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Vol.2 「日本人が大切にしてきた心を知ろう」

タイトル

自分を見失わないために

今、私たちがもっとも必要としているのは、心の落ち着きではないでしょうか。世の中の変化はきわめて激しく、経済的な優劣は社会問題化し、おかげで私たちは自分を見失ってしまうことも少なくありません。

しかし、これを一人で解決するのは難しい。心の内を外部に開き、外部とつながることで根を張っていく。それが、今の時代に自分を保つ最良の方法でしょう。ただ「外部」には日々の人間関係も含まれ、ストレスの温床にもなり得ます。そこで、揺らがず崩れず、強い根を持つことが大切になってきます。

私はそれを作るのが「伝統」だと思うのです。多くの先人たちによる英知の積み重ねによって生まれたもの。だから、自分の日常とは無関係であっても、どこか自分の感覚に合うのです。

こういうものを意識していくだけで、興味も湧いてくるし、面白さを感じ始めます。徐々にそれが生活に根ざし、くり返しているうちに自分の日常を元気づけるようになっていきます。つまり、伝統に気づき、身を置くことによって、心を落ち着かせることができるのです。世の中で何が起きようとも、それを受け止める心の地盤になっていきます。

とりわけ本格的なグローバル化が避けられなくなっている現代だからこそ、私たちは日本の伝統に目を向け、「日本人」であることを再認識し、そこに落ち着きを求める必要があるのです。

グローバリズムの時代だからこその日本文化

第二次大戦後はひたすらアメリカ文化一辺倒でした。その一方で、日本の伝統文化については、徹底的に過小評価してきた感がします。主に欧米人とビジネスを行っている私の友人に言わせると、彼らはよく日本文化について尋ねてくるそうです。そして、それに答えられないと、いくら英語が堪能であっても信頼は得られない、というのです。

私たちは欧米人とコミュニケーションを図るというと、まず英語力を気にする傾向があります。もちろん英語はうまいに越したことはありませんが、それ自体を問われることはありません。それ以前に私たちが問われているのは、日本文化に対する素養なのです。

ただ私はなにも、すべての日本人が日本文化の専門家になれ、と言っているわけではありません。それぞれ趣味、嗜好があるし、学んだり鑑賞したりする時間的余裕も限られています。しかしそういう人でも、日本文化について一応は知ることが大事なのです。海外文化を持ち上げて語るだけの人はどうしても薄っぺらな印象を与えてしまいます。逆に日本文化をよく知る人は、その視点を用いることで、海外文化もより深く理解できます。日本文化について少し知っているだけで、かなり豊かな気持ちになれるものです。

だいたい日本の伝統文化とは、日本人の感性や精神のあり方が開花した一形態です。たとえば茶の湯と歌舞伎とでは、一見するとまったく違うもののような気がしますが、根本では共通する部分があります。そこに気づくことで、拠り所を得たような気持ちになれるのではないでしょうか。

日本語を操り、日本で暮らしていれば、その「根本」を感じることはそう難しくはありません。要は、きっかけだと思うのです。そして、日本人としての由緒正しい伝統文化を身につけることこそ、生きる力につながるのです。そこに私たちはアイデンティティを見い出すことができるのです。

受け継がれてきた日本人の心

いま、日本ではさまざまな社会状況から不安感が蔓延しています。そんな中だからこそ、自分を肯定し、自分の人生が充実していると感じる幸福感が大切です。この幸福感を持つためには、アイデンティティが必要なのです。アイデンティティとは、自分が自分であるという「一貫性」と、他者と本質を共有するという「共有感」から成り立っています。

自分が自分であるという面だけでは、自己肥大につながりかねません。むしろ、いまの日本人に必要なのは、内実のあるものに触れ、学び、「自分の中にあるものと共通している」と感じる「共有感」です。

私たち日本人にとって内実あるものとは、すなわち日本の伝統文化です。伝統文化とは、昔から今まで受け継がれてきたしきたり、特有の言葉や作法、食事や歌などでもあります。それを築いてきた偉大な先人の「心意気」や「意気地」や「美意識」といった、彼らが生きた「魂」そのものが、形になったものなのです。そこに身を置き、本質的なものを共有するということは、単に知識を得ることではありません。彼らの「魂」を解凍し、感じることなのです。そうすることで、自分の中に先人の魂を感じ、日本文化を共有している日本人であるという、日本人が大切にしてきた心を知るのです。

一年を通して日本の行事を見ていくと、そこには日本人の精神史ともいえる、大切な思いが流れていることに気がつきます。行事に親しむことで、いつの間にか、昔から受け継がれている日本人の思いが体にしみ込んできます。そして、日本に生まれてよかったと思うようになるのです。これからは、外国との交流がますます盛んになります。そんな時代だからこそ、自分が生まれ育った日本のことをよく知っていてほしいと思います。

vol.2 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2019年2月号掲載

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