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Vol.14 生活の中で美術を楽しもう
オススメ「齋藤流美術の楽しみ方」
美術は、興味があってわかりたいと思う人と、そもそも「わかりたい」という領域から外れてしまっている人の二つに大きく分かれる傾向があります。
興味のある人はいろいろな美術展に行くけれど、行かない人はまったく行かない。それは、絵を見るということを難しく感じてしまっているからのようです。
絵を見ることを難しく感じてしまう一番大きな原因は、「わからない」ということです。
単純にうまいか、下手かくらいであれば、誰でも何となく判断することはできますが、どうもそれだけが基準ではないらしい。ぼやけたような風景画のどこがそんなにいいのか? ピカソだの、抽象絵画になってしまうと、もはやそこに何が描かれているのか「わからない」。けれども、美術の世界では高く評価されている。すると、理解できないので、ますます美術を見ることから遠ざかる……。
そんな人が多いのではないでしょうか。
私たちはみな学校で「美術」を習いますが、美術の授業というと絵を描くことが中心で、美術史的なことはあまりやりません。
実際大学生も、美術に個人的な興味を持っていない場合、美術史の教養はあまりありません。ゴッホやダ・ヴィンチはさすがに知っていますが、ルーベンスになるとちょっと怪しくなって、「ああ『フランダースの犬』に出てくる画家でしょ」ということは知っていても、ルーベンスの絵についてはわかりません。
日本の美術教育は、自由に絵を描いてみようというやり方が中心になりました。自分が思ったように自由に描きなさい、もっと自己表現しなさいというものです。
これはこれでいいと思うのですが、そればかりになってしまったのが問題でした。なぜなら、美術というものが長い年月をかけて何を表現しようとしてきたのか人間のどのような欲求があったのかといった美術史的要素が抜け落ちてしまうからです。
それを知らなければ、どの絵がいいのか悪いのかを判断したり、その絵のどこが面白いのかを感じたりすることはできません。それはすなわち、美術を教養として楽しむことができないということです。
かといって、この画家は何年に生まれて、こんな絵を描いた。それは何とか派と呼ばれて……などといった無味乾燥な知識の羅列を押しつけられても覚える気になりませんし、そもそも面白くありません。
そこで、私が年代順の美術史ではなく、次の頁からざっくりとした「齋藤流美術の楽しみ方」を紹介します(情報誌9月号で掲載)。その後には、今まで目にしたことのある絵の新たな側面が見えてくるはずです。さらに、そのように絵を見ることによって、みなさんの周りの世界も、これまでと違って見えるようになるでしょう。
そして、それこそが、本当の美術の楽しみなのです。みなさんもぜひ、それを味わってほしいと思います。
なぜ「誰が描いた絵か」を当てられるのか
私たちは絵を見たとき、それがある程度知っている画家の作品であれば、初めて見た絵でも誰が描いたものなのかわかります。
では、なぜ「わかる」のでしょう。
画家はさまざまなものを描きます。ルノワールは女性の絵が有名ですが、ほかのものも描いていますし、セザンヌはリンゴや山の絵が印象的ですが、裸婦も描いています。何を描いていても、「この絵はルノワールだな」あるいは「これはセザンヌだろう」とわかるのですから、単にモチーフ(描く対象)で判断しているわけではないようです。
モチーフだけではなく、その画家特有のタッチやその人固有の「スタイル」を総合的に認識することで、この画家のものであろうと認知しているといえます。そうしたことができるということは、私たちには、直観的に「画家のスタイル」を把握できる能力が備わっているということです。
以前私が、小学校低学年の子どもに何種類かの画家の絵をある程度見せてから、「この絵は誰が描いた絵だと思う?」と聞くと、ほぼ全員がすべて当てることができました。これは、必ずしも知識がなくてもスタイルは把握できるということを意味しています。
言葉で説明できなくても、私たちは自分たちで思っている以上に美術を理解する力を持っている、ということです。
スタイルを理解すれば、美術に対して新しい見方の軸ができます。私が提案したいのは、そんな新しい美術の楽しみ方なのです。
美術をもっと身近に
美術は見れば見るほど、知れば知るほど、そしてわかればわかるほど面白くなっていく分野です。美術館で本物を見るのがベストですが、そうでなくても構いません。大切なのは生活の中で絵を楽しみ、そのエネルギーを感じることなのです。
私は、ある授業で、全員にクレヨンで絵を描いてもらい、それを持って一人ずつ前に出させ、みんなでその人の絵をほめまくるということをやっています。絵がうまい必要はまったくありません。うまく魅力を引き出すコメントを言えた人がグランプリです。
そうしてコメントをつけてみると、絵が、ただ見ているときと違って力を持って見えてくるから不思議です。有名な作品にも、大胆に「ほめほめ」コメントをつけることで、ぐっと身近になります。ほめることで不思議とその作品が好きになるのです。
一度試してみてください。美術を知識とか教養という枠の中にはめないで、もっと日常に取り入れることで、人生がより豊かなものになるはずです。
vol.14 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年9月号掲載