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子育て相談 Vol.60
“苦手”を避けようとする
- 〝苦手〞に向き合えるようになるには?
- 5年生の男の子です。自分が苦手なこと(授業での発表など)がある日や、人(厳しめの先生など)と関わる日などに、すぐ「嫌だから学校に行きたくない」と口にします。嫌々ながら登校してはいますが、「嫌だ」という気持ちは根強いようです。苦手なことを全て避けるのではなく、苦手なこととも上手に向き合っていけるようになってほしいのですが、どんなアドバイスをすればいいのでしょう?
先生の回答
お子さんが「行きたくないなぁ」と言葉にしたら、「行きたくないかぁ」と返してあげてください。
苦手を避けるのは動物としての本能
苦手だからといって避けるのではなく、上手に向き合うことができたら、とてもいいですよね。だからといって、歯を食いしばって飛び込もう! と考えるのは、あまりお勧めできません。なぜならば、苦手なもの・嫌いなものなど、ネガティブなものを避けるのは、動物の本能だからです。これを無理に抑え込むと、非常に強いストレスになります。
がまんするのではなく、他にがんばれる理由を見つける
とはいえ、人は苦手なものと向き合い、乗り越えるなかで成長していきます。どうやって苦手に向き合っているのでしょうか。実は、人が苦手を克服するのは、苦手なものをがまんしようとか、なくそうとする時ではなく、その先にある魅力的なものを手に入れるための手段として、苦手なものに取り組むことを選んだ時です。ネガティブなものごとについて考えている時、人はネガティブな気持ちになり、それを避けたいと考えます。ですが、その先にあるポジティブなものを見て、ポジティブなものを手に入れるためにネガティブなものを受け入れる時、人はストレスにうまく対応することができます。「発表は嫌だが、我慢しなければ」ではなく、「せっかくまとめたのだから、みんなに見てもらいたい。発表するのは苦手だけど、がんばろう」であれば、うまく乗り越えられるということです。
“苦手”を認めることで、気持ちが扱いやすくなる
では、ポジティブなものを見るために必要なことは、何でしょうか。まずは、すでに持っている苦手な気持ちを認め、受け止めることです。ネガティブなものを抱えたまま直視しないでいると、心のどこかで、漠然と「嫌だなあ……」という気持ちを味わい続けることになります。ですが、目をそらさず認めることで、「ここに、このくらいの苦手なものがある」と特定することができます。特定することができれば、魅力的なものと天秤にかけて比べることもできます。ですから、苦手だという気持ちを認めることは、とても大切なのです。
苦手だという気持ちを認めるための第一歩として、一番簡単なのは、言葉にしてしまうことです。「今日は授業で発表があるから、嫌だなあ。学校に行きたくないぐらい嫌だ」と声に出してしまいます。その点で、息子さんの行動は理にかなっています。心の中にあるモヤモヤしたものを、直視し、拾い上げ、言葉にしています。
息子さんはきっと、行きたくないと言うだけで、結局は学校に行くことを選んでいるのではないでしょうか。ということは、言葉にしたあと、彼の頭の中では、「○○君と遊ぶ約束したんだよな」とか、「給食はカレーだ」とか、「こんなことで休むの恥ずかしいな」とか、さまざまな考えが巡っているはずです。つまり彼はいつも、苦手なものを乗り越えてがんばった先にある魅力的なものを自分で探して、気持ちに折り合いをつけて、学校に行くことを選択しているのです。
これは、非常に上手な、苦手との向き合いかたです。もし彼がそのように機能しているなら、特にアドバイスをする必要はありません。それでももし、親が何かサポートしたいと思うなら、彼が「行きたくないなぁ」と言った時、「行きたくないかぁ」と繰り返してみてください。子どもの言葉をそのまま繰り返すことで、お母さんも一緒に気持ちを認め、子どもが苦手な気持ちを支えるのを手伝うことができます。やり取りはそれで終わるかも知れませんが、もし息子さんが続けて、行きたくない理由を話し始めたら、うんうんと耳を傾けましょう。親が何も意見せずに黙って聞き続ければ、彼はきっと、いつも頭の中でする作業を言葉にして、自分なりの折り合いをつけて見せてくれます。
子どもが、子ども自身と向き合うために、話を聞く
そしてもしこの先、彼がもっと大きな「苦手」につまずいたら、その時は、ぜひもう少し積極的に話を聞いてみてください。話を聞くのは、あくまで、彼が彼の気持ちに向き合うためです。苦手に立ち向かうよう導くためではありません。子どもにとって大切なのは、目の前の一つの苦手を乗り越えることより、苦手な気持ちとの向き合い方を知ることです。「どんなところが嫌なの?」「どうしたいと思う?」など、時間をかけて彼の中の気持ちや考えを言葉にしていくことで、いろいろな気持ちが整理され、天秤にかけられて、行動を選択するところへつながっていきます。
行きたくないな、でも行かなきゃな、と葛藤することは、人の心を大きく育てます。素直に葛藤できる子どもに育ったことを、親として喜ぶところから始めましょう。
Vol.60 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年1月号掲載