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Vol.91 大学入試改革の先に見える「子どもたちに求められる資質」

 

 私が見聞きする限り、という限定がつきますが、この1~2年、小学生の保護者向けの講演会や説明会などで演者の方が決まって使うフレーズに「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」というアメリカの大学教授の提言があります。激変する時代を生きる子どもたちに求められる資質について、我々保護者はどれほど理解ができているのでしょうか。

日々の学習でも、昭和時代と同じでよいはずがない

 私たち保護者が育ってきた時代は、もっとくだけていえば「バブル以前」であれば、世の中には「いい大学に入り、いい会社に就職すれば人生は安泰」という筋書きができていたものでした。ですから「人生の中で最も勉強したのは大学入試の時」という人も、我々保護者世代にはギリギリ存在することでしょう。ところが現在は、国内国外を問わず急激に世の中の構造が変化しているまっ最中。30年後どころか10年後、5年後の予測ですら難しい時代をこれからたくましく生き抜かなければならない小学生にとって、日々の学習で培われる学力、評価基準一つをとっても昭和と同じモデルでいいはずがありません。こんな先の見えない時代に求められる資質とは何なのか、現在たくさんの大人たちが全力で模索しています。そこで導かれた結論が「小中高と続く学校教育の中身を変えること」であり、これまで何十年間も日本に根付いてきた大学入試制度までも大幅に改革しなければならない、ということなのです。

いちばん大切な資質は「一生学び続ける姿勢」を身につけること

 それではこれから21世紀を生き抜く子どもたちにはどのような資質が求められるのでしょうか。早稲田大学の総長は、先日行われたシンポジウムの席上「今の小中学生は一生学び続けなければならない世代である。よって、彼らには高校までの間に『一生学び続ける』ことができるだけの土台を身につけておいてほしい」と発言されました。「一生学び続ける」というのは簡単な気もしますが、はたして具体的にどのような「学び」を続ける必要があるのでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。

(1)柔軟な思考力を持ち、変化を先取りできる個性と感性を磨き続ける

 例えば、企業で新商品や新サービスの開発を担当する仕事に従事しているという設定を想定してみてください。どんな業界でも流行の移り変わりは激しく、今年売れているものが来年売れるとは限らないことは想定しやすいことでしょう。ましてや急激な高齢化が進む日本国内においては、アイデアを出す自分自身に近い世代のことだけを想像して商品開発に挑むのは得策ではありません。自分とは異なるライフスタイルで生活する人のことまで想定し、消費者と呼ばれる人たちの従来とは異なる動向の変化を敏感に読み取ってはじめて、商品開発のスタートラインに立てるのではないでしょうか。
 そのためには、小学生時代からの準備が欠かせません。我々の時代のように、物事が予定通りに変化していく時代ではないのですから、単なる「解き方」「処理の仕方」を学ぶだけの勉強ではなく、「なぜ、どうして」と考える姿勢、つまり「自ら考える力」を早い時期から育てることが必要です。
 また、自分の予想通りに事が運ばない時、逆境に置かれた時の心の持ち方や対応の仕方にも慣れておきたいところです。いわゆる「挫折に弱い、打たれ弱い子」ではいけません。算数・数学の学習に重ねるとすれば、パターン通りの問題は解けるけれど、ちょっと条件が多くなったり複雑になったりすると「面倒くさい、全然わからない」と投げ出すタイプの子どもが要注意といったところでしょうか。「公式やテクニック」を知っていて使えることがゴールではなく、自分で条件を書き出して規則性を見つけられること、簡単に言えば「粘り強く取り組んで、すぐに泣き言を言わない」思考習慣を身につけることが必要なのです。

(2)「知的好奇心」を持ち続ける

 グローバル時代の到来によって、自分とは異なる文化や価値観を持つ人とのコミュニケーションも必要となります。自分が見聞しただけの世界観で論を組み立てるのではなく、常に新しい刺激を取り入れながら「成長し続ける自分」を楽しむような感覚を伸ばすには、小中学生の時期が最適でしょう。
 例えばグローバル時代の象徴である「英語」を例にとって考えてみます。私などは「グローバル人材=英語ペラペラ=英語を強化すればよい」などと短絡的に考えがちですが、実際に英語を教える人に聞いてみると、ほぼ全員が「英語が話せるだけじゃダメだよ」と同じことを言います。
 学校で学ぶ英語も「テストで点数が取れればOK」ではなく、「英語で何を伝えたいのか」を明確に意識した学習でなければ、これまで同様「実生活では何の役にも立たない英語」から進化できません。英語の学習を通して、自分とは異なる文化を持つ人たちに対しても通じる「論理力」と「伝える力」、多様性を受け入れる「広い視野」と「許容力」を育てるものに変わらざるを得ないのです。異文化の人を拒絶するなどもってのほかで、むしろ自分からコミュニケーションをとって理解しようとする習慣を育てることが求められているのです。
 ここで最も必要なのが、興味や関心といった「知的好奇心」です。国際的な人間関係を構築するためには、文化・歴史・芸術といった人間性や知性の根幹部分で共感を得られるような豊かな「教養力」も必要ですから、小中学生の間にこそ「一生学び続けることの大切さ」をきちんと教え、教室で行われる広く浅い勉強だけでなく、個々の興味に応じて特定の分野を深く掘り下げる思考習慣を身につけられるように、教育の質を変えていこうとしているのです。

(3)「人間関係力」を育て続ける

 グローバルと聞くと「語学力」「情報分析力」といった能力ばかりを想像しがちですが、むしろ対人関係を伴う仕事がより重要になり、広い意味での「人間関係力」「社会人力」の重要性が増すという意見も数多く聞かれます。これらは、ビジネスマナーや社会常識といったレベルではありません。常識や習慣も違う外国人の同僚とチームを組んで仕事をするわけですから「コミュニケーション能力」や「協調力」がないと人間関係が円滑になりません。リーダーシップを取らなければビジネスが成立しませんから「率先力」「統率力」といった 要素も強く求められています。
 だから大学入学時でも、小中高と続く学校現場でも、なんとかこのような「点数化できない力」を評価しようと試行錯誤しているところです。大学入試において「AO・推薦入試」の枠を拡げようとする動きは、この変化の延長線上にあるものなのです。
 しかしながら、志望理由書や面接・小論文で受験生の能力を多面的に評価することについては、評価基準のあいまいさを不安視する声があることも事実です。今言えることは、お子さまが18歳になる時に入試制度がどのように変わっていようとも、社会人となる時にはこの資質が求められることは間違いないということです。大学生になっていきなり鍛えるには無理がありますから、お子さまが小学生のうちから少しずつ育てておくことが「生涯学び続ける姿勢」に唯一つながっている道のように思えてなりません。
 21世紀の子どもたちに求められる資質のことを「サラリーマンになる準備ではなく、経営者・起業家になる準備をさせること」と言った人がいます。これから社会や学校がどこまで変化していくのか未知数ですが、「大学入試改革の中身にとらわれて準備に右往左往することのないよう、今から本質を理解した上で準備を始めておくこと」が、ご家庭でできる唯一の自衛策であることは明らかのようです。

vol.91 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2015年11月号掲載

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