強の量を増やして成績を上げる」指導が行われるのは自然なことですから、これでは先月紹介した「キャリア教育」などやっている暇は無さそうですね。     


本人の資質を引き出す“リーダー”の育成

    

 それに対して、東大合格者数が毎年1位となる私立開成中学・高校の校長は、学校での教育を例にあげながら「リーダー力をどう育てるか」という講演を、最近されています。校長は、教育の目標を「本人の固有の資質を十分に引き出すことで、それが本人の幸せにつながる。その資質を発揮することで、世の中に寄与するようになってもらうこと」と語っており、大学合格実績にこだわる公立高校とは、発するメッセージの質において一線を画す姿勢を見せています。世間的には「開成=ガリ勉」というイメージもありますから、「ちょっと意外」という感じもしますが。
 校長は、生徒たちに対して、
・何事においても、人のせいにしない自分になれたかどうか、自問しなさい。
・周りの人と比較するのではなく、人よりはるかに突き抜けなさい。
・いい成績をとったということは、根源的にはあまり意味がない。いかに多くの準備をしたかが大事。
ということを指導されているそうです。そして、保護者に対しては、
・「将来に関係ないからやめなさい」というフィルターをかけるのは、その子を大きくすることにはならない。
と発言されたとのことです。
 私は、この保護者に向けた発言こそ、「“エリート”育成」と「“リーダー”育成」の違いをハッキリと表わしているものだと強く思います。

 先月も書きましたが、これからの日本において求められる人材は“リーダー”です。高学歴の“エリート”を養成する教育からは“リーダー”は生まれにくいですが、“リーダー”を養成する教育は、結果として“エリート”を生む可能性があります。一般に受験校選びでは「合格実績」「設備」「制服」といった、わかりやすい部分に目がいきがちですが、公立高校の予備校化が進むにつれ、これからは学校側の「人材育成ビジョン」にも注目する必要を、私は感じます。     

 

vol.30 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2010年 9月号掲載

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