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Vol.79 大手予備校の校舎閉鎖が教えてくれる「子どもたちの気質の変化」

 

 8月のある日、全国的に知られた大手予備校の大規模な校舎閉鎖に関する報道がかけめぐりました。一般的には「少子化」「受験人口の減少」といった理由が挙げられますが、私は「子どもたちの気質の変化」を見誤ったことが原因だろうと強く思うのです。予備校のピーク時から30年余りで、子どもたちにどのような変化が起こったのでしょうか。

30年前から現在まで、予備校を通して見る「子どもたちの学習環境の変化」

 今から30~ 20年前の予備校といえば「浪人生が通うところ」という認識が一般的でした。始発電車に乗って予備校の開室まで並び、教室の最前列の座席をとろうとする予備校生が多かった時代の話です。浪人という選択はもちろんのこと、予備校における学習環境に至るまで、当時の予備校生は「我慢・忍耐」が当たり前のことだったのです。予備校側にとってみれば「自分たちの提供するシステムに合わせてくれる生徒」だけと付き合っているだけで十分に経営が成り立つ時代でした。その流れが変わってきたのは、およそ20年前からでしょうか。
 ちょうどその頃、今回報道された予備校は当時運営していた「高校受験コース」から撤退し、次のような発言をされました。
 「中学生コースも、まだまだ100人教室ならばいっぱいにできるのですが残念です」
 当時は今ほど個別指導の塾に勢いはありませんでしたが、高校入試にも推薦が取り入れられることになり、内申も含めて「きめ細かく生徒を個々にケアする」ことが求められ始めた時期です。この段階でもこの予備校は、中学生を100人教室に押し込めて一斉授業するスタイルが世の中に受け入れられなくなっていることに気づいていませんでした。この生徒たちが高校生になり、大学生になる頃には予備校であっても「少人数制+細かいケア」が当然のように求められる時代が到来しました。
 ・ちゃんと自分のことを見てアドバイスしてほしい→大教室では授業に集中できないでしょうから少人数制にします
 ・部活が忙しいので自分のペースで勉強したい→個々の都合に合わせた受講ができるシステムにします。個別対応ができるようにします

 生徒たちのこんなニーズの変化にいち早く応えた予備校はこの頃上手に方向転換しているのです。
 かつて浪人生に「自分たちのシステムに合わせる」ことを強いていた予備校が胡坐をかいていられなくなったこと、これこそが子どもたちを取り巻く環境にとっての最大の変化だったのです。経営面から見れば経費のかからない、「大人数を集めて一斉授業」という従来通りのスタイルを続けたいことはわかりますが、ピーク時から20年余りの歳月を経て、とうとうこのシステムが崩壊しつつあります。
 そして、今年になって急激に認知度が上がってきた「映像教材」は、さらなる変化をもたらす「究極の個別対応」というところでしょうか。こうした変化は、サービスを受ける側(特に保護者)にとっては歓迎すべきことなのですが、残念ながら肝心の子どもたちにとっては必ずしもメリットばかりとはいえないのです。

 

“個別指導”がもたらした「子どもたちの学習環境の変化」

 こうした世の中の流れと、特に私自身が塾講師として子どもたちに向き合った20年余りの実体験を重ね合わせてみると、明らかに子どもたちの「勉強への取り組み方」が変わりました。簡単に言えば「安易に正解を求めようとする姿勢」が強くなったということです。予備校や塾が個々のニーズに応えようとすればするほど、現場では「子どもたちの疑問をすぐに解消してあげること」が求められます。小学生の例で紹介すると、算数の文章題で「これはかけ算で解くの? 割り算で解くの?」という質問に、個別指導では「これは割り算ね」とすぐに方針を見せてあげることが子どもたちにとっての「よいサービス」となる場合があります。我々から見ると「そういう解き方の問題じゃなくて、よく問題文を読んで考えてみよう」というやりとりが必要な場面ではありますが、子どもの側から「説明はいいから、とにかく最短・最適な解き方を教えて」というニーズがあれば、それを拒否することはできません。むしろ講師側の「よかれと思って」の丁寧な説明が、「さっさと質問に答えてくれない」とかえって不信感を招くケースもあるほどです。
 このような「お手軽な問題解決」が習慣になっていればいるほど、学校での勉強が退屈でわかりにくいものに感じられてしまいます。こうした子どもたちが中学・高校生になると、公式や定理について「証明はいいから、とにかく結論だけ教えてよ。それを覚えてあてはめれば答えが出るんでしょ」という考え方で勉強を進めるようになります。これでは成績が伸びるはずがありません。特に中高一貫校に通う生徒の場合には、途中に高校受験というハードルがありませんから「定期テスト前に暗記をしてとりあえず乗り切り、テストが終わったら忘れてしまう」という勉強に終始するケースが少なくありません。このような勉強に対する姿勢は、少なくとも算数・数学についてメリットは全くないのです。

解き方を入手できる時代だからこそ「考え抜く習慣」を身につけたい

 30年前のような「勉強する者には我慢・忍耐が当たり前」という習慣を美化するつもりは全くありませんが、今の子どもたちは「待つことができません」。算数の問題一つをとっても「自分で試行錯誤して調べる、もしかしたらうまくいかないかもしれないけれど仮説を立ててチャレンジする」ことを嫌がる傾向があります。マルなのかバツなのかわからない状態で手を動かし続けることをとても嫌がる、という言い方のほうが適切なのかもしれません。「わからない」という状態で居続けることに拒否反応があるのか、それとも「自分はできている、という環境に身を置いておきたい」という気持ちが強いのか、私にも見えていない部分がありますが、場面場面での最適な選択(正解)を自分で考えずに他人に聞きたがる(+失敗したときの責任を負わせる)傾向が年々強くなっているように、見えてなりません。
 高校で教えている同業の友人が、最近こんなことを言っていました。「ここ数年、高校生の机上には電子辞書が置いてあって、不明なことがあれば授業中であってもすぐに検索して調べる子が多かった。そしてついに今年、授業中にスマホで検索し始める子、登録している映像教材で情報の裏付けを取る子が出始めたよ。もう個別指導もいらなくなるかもしれない。彼らにとってスマホは勉強面でも羅針盤になりつつある」と。これまで以上に「お手軽な問題解決」が可能になる時代だからこそ、小学生の間に「試行錯誤しながら考え抜く習慣」を身につけておきたいものです。そのためには「わからないこと」を解決する過程を「楽しむ」やりとりがご家庭で必要なのかもしれません。その楽しさこそが勉強の本質ではないでしょうか。

vol.79 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2014年 11月号掲載

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