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Vol.64 高校はどこまで「国際人育成への意識」を持っているのか
日本から海外への留学者が減り続けているといいます。2010年に海外留学した日本人の数は、04年に比べておよそ7割まで落ち込み(文部科学省集計)、海外に出たくないと考える学生のことを指す「内向き志向」という言葉も、報道などでよく耳にするようになりました。
現在の小中学生が社会人になる頃には、英語が話せることはもちろんのこと、仕事では海外で勤務することに戸惑いを感じている余裕はなさそうです。教育現場は時代の流れに追いついていけるのでしょうか。今回は、文部科学省が発表したいくつかのデータを紹介しながら、高校の持つ「国際人育成への意識」をのぞいてみることにします。
外国への修学旅行と研修旅行について
高校の修学旅行で海外に行くというケースが珍しかったのは20年前の話。平成12年度にはおよそ20万人もの高校生が修学旅行で海外体験をしていました。しかしこのときをピークとして参加者はその後伸びず、23年度には前回調査(平成20年)に比べても約16%減少し、約15万人まで落ちています。参加校数も10%以上の減少となっているため、その原因を少子化のせいにするのは難しそうです。
その一方で、2~3週間を中心として長いケースでは1~2か月の期間で行われる研修旅行は、およそ3万人が参加しており前回調査より約10%増加しているのです。海外研修旅行を行っている高校数はすでに海外修学旅行実施校の数を上回っていて、高校側が考える海外派遣の目的が「語学研修や国際交流をしっかりやらせたい」と明確に変わってきていることがわかります。研修旅行であれば、現地でホームステイをしたり高校に通ったりできますから一定の効果が期待できるのかもしれません。
高校生の留学事情
高校の「国際人育成への意識」が最も試されるのは、生徒の海外留学(3か月以上)への理解です。海外に留学した高校生数は、前回調査より2%ほど微増した3257人でした。その内訳を表1のように時系列で見ていくと、はっきりとした傾向が見てとれます。
表1 派遣学校数(校)・生徒数(人)の推移
平成4年 | 平成12年 | 平成20年 | 平成24年 | |
公立学校数 | 1,496 | 1,347 | 773 | 725 |
私立学校数 | 839 | 1,024 | 854 | 910 |
公立生徒数 | 2,434 | 1,915 | 990 | 918 |
私立生徒数 | 2,053 | 2,443 | 2,200 | 2,308 |
「急激減少の公立」「横ばいの私立」の構図が明確です。この数値だけをみて「公立高校には国際人育成への意識がなくなっている」と語るには無理がありますが、「子どもを高校生のうちに留学させたい」と考える保護者にとっては、進学先を決める際に「留学に対する高校の理解」を事前に確認しておく必要がありそうです。
留学期間は「6か月以上12か月以下」が公立・私立ともに最も多くなっています。保護者にとって一番の心配はおそらく「成績・進級」の扱いだと思いますが、高校を休学して留学した生徒は約24%、退学した生徒は約1%とのことです。残りの75%は高校から「留学」と認定を受けた上で海外に渡っています。認定した高校のうち82%が、生徒の外国における履修を国内の高校における履修とみなし、単位認定してくれています。
高校生の留学に対する意識
次に、高校生50万人から有効回答を得ている「留学に対する意識」の調査結果を紹介します。
母集団の数に差があるとはいえ、留学に対する意欲の差は高校種別ごとにはっきりしています(表2)。ところが「留学したいと思わない」と答えた生徒の理由については、学校種別による大きな差がつきませんでした(表3)。
表2 将来の留学の希望有無
留学したい | 留学したいと思わない | |
全体 | 42% | 58% |
公立 | 39% | 61% |
私立 | 51% | 49% |
国立 | 63% | 37% |
表3 留学したくない理由(複数回答)
言葉の壁 |
56.0% |
経済的に厳しい |
37.9% |
留学方法・外国での生活・勉強・友達関係の不安 |
33.6% |
魅力を感じない |
32.3% |
帰国後の学校生活や進路の不安 |
12.7% |
親元を離れたくない |
8.3% |
その一方で、学校種別ごとに大きな差がついている「留学したらやりたいこと」(表4)に目を向けると、
表4 留学したらやりたいこと(留学したいと答えた人のみ:複数回答)
語学力を向上させたい | 外国の人と友達になりたい | 外国の文化・スポーツ・歴史・自然などに触れたい | 外国での生活や勉強に関心がある | |
全体 | 61% | 55% | 51% | 30% |
公立 | 59% | 54% | 51% | 28% |
私立 | 67% | 58% | 51% | 34% |
国立 | 80% | 63% | 59% | 45% |
といった「前向きなチャレンジ精神の差」が見てとれます。特に「言葉」に対するチャレンジの姿勢は、小中学生時代からの積み重ねですから注意が必要です。
就職に際して「語学力」「海外勤務」は今後ますますキーワードとなることでしょう。今後の日本社会全体が必要としているものであり、就職する際には評価の対象となる可能性がありますから、「子どもが社会人になれるのか」という心配をされる保護者は一層増えていくはずです。
今回紹介したデータからは、保護者のこうした心配を「高校に解決してもらうには無理がある」ことがわかります。多くの高校生が受験勉強に終始して広い視野を持てず、高校時代に感じた「言葉の壁」を克服しないまま就職活動の時期を迎えます。よく言われる「内向き志向」の原点が、実は中学高校時代にあることをしっかりと理解して、どうかお子さまに対して「国際人としての視野を持つこと」も少しずつ意識させてあげてください。たとえ高校で動機付けをしてくれなかったとしても、それを誰かのせいにはせずご家庭で「国際人育成の意識」を持ち、留学するしないにかかわらず「向上心」を育てることの大切さが今後クローズアップされそうです。国内であっても「国際交流する機会」を自ら求める姿勢ならば、いくらでも育てることができるはずですから。
資料:平成23年度高等学校等における国際交流等の状況について(文部科学省)
vol.64 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2013年 7月号掲載