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Vol.24 日本国中で熱くなろう

タイトル

日本人とは何か

いきなりですが、「日本はどんな国ですか?」「日本人とはどんな人間ですか?」と、お子さんに尋ねられたら、答えられますか?こう尋ねられて、即答できる人は多くないと思います。

今や日本のどこにいても、世界の人とつながることができ、世界中が生活の場ともいえるでしょう。そんな時代において、自分の国のことについての知識や誇りがあるということは、とても大切です。そうでなければ、世界とわたりあっていくことはできません。なぜなら私たちは日本という土台の上に成り立っている存在だからです。自分は何者なのか、ということを理解できてはじめて、違う国で生まれ、違う文化で育った人たちを理解し、尊重しようと思えるのです。

「アイデンティティ」という言葉があります。よく使われる言葉ですが、こちらも明確に答えられる人は少ないですよね。私が考えるアイデンティティの定義は、「あなたは誰ですか」「あなたは何者ですか」と聞かれたとき、「私は○○です」と気持ちの張りをもって答えられる、そのときの「○○」がその人のアイデンティティだと思っています。

自分がどこかの学校に所属していたとして、「○○大学の学生です」と心の張りをもって言えない場合、その人はその大学に所属しているかもしれないが、アイデンティティにはなっていません。要するに、自分の帰属する集団に心の張りを持てるかどうかが、アイデンティティになっているかどうかの分かれ目です。

そもそもアイデンティティとは一つではなく、十、二十、三十と集まっているものです。「自分は○○家の子どもである」とか、「○○会社の社員である」とか、アイデンティティの持ち方としてはいくつも可能性があります。それがより合わさって一つの大きな綱になり、それがその人のアイデンティティとなるわけです。

その中の一つとして「日本人」というものがあります。

日本人としての誇りを持とう

日本人としてのアイデンティティが濃い人も希薄な人も、国籍はたまたま日本だが、自分は「日本人」とはちょっと違うという人もいるでしょう。だいたいこの島国で育ってくると、自然に私たちは「日本人」だという感覚を持ちます。

そして、私たちが日本人としてのアイデンティティを持ち、日本人でよかったと思うのは、やはりモデルになるような素晴らしい日本人を見たときでしょう。アメリカの大リーグで大谷翔平選手が活躍をすると、大谷選手が日本人でうれしいと素直に思います。「自分も日本人だから、日本人はこんなにやれるのだ」という同胞意識で励まされます。それがごく自然な考えで、自分が所属しているところを愛せないのは不幸なことです。

心理学の分野では、最初のスタートとして、自分が所属している家族を愛せなければ、その後、社会に出てもさまざまな局面で不適応な状態に陥って、その都度憎しみが募っていき、厳しい生き方を強いられるようになることが知られています。自分の育った土地が好きになれない、自分が通った学校に愛着がもてない、自分の会社に嫌悪感を感じるというように、すべて自分の所属しているところを嫌っていけば、絶えずアイデンティティの不安にさらされることになるのです。

だから、自分のいるところを中心にして、同心円上に家族があり、学校や会社など所属するところが広がっていって、その広がりのなかで「日本人」というものがあるのが理想でしょう。まず、自分の帰属集団を好きになり、誇りに思えるところを探してほしいと思います。

日本を代表する一人に

今の日本、これからの日本に何より必要な存在とは? この問いに対する答え(もしくは願い)は、様々考えられます。稲盛和夫氏のような経済史に名を残す起業家でしょうか、あるいは吉田茂元首相のような器の大きな政治家なのか。大リーグで活躍したイチロー選手のようなスーパースターなのかもしれません。時代をさかのぼれば、信長・秀吉・家康クラスの超絶的リーダーシップを引き合いに出すこともできるでしょう。

私が今の時代もっとも必要だと考えている存在は、教育のリーダーです。学校教育の枠内での教育者というより、日本人一人ひとりの向上心に火をつけることができる、スケールの大きな存在です。

現在、日本の子どもたちの自宅勉強時間は、国際比較で最低の部類に属しています。一方で、一日のメディアとの接触時間は非常に長い。学生たちを目にしていても思うのですが、十代の多くの若者の心には、向学心の炎は燃えあがっていません。さらにそれは若者に限ってのことではなく、多くの年代において、そういう人たちが増えてきているように思います。

世界は新型コロナウイルスによって、刻一刻と状況が変化しています。その都度、明確な判断を求められます。スーパースターを待望するばかりでは、人まかせの意識になってしまいます。このような日本を代表する人々に触れることで、一人ひとりの心にある向上心をふたたび確認し、燃え立たせてほしいと思います。より芯となる「日本、日本人としてのアイデンティティ」を作り上げてほしいと思います。日本国中が熱くなれば、コロナを乗り越えた先に、違う未来が開けていると思うのです。

vol.24 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年7月号掲載

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