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子育て相談 Vol.104
“思春期の友だち関係”
- 自分だけ浮いているような気がする……。
- 小4の長女が、最近元気がないなと思ったら、「いつも一緒にいる仲良しグループの中で、自分だけ浮いているような気がする」と打ち明けてくれました。「グループの中で一番遊びに誘われないし、自分もみんなに合わせて笑っているだけのような気がしてきた」と……。考えすぎのような気もするのですが、どう答えてあげればよいのでしょう?
先生の回答
子どもの話によく耳を傾け抱えているモヤモヤを受け止めましょう
小学4年生にもなると、子どもはだんだんと親を離れ、子どもたちだけの世界で過ごすようになります。このころから、なかなか親に相談することも減っていきます。今回、このように悩みを打ち明けてくれたことは、子どもからの信頼の証です。できるだけ子どもの気持ちを受け止めて、親身に相談に乗ってあげたいと思うところですね。しかし、大人からすると「考えすぎなのではないか」と感じてしまうような内容です。繊細なこの時期の悩みにどう寄り添っていったらよいか、整理してみましょう。
「みんな一緒」から「個々の違いを尊重する」関係へ
小学校にあがる前の子どもにとって、友だちというのはその場に居合わせた遊び相手のことです。遊びの内容や、遊びやすいかどうかで相手が決まり、近所の子、同じクラスの子、同じ遊びをする子同士で固まるものです。小学校の高学年になると、この友だちグループのありかたに、大きな変化があらわれます。
小学校高学年ごろから思春期にかけて、特に女の子たちは「チャムグループ」と呼ばれるグループを作るようになります。グループのメンバー同士が、お揃いのものを持ったり、同じファッションを楽しんだり、片時も離れず連れ立って行動するなど、「みんな一緒」であることを重んじるのが特徴です。同時に、「一緒」でない子をグループから追い出すことで、グループの結束を高めることもあります。グループ間にも独特の連携や対立が生まれ、ある種の緊張が生じるようになります。
このような友だち関係の中で子どもたちは、自分が本当はどんな人間なのか、というテーマに向き合うことになります。みんな一緒なのは安心するし、いろいろなことがわかり合えてうれしい、楽しいけれど、「でも、本当の自分とは違う気がする」というかすかな違和感がつきまといます。思春期を越え、やがて大人になるころ、子どもたちはそれぞれに「自分はこういう人間だ」というアイデンティティを確立し、グループの関係は個々の違いを尊重する「ピアグループ」に変化していきます。
一般論ではありますが、このような前提を踏まえると、娘さんの感じている違和感は大変鋭く、思春期の人付き合いの難しさの本質をとらえた悩みであると言えるでしょう。とても繊細で、聡明な娘さんなのではないでしょうか。チャムグループの中で、子どもたちはまさに「自分だけ浮いているような気が」していて、「周りに合わせて笑っているだけ」という瞬間を体験します。そこで、だからグループから離れようという選択をする子もいれば、もっと自分に合う他のグループを探したいと思う子もいますし、今いるグループに調和しながら自分らしさを保とうとする子もいます。それはその子の持って生まれた気質と、グループのありよう、またそのグループの置かれている環境(多くの場合は学校)によって変わってきます。一概に「こうするのが良い」と言えるようなものではありません。悩んで、試して、小さな傷つきを重ねながら、だんだんと自分の本質を見つけていきます。
親が子どもに伝えるべきことは?
思春期の子どもに対して、親からできるアドバイスはもうありません。親にできるのは傾聴です。子どもの話によく耳を傾け、子どもの抱えているモヤモヤしたものを受け止めることです。どこかにあるはずの正解を探すためではなく、今の心の状態をより深く理解し、多角的にとらえていく手助けをします。話しているうちに子どもは自分の気持ちと出会い、本当はどうしたいのだろうと考えるようになります。
親が子どもに伝えるべきは、まず、話してくれたことへの感謝です。そして、悩むこと自体に意義があるということ、でも、悩みすぎて苦しくなるなら少し距離を置いてもいいということ、やがて自分なりの答えが見つかるので、ゆっくり探していけばいいということです。親からのアドバイスはほとんどの場合、何の役にも立ちませんが、もし親が似たようなことで悩んだ経験があるのなら、その話は子どもの役に立つかもしれません。
友だち付き合いというのは、本質的には、自分自身と付き合っていくことです。親があまり社交的でなかったり、人付き合いに重きを置かないタイプであったりすると、友だち付き合いに心を痛めている我が子に対して、はがゆい思いをすることもあるかもしれません。あるいは、器用に人と付き合っていけるタイプであるなら、不器用な我が子を頼りなく思うかもしれません。ですがそれは、持って生まれた気質の違いであり、生きている環境の違いであり、経験の違いです。お子さんはお子さんなりに、自分自身と向き合う最善の方法として、今その悩みに取り組んでいます。そこからしか得られないものがたくさんあります。子どもの挑戦を見守っていくうちに、思わぬ成長を間近で見られることもあります。子どもを信じて、できる限り、子どもの声に耳を傾けていきましょう。
Vol.104 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年9月号掲載