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子育て相談 Vol.111

今月のお悩み

“ネガティブ発言”

「やりたくない」「できない」……とよく言います。
 小学6年の息子は、「やりたくない」「できない」「もうやめたい……」などといったネガティブ発言をよく口にします。今春からは6年生。そろそろ、腹をくくって何事にも前向きに取り組めるようになってほしいのですが……。
 そのように仕向ける、なにかいい方法ないでしょうか?

先生の回答

お子さんの気質や、日々の言葉を受け止めるところから始めましょう

 大人たちの振る舞いを観察していると、何事にも楽観的で「大丈夫、大丈夫」「やってみよう」というトーンの人もいれば、「うまくいかないのでは」「コストがかかりすぎるのでは」といって、楽観的な見通しにブレーキをかける人もいます。どちらが優れているというものではありません。ポジティブな姿勢で挑戦することも、ネガティブな目をもって状況を精査することも、どちらも大切な仕事です。ネガティブなものとどう付き合うかというのは、人生においては非常に大切な課題です。

〝ポジティブ〟は親のニーズ

 さて、お子さんの様子を見てみましょう。「やりたくない」「できない」「もうやめたい」、いずれもネガティブに響く言葉です。ただ、自分の気持ちをよくわかっており、ネガティブなことを口に出すことを恐れず、また先の見通しを求める感覚があるだろうことが想像される言葉でもあります。上手に育てていけば、物事に慎重かつ真摯に向き合う大人に育っていきますから、その芽をつぶさないようにしていきたいものです。
 とはいえ、大人が公の場で、このようなネガティブな雰囲気を率直に全部出してしまうということは、あまりありません。そのような態度が周囲にどんな印象を与えるかをよく理解しているからです。お子さんは小学6年生、思春期に入って、今までよりいっそう友だちからの評価が気になる年齢です。もしかするともう、友だちの前ではこのような発言はしていないかもしれません。もしそうなら、自分の家が「素」を出せる場所であるというのは、彼にとって大変心強いことです。
 ですから、親の持っている「前向きに取り組ませたい」というニーズは、いったん脇に置いておきましょう。もしかしてお子さんの気質はもともと、親の気質ほど楽観的ではないのかもしれません。大切なのは、お子さん自身が、自分の生まれ持った気質と向き合って試行錯誤を積み重ね、徐々に成熟した人間性を育んでいくことです。雰囲気がポジティブかどうかは重要ではありません。

親の仕事①
ネガティブな気持ちを受け止めること

 もしネガティブな発言をすることに現実的な問題があるとすれば、「やりたくない」「できない」と言っているうちにその気持ちが膨らんで、自分や仲間たちが動けなくなってしまうことです。お子さんが自分の中のネガティブな気持ちとしっかり向き合い、巻き取られてしまうことなくうまく折り合いをつけていけるよう、サポートしましょう。
 ここでの親の仕事は、子どものネガティブな気持ちをしっかり受け止めることです。子どもが「やりたくない」と言ったら、優しく「やりたくないかあ」と、オウム返しで受け止めます。「そんなこと言わないで」や「がんばってみよう」などと、ポジティブに切り替える必要はありません。やりたくない気持ちと向き合い、それでも課題に立ち向かおうと自分を奮い立たせるのは、子ども自身の仕事です。親の仕事は、ネガティブな気持ちをただ受け止めて、子どもが考える姿勢をサポートすること、そして手出し口出しをせず、子どもの次のアクションを待つことです。
 子どもはどうするでしょうか。しばらく黙ったままぐずぐずしてそのうち立ち上がるかもしれないし、なぜやりたくないかを説明し始めるかもしれません。場合によっては、「やらなくてもいいよね?」と親に許可を求めるかもしれません。もし親を巻き込もうとしてきたら、「やらなくてもいいの?」ともう一度、優しく返してあげましょう。ネガティブな気持ちが優しく受け止められたとき、人は落ち着いてネガティブなものと向き合い、自分が本当はどうすべきか、どうしたいかを考えることができます。

親の仕事②
日々の様子をよく観察する

 子どもがなんとか折り合いをつけて動き出すなら、今はそれでよいのです。いつの日か、その「やりたくない」「できない」というプロセスは、子どもの心の中で優しく処理されて、外からは見えなくなっていきます。もし子どもがそのまま動き出さず、「もうやめたい」という気持ちこそが本心で、彼の主張の本質であったときには、話し合いです。なぜそれをするのか、何のために必要なのか、やめるとどういうことが起こるのか……親子でよく話し合い、習い事などであれば、実際にやめてしまうという選択肢もあります。一時のネガティブなムードでなく、やめたいという明確な主張があるなら、それを取り上げて現実的に検討することが大切です。
 ですから、親の次の仕事は観察です。子どもがいつ、どんな場面で、どんなことを言うか。その時に何を感じている様子で、実際にどう行動するか。よく観察してください。子どもがうまく事を運んだり、うれしそうな様子をしていたりするのであれば、「がんばったね」と声をかけてください。苦戦していたら、「何か手伝おうか」と声をかけてみてください。まもなく中学生になって、そのような声かけをいやがる日も来るでしょう。日々の様子をよく観察していれば、そのような変化にもいち早く気付くことができます。子どもをポジティブにするためではなく、子どものあるがままを受け止め、より自分らしく、より幸せに暮らしていけるよう、まず子どもの言葉を受け止めることから始めましょう。

Vol.111 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年4月号掲載

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