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Vol.12 算数や数学的思考法で身の回りの問題は解決できます
文系にも算数・数学は役に立つ
「公式覚えたって、普段使わないし、役に立たないでしょ」
いわゆる「文系」に属する人たちの多くは、中学・高校時代にそんな疑問を抱いたり、挫折を味わったりしたことがあると思います。文系人間が「数学を使わない生活」を始めるのは、社会に出てからではありません。大学に入った時点で、文系にとって数学は無縁のもの。経済学のように数学を使う文系分野も少しはありますが、大半の文系学部では数学に関わる必要がないでしょう。
しかし、理系か文系かにかかわらず、算数や数学の考え方を使うことで物事の理解が進むことはたくさんあります。
スポーツにたとえることで、難しい話が「ああ、なるほど」と直観的に飲み込めるのと同じこと。漠然としてつかみどころのない物事が、算数や数学の考え方を使うことでクッキリと手に取るようにわかることが、私たちの身の回りにはいくらでもあるのです。
砂金のような算数・数学
私自身、根っからの文系人間だと思っていますが、日々算数や数学などを活用して物事を考えています。いうまでもありませんが、私が身につけている数学の知識は、理系の研究者のみなさんと比べれば大人と子どもぐらい違うでしょう。でも、頭の中から数学がきれいさっぱり消えてなくなることはありませんでした。問題を解くのに覚えたはずの知識やテクニックの多くが忘れ去られた一方で、私の中にしっかりと残った数学もあります。
私にとって「数学的な砂金」のようなものです。たとえば砂金を取る際には、川底に溜まった砂を専用の道具に入れてすくい、水で洗い流すと、比重の重い砂金だけが残ります。それと同じように、高校までに勉強した算数や数学の中には、文系の私にとって比重の重いものがありました。それが、算数・数学的な思考法です。
どんな仕事に就こうが、大事なのは、算数や数学とは無縁だと思われがちな文系人間にも、算数や数学が役に立つ場面は必ずあります。算数や数学の様々な考え方を身につけることで、身の回りの問題に対する理解を深め、それを解決するための「答え」に近づけるようになるのです。
白黒ハッキリ、アタマすっきり
算数や数学の世界は、白黒ハッキリした世界です。つまり、自分の出した答えが絶対に合っている(白)か、絶対に間違っている(黒)かを判定できるのです。
「7×8=55?」。惜しい、でも大体あっているから△。とはなりません。55なら「×」で56なら「○」。1しか違わないのにハッキリと○と×に分かれます。
この白黒ハッキリした世界の練習をすることで、アタマがすっきりと使えるようになる。やればやるほどすっきり感覚が身についてくるんです。迷うことが少なくなってくるんです。
私たちが普通に生きている世界は、実は、あんまり白黒ハッキリしていません。白でもないし、黒でもない。あるいは、ちょっと白っぽい灰色、とか、ほとんど黒に見えるけれど灰色、ということがほとんどです。しかし、白黒ハッキリの算数や数学の世界でアタマすっきり感覚を身につけておくと、得をすることが出てきます。それは、「近道が得意になる」ことです。
論理的=理性的に考えるということ
算数や数学というのは、どうやったらカンタンにできるだろう、ということをいつも考え、いつも間違いの少ないやり方で確実にすっきりとやっていく技を身につけることです。つまり「近道が得意になる」=「合理的な考え方ができる」です。
辞書によると「合理的とは」
・道理や論理にかなっているさま。
・むだなく能率的であるさま。
とあります。「道理」というのは正しい筋道のことで、「論理」は考え方の筋道です。「能率的」というのは、物事がどんどんはかどっていく、ことです。要するに合理的に物事をすっきりとより分けて、考えなくてもいいことは考えない。そして手順を踏んで、パッパッパと計画を立てて、目標・目的に向かって一直線に、一番簡単で楽な方法で考える。これが算数や数学の手法。
算数や数学というのは、「注意しながら、近道をする」こととも言え、これが算数・数学のエッセンスだということを頭の中に入れておいてほしいと思います。
さあ、算数・数学的思考法で頭をすっきりさせましょう。お子さんにとっては、将来の、夢に向かっての道筋がしっかりとみえてくるはずです。
vol.12 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年7月号掲載