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Vol.85 公立中高一貫校の出題内容を覗いてみよう

 

 いきなりですが皆さんは「うるう年の定め方」についてお子さまに説明することができますか?「4年に1回2月29日を作るのよ」といった結論ではなく、うるう年を設けなければならない理由とセットでの説明です。ましてやこれが「公立中高一貫校の受検問題」だとしたら、ご自身が受検生だと仮定したときに冷静さを失わずに解き進めることができるでしょうか?

多くの保護者が青ざめたうるう年の問題

 実は、今春行われた東京都立の公立中高一貫校の受検において、共通作成問題(どこの学校を受検していても共通に解答する問題)として、うるう年が取り上げられました。
 先生と二人の生徒との間で進む会話形式の設問で、東京オリンピックが行われる2020年がうるう年であるという話題から始まって、太郎君の「でも、どうしてうるう年は1年の日数が1日多いのかな?」という、受検生にとっては「うわ、余計なことを……」としか思えない疑問の提起によって、やりとりが本格化していくのです。
 まずは、理科で学習する「公転周期(惑星が太陽の周りを一周するのに要する日数)」をもとにしたうるう年のメカニズムの説明によって、地球におけるうるう年のルールが導かれます。地球の公転周期が正確には「365.24日」であるために生じてしまう、毎年0.24日ずつのずれを解消するために設けられたのが「うるう年」であること、その調整によって今度は逆に「25回のうるう年によって1日多くなってしまう」ので、100年ごとに1度だけうるう年をやめることになっている説明が続きます。
 とある塾の保護者会においてこの問題が紹介されている様子を見る機会があったのですが、B4版の紙にビッチリと書かれた会話形式の問題文を見た保護者の方々の、困惑した表情がとても印象的でした。そしてこの問題の面倒なところは、もう一人の生徒花子さんの「これは面白いわね。先生、うるう年の問題を何か出してくれませんか」という受検生泣かせのひと言でクライマックスを迎えます。太陽の周りを「2015.4日」で1周するという星を設定して、この星におけるうるう年の調整方法を説明させたり、火星の公転周期を紹介することによって「地球における1日と火星における1日」の違いを考えさせ、計算させたりする問題へと発展していくのです。

公立中高一貫校の問題の特徴とは

 都立中高一貫校における共通作成問題は、もちろんこの1題ではありません。このうるう年に関する問題は大問の一つにすぎず、他には「前回の東京オリンピックから現在に至るまでの人口や経済状況の変化を、グラフや表から読み取って答える」「水からものが飛び出す様子についての実験結果分析」があり、全部で大問を3題解かなければなりません。しかも実験結果分析に関する問題は、図が多いことも要因に挙げられますが、なんと5ページにわたる問題文を読み進める出題となっており、記述式解答の多さも加わって子どもたちに課されるスピードは大変速いものとなっています。もちろんこれに学校が独自作成した問題も解かなければならないのですから、かなりのトレーニングを積んでおかないと、集中力を維持させるだけでも大変であることが予想されます。
 このように、公立中高一貫校で出題される問題の多くは私立中学の入試問題とも異なる部分が多く、「その場で考え、表現する」部分が強調されています。いわゆる「解き方」のトレーニングを積むだけでは対応できない資質が問われ、問題の題材が日常生活の中から拾われているので普段からの「知的好奇心の差」が試験のできを左右するケースも少なくありません。

私立中学と公立中高一貫校 出題傾向の違い

  公立中高一貫校 私立中学校
内容 指導要領範囲内 指導要領範囲外も多い
解答 正答は一つに限らず
複数あることが多い
決まった正答がある
教科 教科横断型 算国理社の4教科が多い
出題傾向 極端な傾向はない 学校ごとに傾向が異なる

 今回紹介した「うるう年」の問題も、初見の人では大人子どもを問わずスラスラと解き進めることは難しいテーマでしょう。こうした例を探してみると、今年だけでもレコードを題材にして速さの計算をさせたり(レコードって何?という子どもも多いはず)、環境問題は当然のこととして「日本製品の販売拡大策」を考えさせたりする問題を出題する学校もありました。
 公立中高一貫校で問われる内容に対応するためには、大人でもやり込められてしまうくらいの読解力・表現力に加えて一定量の幅広い知識を持っていることも受検準備の前提条件なのかもしれません。

けっして楽ではない受検準備

 こうした事情もあって公立中高一貫校志望者に対しては、一部の難関私立中学受験志望者向けのような「学校別の傾向と対策」を事前に講じることにあまり意味がありません。子ども自身がこれまで学んできた知識とその場で発揮する観察力や思考力を用いて、問いに対して何を考え結論とするのか。大きく変わると言われている大学入試とほぼ同じ視点が、お子さまの小学校卒業段階ですでに要求されていることを、公立中高一貫校受検を考える保護者の方々は知っておく必要があります。
 5~6年前であれば、公立中高一貫を考える保護者の中には「私立中学に比べたときの受検準備に対するハードルの低さ」に魅力を感じる方も数多くいらっしゃいました。「公立中高一貫校であれば、私立受験ほどのハードな受験勉強は必要ないから」「公立中高一貫校のことはよく知らないけれど、公立中学に通わせるよりリスクが少ないと思って」といった声が、私にもよく聞こえてきたものです。
 しかしながら、その準備に要する手間の実状は今回紹介した問題の性質からもわかるとおり、決して楽なものではありません。自分の意見を書くということ一つをとっても、他の人の意見を聞くことによってはじめて得られる「こんな考え方もあるんだ」という気づきの有無が、論の進め方に影響を及ぼすことはいうまでもありません。ここでいう「他の人の意見」というのは、塾に通っている人を別にすれば、保護者が子どもと同じ条件で参加し考えた末の「私ならこう思うわ」が最も身近になりますから、保護者の負担も大きいものにならざるをえません。前述のような軽い動機では親子ともに受検準備が続けられないケースもあることを覚えておいてください。こうした事情が知れ渡ってきたからでしょうか、東京都の各学校の受検倍率は一時期のような2桁に達するような勢いは影をひそめ、昨年度と比べてもやや低下する傾向が見てとれるのです。公立中高一貫校の目指す路線とご家庭の方針が一致しているかどうかを点検する際には、まずは問題に目を通してみることをお勧めします。

vol.85 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2015年 5月号掲載

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