子供の考える力・書く力はこうすれば伸びる!

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Vol.10 「これからの学びは自分をいまよりもっと生きやすくしてくれます」

タイトル

「頭がいい」とは

子どもたちに、本当の頭のよさを身につけてもらいたい! という思いは全ての親にあります。

よく「あの人は頭がいい」とか「自分は頭がよくないから」とか言いますが、その根拠はなんでしょう?

私は、「頭がいい」というのは脳の「状態」だ、と考えています。頭のいい人、よくない人というように、分けられているわけではなく、全ての人に頭の働きのいい状態と、そうでない状態がある。「働きのいい状態」を増やしていけば、誰もがどんどん頭がよくなる、という考え方です。

頭がいい状態は、気持ちがいい。今までわからなかったことがわかったとき、できなかったことができたとき、「あっ、そうか!」「できた」とその瞬間、頭の中にパッと明かりがついたような感じがしませんか? 気分もすっきり爽快になります。逆に、わからないとき、できないときには、頭の中も気分もずっとモヤモヤが続きます。

頭のいい状態を増やせると、すっきりと気分がいい状態も増えるのです。頭のよしあしを、ほかの人と比較するのは意味のないことです。どんなに羨んだところで、ほかの人の頭脳と自分の頭脳を取り替えるわけにはいかないのです。自分は自分の脳でずっと生きていくしかありません。だから、人を羨む暇があったら、自分の「頭のいい状態」を少しでも増やしましょう。頭のよさは、人間に幸せをもたらしてくれるものです。太古の昔、進化の過程において、力の弱いちっぽけな人間が生き延びていくためにどうしたらいいか、ということで、知恵を働かせるようになった。脳が発達することで、人類は生き延びてこられたのです。

人間が、強く生き抜いていくために獲得した能力、それが頭のよさ。頭をよくすることは、生きていくための幸せに強く結びついているのです。頭がいい状態を増やしていくことで、目の前の状況を切り拓いていく力、現実を変えていく力をもてるようになります。頭のよさは生きていく力なのです。

「勉強ができる=頭がいい」?

私はふだん、教師をめざしている大学生を教えています。中学校や高校に行って、全校生徒を相手に講演することもあります。

「頭がよくなりたい」と言う中学生、高校生に、具体的にどうなりたいのかと聞くと「成績をよくしたい」とか、「偏差値を上げたい」とか、とにかく「勉強ができるようになる」ことを挙げます。学生にとって、「勉強ができる、できない」は目の前の大問題ですから、気持ちはわかります。彼らにとっては「勉強ができる、できない」が、頭のよさを測る絶対的な「ものさし」であるのでしょう。

しかし、学生という立場が終わって社会人になると、頭のよさを測るものさしが、突然変わります。「勉強ができること」から、「社会に適応できること」に切り変わるのです。

私は、勉強ができるのはいいことだと思っています。できないよりは、できたほうがいい。けれど、勉強ができれば社会に出てからも「頭のいい人」としてやっていけるかと言うと、そうとは限りません。社会に適応できなければダメなんです。一流大学を出て就職したけれど、周りの人とうまくコミュニケーションがとれない人がいます。いま何をすることが求められているのかもピンときていない。こういう人は、「勉強はたくさんしてきたかもしれないけれど、使えないやつだ」と言われてしまいます。

現実社会のなかで、どう適応していくか

一方、学校の勉強がきらいで成績もよくなかったけれど大人になってから社会で大活躍したり、大成功したりしている人も、世の中にはたくさんいます。大人になっていきなり才能が開花したのでしょうか。いいえ、おそらくそういう人は、子ども時代から、テストの点数や学校の成績では測れない種類の頭のよさをもっていたのです。新しいものを生み出す発想力や、人を喜ばせるすぐれたコミュニケーション力などは学校のテストではわかりません。

こういう人たちの発揮する頭のよさというのは、言ってみれば「社会のなかで、いかによく生きるか」というものなのです。勉強ができる、成績がいいということは、ある一面では確かに「頭がいい」のです。けれど学校を出てからの人生で求められる頭のよさとは、「社会的適応性の高さ」です。いまは寿命が延びていますから、50年60年と求められます。人生でずっと求められつづける本当の頭のよさとは、社会にどう適応できるか、という力なのです。

「生きる力」が大事と言われるようになったワケ

学校教育においても、学力指導のポイントが変わってきています。これまでの学力は、「知識をつけ、それを覚え、その知識に基づいた問題に答えられる」力を重視したものでした。しかし、「思考力・判断力・表現力」や個々の「学習意欲」を伸ばしていくことを重視する方向へとシフトし、今年の4月からは、これらを踏まえた学習指導要領に基づいた学びが実施されます。

自分で考えて、自分の意見をちゃんともって人と対話できること。問題を発見して、自分で探究して、自分で研究してみる姿勢をもつこと。「主体的・対話的で深い学び」これがキャッチフレーズです。

それに伴い、学力を測る基準も変わります。知識が身についているかというのは、ペーパーテストでわかりやすいものです。しかし、「自分で考える」ことが軸になっている「新しい学力」は、従来のようなペーパーテストで測るのは難しい。それで、「小論文を書く」「自己PR文を書く」や「面接試験をする」など、そういうところで見る試験がどんどん増えていきます。

自分で考える、自分なりの表現をするというのは、社会に出たときに活かしていける頭のよさ、「生きる力」につながるものです。これからを生きる子どもたちに身につけてほしいのは、そういう学力であり、頭のよさです。「頭をよくする」というのは、生きるために必要な力をつけることなのです。そのために勉強をするのです。頭のよくならない人間はいません。だれにも努力できる力は備わっています。

どういうやり方をすれば、自分の力を伸ばしやすいか。そのことにどこで気づけるか、がポイントです。小学生の時期から一生使えるものの考え方を身につけて、頭のよさを磨いていけば、どんな社会がやってこようとも怖いものはないのです。

vol.10 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年3月号掲載

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