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Vol.40 辞書を生活に取り込もう

タイトル

日本語のベースを漱石に学ぶ

 私たちは、日本語を使って読み書きをし、日本語を話し、日本語で考えて暮らしています。ですから、私たちは日本語の海で暮らしている魚のようなものです。日本語なくして日本人なしというくらい、日本人にとって日本語は不可欠のものです。
 そして、今、私たちが使っている日本語のベースにあるのは、近代につくられた日本語です。私は、その一番中心にいるのが夏目漱石だと思っています。漱石は近代日本語をつくった中心人物であり、もっとも人気のある作家といえるでしょう。
 明治時代、漱石はそれまでの言葉を活かしながら、新しい用法を工夫して次々に言葉を編み出しました。『日本国語大辞典』を見ると、『坊っちゃん』の文章が用例にたくさん取り上げられています。言葉をつくるというよりも、漱石が新しい意味合いで使ったということです。
 なので、漱石の作品について、ストーリーを追うだけではなく、漱石が使った言葉に立ち止まって見てほしいと思っています。一つひとつに奥深い意味があることがわかり、文章の味わいがより一層深くなったり、新たな解釈が生まれたりします。そうすることで、作品鑑賞がより深くできると同時に、語彙も豊かになっていくのです。
 私は『語彙力こそが教養である』という本を出したことがありますが、教養とは、突き詰めると、いろいろな分野についての語彙を理解し使いこなすことができることではないかと考えています。そういう意味で、漱石の作品を言葉にこだわって読むことを通じて、語彙力をアップしていくことこそ、教養をつける確かな道ではないかと思います。

辞書を活用して語彙を増やす

 実際に、教養とは語彙力で測られます。言葉を知らないのに、その事柄がわかっていることはあり得ません。例えば、マルクス主義という言葉を聞いたことがあったとしても、上部構造・下部構造や、階級闘争、唯物史観などの言葉がわからないと、うまく説明することができません。いろいろな思想・知識には、それに必要な用語があり語彙があるので、語彙を増やしていくことこそ重要なのです。その語彙を飛躍的に増やしてくれるツールの一つが辞書です。
 小学校では今、辞書がどういうものかを知るために、辞書の引き方を教わります。辞書はこうやって使うものだという基本的なことを小学生時代に教わるのは大変重要だと思います。
 私自身も学生時代は辞書で勉強し、今では電子辞書をほとんど手放さない主義です。持ち歩くことも多いですし、何かにつけて辞書を引いて確認しています。もちろんインターネットにアクセスしても用語の意味を調べることはできます。派生的にいろいろな情報を得ることもできます。しかし、正確な知識を求めるのであれば、インターネットは玉石混淆なところがあり、根拠があいまいなことも多いのです。その点、辞書は、大変厳しい校閲を経た、精選され磨き抜かれた確かな知識なのです。
 例えば、『広辞苑』にある言葉が新しく収録されたとニュースになることがあります。それは、その言葉が信頼されている辞書に掲載されたことで、正当な評価を受けて認められたことになるからです。「やばい」という言葉が辞書に入ることによって、「やばい」は普通に使っていい言葉なのだと評価を得たことになるのです。
 そのように、辞書とは非常に信頼性が高く、常識の基準になるものであり、インターネットにあふれている他のさまざまな情報とは一線を画すものです。それが辞書の優れた点です。しかも電子辞書の場合は、さまざまなジャンルの複数の辞書を瞬時に引くことができて、広範な事柄をいろいろな角度から調べられます。ですから、確かであること、広範囲であること、迅速に引けること、という点で辞書は、画期的な学びのツールであり教養のツールであると言えます。

リビングに辞書を

 小学生の学習に辞書を取り入れる学習法が評判となっています。小学生用の国語辞典を使い、引いた言葉のページに付箋を貼っていくという、元立命館小学校校長(現中部大学教授)の深谷圭助先生の「辞書引き学習」の実践は、非常に有効な学習方法だと思います。辞書をどんどん引くことによって付箋の数が増えていく。それを積み重ねていくことで付箋の数だけ知っている言葉が増えていく。子どもたちは辞書を引くのが面白くなり、付箋を貼ることで自分がどれだけ辞書を引いたかはっきりわかるのでやる気が出る。子どもの言葉への意欲を引き出す非常によいやり方だと思います。そして、辞書を引くことで読む力をつけ、読解力を伸ばしていくことができるようになるのです。
 そこで、ぜひリビングに辞書を置いてください。テレビを見ているときでも、「この言葉はどんな意味だったかな」と思ったらすぐに引くことができて、「こういう意味か」と知ることできる便利なツールです。しかもその知識を家族みんなで共有することができれば、それによって家族の知的なベースが上がってくるのです。
 当たり前のことですが、日本語を使いこなすのは、私たち日本人にとっては基本的なことです。語彙力が上がって日本語をうまく使いこなせれば、書くことも話すことも苦にならなくなります。「簡にして要を得る」という言葉がありますが、簡単でありながら要点を押さえた話し方ができれば、話し上手にもなれます。そして聞き取るときにも、難しい漢語が混じっていても理解ができるようになります。読むとき、書くときも、語彙が豊富であればより難しい本を読むことができるし、内容の深い、「意味の含有率」の高い文章を書くことができるようになります。
 すなわち、話す、聞く、読む、書くの四つの言語活動において、語彙力が決定的な役割を果たしていることを、辞書を活用することによってはっきりと認識することができます。そう考えると、辞書を使わずに生活している人は、知識、語彙がふわふわしたままになりがちではないかと思うのです。

vol.40 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2022年11月号掲載

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