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子育て相談 Vol.98
“新しい環境”
- 通学、学校行事、習い事など、新しい環境になじむのに、とても時間がかかります。
- 小学1年の娘は、通学、学校行事、習い事…など、新しい環境になじむのにとても時間がかかります。通学も、毎朝「行きたくないな」と涙目でグズグズするため、最初の2か月は私が学校まで付き添いました。学校自体は楽しい様子で、具体的に嫌なことがあるわけでもなく、行きたくない理由を自分でも説明できません。私や夫がしばらく付き添うとたいてい「もう大丈夫」とはなりますが、まだ、児童館やお友だちの家など、行きたいのに行けない場所がたくさんあります。今後、親としてどんなふうに接していけば、新しい環境を楽しめるようになるのでしょうか?
先生の回答
自分で安心できる手がかりを見つけていけるよう長期的視野に立って、サポートしていきましょう
〝初めて尽くし〟で疲労困こん憊ぱい状態慣れるまで、休み休み進む
新しい環境への反応にはかなりの個人差があります。新しいことが大好きで、物怖じせずに飛び込む子もいれば、慣れるのに長い時間を必要とする子もいます。繊細で慎重な子ほど、慣れるのに時間がかかる傾向があるようです。これは生まれつきの気質の問題かもしれません。
とはいえ、繊細で慎重な子たちであっても、一般に高校生ぐらいになれば、行事や習い事のような比較的小さなイレギュラーに対してはあまり反応をしなくなります。なぜかというと、経験から負担を見積もれるようになるからです。経験があれば、自分の中でおおよその目安をもつことができます。だいたいの想像がつくようになれば、それほど心配することもありません。早めに他の作業を片付けておこうとか、前の日は早めに寝ようとかいう備えによって、自分なりに安心することができます。
ですが、小学生の場合そうはいきません。場所も、することも、周りの人も初めてです。上級生を見て学んでいることも多くある一方で、いざ自分がその立場になってみれば、想像とは全然違うということも知っています。そもそも、何がどうであれば大丈夫かがわからないのです。「大丈夫だよ」と言われても、それがどういうことなのか、実感をもつことができません。それなのに大人たちは「大丈夫だよ」と言って、安心することを要求してきます。うまく安心できない自分がもどかしくて、焦る気持ちもあるでしょう。焦れば不安も増します。わからないことに関して安心するというのは、簡単なことではないのです。
学校に嫌なことがなくて、結果として楽しいだけであっても、刺激の多いこと自体が大変なストレスになるものです。「楽しいなら、元気に行ける」というものではありません。楽しんで帰ってくるし、特に嫌なことが見当たらないのに、朝の段階では登校を渋るということを繰り返しているのであれば、おそらく毎日、大変な疲労を伴っているのでしょう。無意識のうちに、大きな負担を避けて休むべきだという信号が出ているのかもしれません。すでに頑張りすぎになっている可能性もあります。とはいえ、学校は頑張ることを要求する場ですから、小学1年生に「ほどほどに頑張る」ということを求めるのは無理な相談です。何とか慣れていくことができるよう、休み休み進んでいくしかありません。
ご相談者の場合、何度かその場を確認して、自分がそこでやっていけるというイメージがもてれば「もう大丈夫!」となるのですね。小学校に入るという大きな変化に対して2か月で慣れたというのであれば、周りが五月病のピークであるころに慣れたということになりますから、人より長く時間がかかるということでもありません。多くの人が溜まってから気づくようなダメージに、最初からよく気づいている、ということです。
この状況を乗り越えるために必要なのは、一にも二にも経験です。新しいものに慣れることができたという経験ももちろんですが、馴染みのある環境で起こる小さなイレギュラーに対応できるという経験も役に立ちます。つまり、いずれ慣れる日がくるまで、落ち着いて待つのが対策ということになります。
親にできるサポートとは?
親にどのようなサポートができるでしょうか。まずは、落ち着いて安心した雰囲気を出すことです。どの対応をするときでも、「最終的には何とかなるから大丈夫」と信じて、どんと構えていてください。今日明日の単位で学校や習い事に行くこと自体を目的にするのではなく、五年後・十年後のお子さんが刺激に慣れて、元気で楽しく日々を過ごせることを目標にしましょう。
その場その場での対応は、いろいろあります。たとえば、不安に寄り添って、「行きたくないのかあ」「そうだよね」「どうする?」と一緒にグズグズするのも手です。これは大変に手間と時間のかかることですが、お子さんはいつも一人でその作業をこなしていることを理解してください。一人で抱えきれないとき、ご両親を相手にグズグズするのです。その時こそがご両親の出番なのです。「任せなさい。必要なだけ一緒にいるよ」という気持ちで付き合いましょう。
逆に、気持ちを切り替えるよう促すことが有効な場合もあります。学校や習い事のことで気が重くなっているようであれば、その先の安心できる日常、例えば「今日の夕飯はカレーだよ」とか「今日はテレビで○○をやる日だね」というようなことを話すのも良いかもしれません。不安が膨らんで頭がいっぱいになってしまうときには、少し視点をずらすことで落ち着くこともあります。
本人に聞いてしまうというのも一つの手です。「何があったら頑張って行けそう?」「何があったら安心できそう?」というふうに聞いてみましょう。お守りになるようなものや、ごほうびになるものがあるかもしれません。
お子さんは、その繊細で慎重な気質と一生付き合っていくことになるでしょう。気質の良い面を存分に引き出せるようにしていきたいですね。自立していくときに、どうすれば自分が安心できるか、そのためにできることは何か、できるだけ多くの手掛かりを見つけられるようサポートしていきましょう。今すぐに一人で何もかもできるようになる必要はありません。遠い将来を視野に入れて進んでいきましょう。
Vol.98 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年3月号掲載