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Vol.21 大人の語彙力を身につけましょう

タイトル

語彙が人を作り、人間関係を築く

「語彙は人なり」ということを、ときどき感じます。その人がどんな「語彙」を使って話をしているのかに、その人の人となりが表われる。とりわけ、その人の「教養」の程度と「品格」が表われるように思います。品格というものは何ともつかみがたいものですが、話をしてみると、ほんのちょっとした言葉の使い方で、「あっ、この人は何となく品があるな」とか、「ちょっと気の利いたことを言う人だな」と感じさせる人がいます。持っている語彙をひけらかすのではなく、それを上手に使いこなすのを聞いていると、その人の精神の広がりや世界観を見る思いがします。ですから、大人なら、やはり大人にふさわしい語彙を身につけていくことが必要です。それによって、大人らしい会話ができるようになります。うっとうしく蘊蓄を語るのではなく、ちょっとした会話の場面で、聞いた人が思わずハッとなるようなひと言を織り込むことで、「この人は知的な人だな」という印象を与えることができます。こうしたことは、生きていくうえでのお互いにとってのサービスだと思います。

やはり知的であるということが、お互いに付き合っていくうえで面白いのです。そこに、その人が身にまとっている文化の奥行きを感じられれば、それだけで楽しくなってきます。改めて言うまでもないことかもしれませんが、知的で教養があり、語彙や知識が豊富な人と話をするほうが有意義だと感じるものです。

そして、もうひとつ。私が伝えたいのは、「語彙が豊富だと周りから一目置かれる」ということばかりではありません。「語彙が豊かになれば、見える世界が変わる」ということ。人生そのものが楽しくなるということです。言葉を知らなければ、伝えたいことを伝えることはできません。伝えたとしても、言葉の使い方が間違っていたら、相手は別の解釈をしてしまいます。また、相手の気持ちも理解できません。

たとえば、慣用句のひとつである「胸が塞がる」。友人が「胸が塞がる思いだよ」と言ったとします。「胸で呼吸をするから、それが塞がるということは『息苦しい』ってことかな……」と単純に肉体的な苦しさと取る人は少しずれています。そもそも意味がわからないというのではコミュニケーションが成り立ちません。これはもちろん、悲しみやつらさで「気持ちが沈む」という意味です。語彙がなければ、伝えたいことが伝わらない、相手の気持ちを取り違えてしまう。語彙力はコミュニケーションの根源でもあるのです。

大切な大人の役目

ですが、言葉は「生きもの」です。それぞれの時代に生きた人たちが大切に育て、使い、伝えてきたものですが、時間の経過や社会の変化とともに、あるものが突然、栄えたり、あるものがいきなり消えてなくなったりします。それは、生物の世界に見られる多様性と同じです。ですから、意識して保護しないと絶滅危惧種になって絶滅してしまう生物があるように、言葉もおざなりに扱っていると、あっという間に「死語」と化してしまいます。ひとつの言葉が消えるということは、その言葉でしか表現しようがないものがひとつ消えるということです。それだけではありません。言葉がひとつ消えるということは、それにともなって「認識」の仕方がひとつ消えてしまうということです。言葉というものは、認識の道具でもあるからです。

少し昔の人が普通に使っていた言葉でも、今ではほとんど聞き慣れない言葉になってしまったものはたくさんあります。こと「語彙」においては、かつては当たり前に話したり、聞いたり、見たりしていた語彙がどんどん使われなくなっていくことは、日本語の将来(つまりは日本人の将来)にとって問題がないとは言えません。社会人や大人の務めとして、面白い語彙、奥深い語彙は自分で使いながら、それとなく次世代に伝えていく︱これが、日本語に対する大人の責務ではないかと思っています。

語彙力アップはインプットとアウトプット

では、どうやって伝えていくのかと言えば、語彙力を鍛え(インプットして)、自分で使ってみることです。言葉には、それを使っていると、周りの人に伝播していくという傾向があります。たとえば、言葉の伝播力というものを信じて、私の本に出てくる言葉をさらりと使ってみる。すると、「それ、どういう意味?」となり、「こういうことらしいんだけど……」となり、会話が知的なものになっていきます。

知的なんて自分には関係ない、知的な人だけがそうすればいいということではないと思います。言ってみれば、それは「おしゃれ」のようなものです。誰のためにおしゃれをするのかと言えば、もちろん自分も気持ちよいのですが、見ている周りの人が気持ちよくなる。そのおしゃれをほめられることで、また気持ちがよくなる。ジャージを着て会社に行っていいのでしょうが、なぜ、わざわざネクタイを締めてスーツで行くのかと言えば、そっちのほうが、オフィスで働く男としてかっこよく見えることが多いからです。「それは、言葉遣いにおいても同じことです。やはり知的な言葉遣いというものがあり、それは自分が気持ちよいだけでなく、周りの人をいい気持ちにさせるものです。逆に言えば、言葉遣いがぞんざいになれば、それだけで周囲も自分も殺伐たる気分になることさえあります。そうしたことを考えると、「語彙力」というものが人間関係を、そして社会を築いていくうえで、とても大切なものなのです。

語彙をひとつでも、ふたつでも記憶にとどめ、それを実際に使ってみることで、大人の嗜みとか、気遣いといったものが自然と身につき、後世へつながるのではないかとも思うのです。

vol.21 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年4月号掲載

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