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Vol.22 「なぜ、どうして?」を持ち続けるために

タイトル

今ある快適で幸福な生活の基

「光合成って、社会人になってからも必要なの?」「実験道具の名前はなぜ知らないといけないの?」「月の満ち欠けを覚えると、何かの役に立つの?」など、そんな風に、子どもに尋ねられたことはありませんか。このような子どもの素朴な疑問に親はどうやって答えたらいいのでしょうか。

たしかに、社会人になったときに実験道具の名前は、不要に思える場合もあるだけに、そんな疑問を持つのは当然かも知れません。このような疑問に答えるために、まず人類がどのように発展してきたのかを振り返ってみる必要があります。

もちろん、現代社会の状況を良いと思うか、悪いと思うかについてはさまざまな意見、見方があるのは承知しています。そして、深刻な問題がいくつも横たわっているのは事実でしょう。しかし、私たちの社会は、紆余曲折はありましたが、ようやく安定した生活が送れるようになりました。人類はようやく、ここまで成長し、たどり着いたのです。それを可能にしたのは、よりよい社会をつくろうという人類の思いが脈々と継承されてきたからに他なりません。

さらに、私たちが豊かに暮らしていける背景には、白熱電球や電話、蓄音機などを発明し、改良したエジソンや、ポリオワクチンを開発したジョナス・ソークや、セルビアのニコラ・テスラが発見した交流電流、さらに世界で初めてプログラムが可能な計算機(後にパソコンの基礎になった)を考案したイギリスの数学者チャールズ・バベッジなど多くの人による発明・発見など、これらの優れた業績が世に行き渡り成り立っているのです。X線を発見したレントゲンは特許を取らず、発見を人類のものとしました。

私たちの快適で幸福な今の生活は、人類がこれまで学んだ総体でできています。それだけに、自分たちがなぜ現在のような生活を送れるのかを、理解しなければなりません。現在、享受しているモノに対して、その価値がわからず今の生きている社会を当たり前に思ってしまっては、大切に守っていかなければいけない気持ちが失われてしまいます。

勉強に感動があるか?

勉強という言葉のイメージは随分、年代によって違うと思います。というのは、小学校1年生にとっての勉強というのは楽しいものです。子どもは学校に行って、「こんなことを勉強したよ」とお母さんに言うわけです。たとえば「今日はカタカナを学んだよ」とか、あるいは、「足し算引き算を学んだよ」などと、一生懸命に話をするわけです。小学生は親との会話で「今日は、こういう問題が出たんだけど、難しかったよ」とか、または、「面白かった」という反応を示します。小学生は、勉強が嫌いではありません。ところが、中学生になるとそれが、変わってしまうのです。

たとえば、小学生の理科には、いろいろな驚きがあります。6年生で光合成を習います。植物は二酸化炭素を吸って、根っこから吸い上げた水分と一緒になり、日光が当たると酸素を吐き出し、デンプン(炭水化物)ができると。このような光合成のプロセスを知ると、不思議だと思うわけです。一方、中学生になると、DNA(デオキシリボ核酸、生命の遺伝情報をつかさどる核酸の一種)を学びます。DNAの発見というのは、人類史上の大発見なのですが、それを教わって、生徒の間で感動が起こるのかというと、必ずしもそうではありません。「あっ、そういうものか」と簡単に通り過ぎてしまう。

中学生になると小学生の時のような感動は希薄になっています。そこで、ひと工夫が必要となるわけです。工夫があることによって、感動する土台ができるのです。

アポロ15号の実験になぜ感動するのか

かつてアポロ15号のデイヴィッド・スコット船長が、月面に降りて、重いハンマーと軽い鳥の羽を一緒に落とした実験をしました。すると、ハンマーと羽が同時に月面へ落ちたのです。それを見て、「ホォー」と感動する人と、「だから、何?」と思う人がいます。やっぱり、ガリレオ・ガリレイの言ったことが正しかったのだと、思える人は一般常識のある人です。重いものが速く落ちると、アリストテレス以来ずっと思われていたのですが、ガリレオは重いものが先に落ちるとは限らないと主張したわけです。つまり、「重力による物体の落下速度は、その物体の質量の重さによらない」というわけです。ガリレオが、ピサの斜塔から、大小の鉛の球を落としたという伝説は有名なお話です。実際に空気抵抗がない月面で軽い羽と、重いハンマーを落としたら同じ速度で落ちたのを見て、何百年も経って、ガリレオは正しかったと感動するわけです。そういう常識を知らないと、その感動はわからないでしょう。いろいろなニュースを見ていても、勉強をしている人ほど、その面白さが増します。その分野に詳しい人ほど感動します。知識がなければ、感動は起きません。「だから、何?」「それが、どうした」といった驚きや感動が少ない人になると、心が揺さぶられるようなものがなくなり、人生そのものがつまらないものになるのです。

世界的な大発見をした高校生

理科は自然がどういう仕組みになっているのかがわかる学問です。その根本は、観察と実験です。小学生になると、花の朝顔を観察します。芽が出てきて、それから葉っぱが生長して花を咲かせます。それを、子どもたちは丹念に観察して、花が咲くことに感動し、なぜそうなるのかと考え、思考力を培います。数年前、世界的に注目された田上大喜さんという高校生がいました。田上さんは「蚊」がどういう人を好んで刺すのかを研究し、それが認められてアメリカのコロンビア大学に研究者待遇で入学します。

田上さんは「なぜ、妹ばかりが蚊に刺されるのか」と疑問に思って、蚊の研究をスタートさせました。まず蚊を飼育して、自分や妹の手足を蚊がいる飼育箱に入れて反応を観察します。すると、蚊が足の裏にいる常在菌(健康な人の皮膚に必ずいる細菌)に激しく反応することがわかったのです。これは、世界的な大発見でした。試しに妹さんの足をアルコールでしっかりと拭いてみると、拭かなかった場合に比べて蚊が刺す数は3分の1まで減少したのでした。蚊の研究の為になんと4000匹という数の蚊をかっていたそうです。費用などはお年玉などを使って、とおっしゃっていましたが、この研究を見守ったご両親は素晴らしいと思います。

面白いと感じる素地をつくる

勉強というのは、この世の中にある文化遺産を幅広く、深く捉えることです。たとえば、自然に対しても、学ぶことを通して、その素晴らしさ、その面白さを感じることができる豊かな感性を養う素地をつくるのです。不思議だ、すごいなと思うためには、一般常識としての基礎知識がどうしても必要です。できれば小学生のときから、最低限の一般常識を身につけさせてあげて、感動体験をたくさんさせてあげてほしい。それには理科への興味を持ち続けることが大切です。なぜなら理科には、「なぜ? どうして?」がたくさん詰まっているからです。

vol.22 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年5月号掲載

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