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Vol.13 今年の夏は、本の世界を満喫してください。

タイトル

読書は「体験」です

新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの暮らしを様変わりさせました。政府の緊急事態宣言が解除されましたが、まだまだ予断を許しません。子どもたちの夏休みも短くなり、今年は遠出も難しいかもしれませんね。だからこそ、この時間を知的探求ができる機会と考え、読書の世界を旅してはいかがでしょうか。

実際、読書で登場人物に感情移入しているときの脳は、体験しているときの脳と近い動きをしているという話もあります。体験は人格形成に影響します。

つらく悲しい体験も、それがあったからこそ人の気持ちがわかるようになったり、それを乗り越えたことで強さや自信になったりします。大きな病気になったり命の尊さを感じる出来事があったりすれば、いまこの瞬間を大事に思えるようになるでしょう。

自分一人の体験には限界がありますが、読書することで何十人、何百人もの人生を体験することができます。読書によって人生観、人間観を深め、想像力を豊かにし、人格を大きくしていくことができるのです。

読書よりも実際の体験が大事だと言う人もいます。実際に体験することが大事なのはその通りです。でも、私は読書と体験は矛盾しないと考えています。本を読むことで、「これを体験してみたい」というモチベーションになることはありますし、それ以上に、言葉にできなかった自分の体験の意味に気づくことができます。実際の体験を何十倍にも生かすことができるようになるのです。

読書が人生の深みをつくるのです。読書好きな人も、最近あまり本を読んでいないという人も、今年の夏は、読書の素晴らしさを再発見してほしいと思います。

深い人生の味わい方

では、どうしたら深くなれるのか。

たとえば、寝る前1時間はSNSではなく、読書にあててはいかがでしょうか。毎日少しでも深い時間を過ごすことができます。すると、いったいどうしたんだと言いたくなるくらい、考えも顔つきも深遠な感じになるでしょう。

SNSはコミュニケーションのツールとしてとても優れていますが、情報摂取の観点から言うとあまり役立ちません。友だちとのコミュニケーションは、身近な物事について情報交換をしていることが多く、新情報へのきっかけはあるとしても、深く知ることは難しいでしょう。

もちろん友だちは大事ですから、友だちとのコミュニケーションの時間をとるのはいいことです。心置きなく話ができるのはとてもありがたいですし、軽いおしゃべりも気晴らしに必要です。ただ、友だち依存症のようになって1日中SNSを見ているのでは、深い次元が入り込む余地がありません。

常に深くなくても構いません。ふだんは浅くても、突如深くなる時間を持つということです。偉大なものに触れて感動したり心を大きく揺さぶられたりすることで、人生をじっくりと味わえるのです。

読書の楽しみは、その本のワールドをじっくり味わうことです。

いわば「味読」です。深い世界に触れて、それを楽しむ心が必要なのです。誰もが本来持っている知的な欲求に基づき、深い世界に触れて楽しむ心を持ってください。本を読むほどに、世界が楽しみであふれます。普通なら気に留めないものでも、「面白い!」と感じるのです。たとえば、「漢字ってなんてすごいんだろう!」と気づきます。何気なく日常で使っている漢字ですが、一つひとつの成り立ちにはとても深い世界があります。漢字の語源、由来についての研究で知られる白川静さんの本を読むと、本当に面白く感動します。

新しい本との出合いで知識を広げる

ベストセラーだったり、話題になったりしている本は、その流行っているときに読むというのも大事です。ブームになるのはその時代の空気感にマッチしているからで、それに乗っかれば知識の吸収度も高いです。難解な本でなくても、小説や漫画も話題になったときに読む。自分の守備範囲でなかったものとも出合うきっかけになりますから、ブームをうまく使うといいのです。

また、単純に「出合い頭」で知識を広げていくのもおすすめです。

たとえば本屋に行って、たまたま出合った本を買って読むのです。このポイントは、偶然を必然に変えてしまう力にあります。偶然の出合いで本を買うということは、必ずしも名著を選ぶことにはなりません。読んでみたら好みでなかった、わかりにくかったなど、「正直、はずれだ」と思うこともあるかもしれません。でも、それでいいのです。その1冊がきっかけとなって、別の本につながるかもしれません。知識の大海原へ漕ぎ出す最初の一かきかもしれないのです。

読書三昧の私でさえ、自分のセンスで選んだ本の中で実際に「使える本」は3冊に2冊程度です。1冊は残念ながら自分にあまり縁のなかった本。「はずれ」です。読書の習慣がない人が「これだ!」と思える本を選ぶのはなかなか難しいことです。ですから、選びに選ぶよりも出合い頭で読んで、「つながり」の一つにしてしまう。そういう気持ちで読むのです。

人にすすめられた本を素直に読むのもいいですね。ブックガイド的な本もありますし、ネット上にも本の情報はたくさんあります。好きな書評家さんや、信頼できそうな人のすすめている本を片っ端から読んでしまうのです。

本を読むのに才能はいらない

一流の本を書くには才能が必要になるでしょうが、本を読むのには才能は必要ありません。本来誰もが知的好奇心を持っています。子どもはみんな本が好きです。それが成長とともに本から離れてしまっているだけで、ポテンシャルは持っています。

一度読書の習慣がつけば、どんどんラクに本が読めるようになります。そして思考も知識も人格も深めていくことができるのです。

vol.13 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年8月号掲載

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