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子育て相談 Vol.26
ウ ソ
- 息子のウソを処世術として見過ごしていいものか……。
- 4年生の息子が時々ウソをつきます。ママ友に相談したところ、「大人になったらある程度処世術も必要なのだし、人に迷惑をかけない程度のウソなら少しは目をつぶってもいいかもしれないよ」と言われました。確かに上の娘は、少し神経質に子育てをしてしまったせいか、生真面目で、要領も悪くかわいそうに思うことがあります。あまり厳しく注意しないほうがいいのでしょうか。
先生の回答
「人はウソをつくもの」を前提として大らかに成長を見守りましょう
叱られたくない、喜ばせたい“幼いウソ”は聞き流す
幼いうちは、もっぱら自分の身を守るため、「叱られる」と思ったときにウソをつきます。問題を起こしてしまったとき、単純に「叱られるか、叱られないか」の二択であれば、人は必ず叱られないほうを選択します。この時期の子どもにはまだ、ウソをついた後のことを考える能力は充分ではありません。
幼いウソにはもう一つ、「人を喜ばせたい、がっかりさせたくない」という意図があります。子どもの気質にもよりますが、子どもは親の顔色や期待を読んで、喜んで見せたり、はしゃいでみせたりします。これも立派なウソであり、また処世術です。このウソは、責められるべきものではありません。
ウソというのは、複雑な概念です。ほんの幼いうちから、子どもは良いウソとダメなウソをつきます。ですから、単純に「ウソはダメ」と教えても、大人の真意を理解するのは簡単ではありません。ですから、「ウソはダメ」ではなく、「問題が起きたときに本当のことがわからないと、お母さんは困る。だから、本当のことを言ってほしい」と説明すべきでしょう。
親が「正直に言いなさい」と言うときは、すでに叱っているも同然です。「叱らないから言いなさい」と迫られて、逃げ道がなければ、子どもはウソをつくしかありません。もし親が「正直に言いなさい、ウソはダメよ」と厳しく追及して、どこかで子どもの非を認めさせることに成功したとしても、それは追及から逃れたい一心での方便であって、大人が期待するような誠実さとは異なるものです。幼い子どものウソに厳しく対応しても、あまり良い効果はないでしょう。
この期のウソは、軽く受け流して、聞かなかったことにしてしまうのがいいでしょう。そして子どもを責めないことです。「コップを割ったのはぼくじゃない」と言ったら、「そっか。でも割れちゃってるね。割らないように気を付けようね」と流します。そして、「コップ、割っちゃった」と正直に言ったときには、「そっか、正直に言ってくれてありがとう。気を付けようね」と言えば、やがて「ウソをついても結果は同じだし、正直に言っても別に叱られない」と理解し、徐々に、身を守るためのウソをつく理由がなくなります。
見栄や空気を読んだ“大人のウソ”は成長の証
成長に従って現実への意識がはっきりし、小学校に入るころから、問題に対して現実的な対応を重んじるようになります。空想としてのウソ(「食べてないよ、妖精さんが持ってった」など)が急激に減り、方便としてのウソが育っていきます。小学校中学年ぐらいになると、子どもは、仕組みとしては大人と同じようなウソをつけるようになります。「叱られたくない、ほめられたい」だけでなく、「仲間に見栄を張りたい」とか「カドを立てたくない」という欲求から、言い訳をしたり、尾ひれをつけて自慢したり、お世辞を言ったりするウソが増えます。
このころのウソは、大人の方便と似た形になりますが、つきかたはまだまだ幼稚です。やっていない宿題を「やった」といい、あるいは「宿題なんて出てない」「やったのに忘れてきた」と言います。場合によっては、ここにきて急にうそつきになったと感じるケースもあるでしょう。それだけ、子どもは自立し、自分の世界を持ち始めているのです。非行をともなうような深刻なケースでなければ、あまり神経質になる必要はありません。
誠実さや信頼の価値をウソの対極におかない
もし親が、それまでずっとウソを厳しく叱って育てたなら、子どもはこの年齢になっても、やはり身を守るためにウソをつき続けなくてはならないかもしれません。その場合は、親の対応を変える必要があります。基本的には、小さなころと同じです。人はウソをつくものであると理解し、ウソを責めるのはやめて取り合わず、現実的な問題にだけ対応し、そして誠実さを認めてほめる、という繰り返しです。
しかし一方で、このころから子どもは、大人と同じように世界を見られるようになります。幼いころに伝わらなかった「ウソはいけない」の真意が、大人と同じように理解されるようになります。子どもを叱るセリフとしてではなく、親の人生の中での価値観として、「信頼にこたえることはよいことだ」「誠実でありなさい」ということを伝えていくとよいでしょう。
Vol.26 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2017年3月号掲載