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Vol.16 絵本は「美しい言葉」の宝石箱︱言葉と出会い、心を育みます。

タイトル

いまこそ絵本

私は教育を研究してきた者として、子どもたちがどうしたら、変化の時代を強く生き抜けるかについて考えてきました。

現代は変化の激しい時代です。新型コロナウイルスの世界的流行のような予測不能な事態も起こります。知識を着実に身につける伝統的な学力とともに、変化に対応できる柔軟な新しい学力が必要になってきています。一言でいえば、「本当の頭のよさ」です。

自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分の手で幸せをつかみにいく力です。変化に強いとは、変化に対応するしなやかさを備えているということです。新しいことに一歩を踏みだす勇気と判断力、同時に、他者に対する優しさ、思いやり、また、すべての力の源となる、学力の基盤である国語力、読解力が必須です。

どんなに社会が変化し、価値観が変わろうとも、自分の力を発揮して生きていけるたくましく、世を渡っていける子=本当に頭のいい子を、どう育てていけるか。

その鍵は、幼少期をどう過ごすかです。そこに私は絵本とふれあう時間こそ大切だと考えるのです。

絵本の時間は親子で共有

大人はつい物事を効率で考えてしまいがちです。そのため大人と同じように、「時問どおりにできる」「早くできる」「効率よくできる」ことを成長と考え、つい「早くしなさい」「いつまで〇〇してるの」と子どもを追い立ててしまいがちです。たしかに、「物事をテキパキできる」ことは大切で、いずれ子どもが身につけなければいけない要素ではあります。

でも、それは小学生の間に身につけられればいいというくらいでちょうどいいのです。小学生時代はいかに心豊かに過ごせるか、そちらを優先したほうがいいのです。大丈夫。

「ゆったり」と豊かに心が育っていれば、「テキパキ話す」「テキパキ支度をする」は後からきちんとついてくるものです。ある時期を過ぎると子どもは途端に成長するものなのです。むしろ、時間が許す限りは、子どものゆったりペースに、おうちの人が合わせてあげてほしいのです。できるだけ子どものペースを尊重する。そして同じペースを親も楽しむ。そうすれば、子どもも追い立てられるような気持ちを持たなくてすみます。子ども時間を存分に過ごすことができるのです。

絵本の時間は、中でも親と子が一緒に過ごす貴重な時間です。ゆっくり、ゆったり絵本の世界を親子で共有します。それはその時しか成り立たない大切な贈り物の時間なのです。

言葉と出会う

私たち人間は言葉を持っています。言葉で考え、言葉で心を表現し合い、言葉で気持ちを伝え合います。言葉が豊かになれば、心も豊かになる。言葉を知り、言葉と出会うことは、人が人らしく生きるための基本でもあるのです。絵本でなくても子どもが言葉と出会う機会はいくらでもある、という考えもあるかもしれません。たしかに現代社会には言葉が溢れています。テレビでも、映画やアニメでも、インターネットの動画でも、あらゆるところに多種多様な言葉が存在しています。ただ、今の時代はとくに乱暴で粗雑な言葉、ストレスを生む言葉、心をすさませる言葉が飛び交い、むしろそうした言葉のほうが注目を集めやすい傾向があります。世のなかで交わされる言葉のすべてが、子どもの心にとって“栄養”になるわけではないのです。

その点、絵本には「美しい言葉」「やさしい言葉」「あたたかい言葉」「洗練された品位ある言葉」が満ち溢れています。宮沢賢治作の『やまなし』という作品には「クランボンはかぷかぷわらったよ。」という会話が出てきます。「クランボン」というのは何だろう? 「かぷかぷわらった」というのも、どんな意味でしょう? 聞いたことも見たこともないような日本語が並んでいるのですが、その言葉の響きの美しさは大人も子どもも惹きつけられます。

こうした絵本ならではの美しい言葉の世界に、なるべく多く触れさせてあげてください。子どもの時にしかない感性で、なるべくたくさんの美しい世界を経験するとよいでしょう。絵本では、使われる言葉の数は限られています。作家が子どものために考え抜いて厳選した言葉の世界に踏み入っていくことができるのです。子どもは言葉と一緒に心や感情、感性などを体得していくもの。

美しい言葉は心に豊かさをもたらします。すぐれた絵本は、子どもに大きな栄養を与えてくれるのです。

絵本が「普通の読書」へのステップになる

絵本には、「本好きな子どもに育てる」「読書ができる子どもに育てる」という効用があります。

以前、少年院や少年鑑別所で子どもたちを指導する法務教官の方とお話をする機会がありました。その方の話では、非行に走ったり犯罪に手を染めたりする子どもたちには、普段から「本を読む習慣がない」という共通点が見られるのだそうです。文芸書などの書籍に限らず、漫画でさえあまり読まないということのようです。「ていねいに文字を読む力が身についていない子が多い」とおっしゃっていました。

本を読むこと、読書をするという行為は、簡単そうに見えて、コツを必要とします。 だからこそ、小さい頃から練習が必要になります。 本を読む楽しさがわかると、コツが身につく。絵本は、その入り口なのです。

また、絵本で先に触れたことがあるという経験が、後に原作の小説を読もうという時に一気にハードルを下げてくれるでしょう。子どもの頃の絵本との出会いは、その後の読書習慣に大きな影響を与えるのです。

大人が絵本を楽しもう

まず、おうちの人が絵本を楽しんでください。

読み方の「正解」など、求める必要もありません。ただ、ただ、親子が一緒に絵本の世界で楽しい時を過ごすことが大事なのです。

そもそも、絵本は子どもだけのものではありません。大人が読んでも考えさせられること、気づかされること、学ぶことがたくさん詰まっています。

絵本は子どもだけでなく、大人の心の安定やストレス解消にも効果があるのです。疲れている心、痛んでいる心を癒やし、潤いを与えてくれる。傷口の化膿を抑えてやさしく治してくれる心のくすりのようなものといえます。親子で一緒に楽しく読めば、子どもの心は育ち、大人は心を癒やされる――絵本は子どもだけのものではないのです。だからこそ、子ども以上におうちの人も絵本を楽しんでください。絵本の時間を大事にしてほしいと思います。

vol.16 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年11月号掲載

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