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Vol.5 「時間を管理することは人生をデザインすることです」

タイトル

人生を見つめ直してみる

私は大学での本業の他に、本を書いたり講演をしたり、テレビに出たりといろいろな仕事をしています。しかも、時間を管理するために、常にストップウォッチを持ち歩いて、大学の授業のときはもちろん、それ以外の仕事の場でも愛用しています。そのためか、周囲からは「忙しい人」と思われているようで、最近観た映画やテレビの話をすると「よくそんな時間がありますね」と言われます。でも、実際にはけっこう「暇な時間」があるのです。人は、自分の人生を見つめ直すと時間の使い方が変わります。なぜなら時間論の本質は、何に時間を振り分けるか、という価値観だからです。

私の時間の使い方が大きく変わったのも、人生を見つめ直す出来事に直面したときでした。私の場合、その出来事とは病気でした。「いくら働いて稼いだとしても、ここで死んだら元も子もない」そう思った私は、時間の使い方が大きく変わりました。今の自分は何に時間を使うべきなのか、時間を振り分ける価値観が芽生えたのです。限りある時間を何に使えばいいのか。実は、この優先順位は人生の立ち位置によって変わります。そして、よく言われているように、時間が流れる感覚も年齢によって違ってきます。若いときには若いときの優先順位と、それに即した時間術があり、壮年期には壮年期の優先順位と時間術が必要なのです。

忙しい人ほど時間を生み出せる理由

よく「忙しい人ほど時間を生み出している」と言いますが、それを可能にしているものこそ、段取り力なのです。

仕事をするとき、スピード感が出ない原因は、頭の回転が鈍いからではありません。その仕事全体のデザインができていないことが原因なのです。デザインができていないのは、ゴールが見えていないからです。ゴールが見えないのに動きはじめてしまうと、どうしても途中で迷いが生じます。ですから仕事をスピーディーにこなすためには、まずこの仕事で求められているものは何なのかということを考え、この仕事の目的はこれだという「ゴール地点」を明確にしておくことが必要です。

忙しい人は、一つの物事に費やせる時間が少ししかありません。まず目的地を見極め、次にそこに至る最短コースを描きます。途中で迷っている暇などないので、常に最短距離を探す努力をします。そうして訓練しているうちに、自然と「逆算思考」が身につくので仕事のスピードがアップし、結果として時間に余裕が生まれるのです。こうした「逆算思考」は人生をデザインするうえでもとても大切なものです。

スピードの価値

私は、これからの時代は、ますますスピードが重要視される時代になると思っています。なぜなら、仕事のスピードは今やその人の信用度に直結する問題だからです。

そういう意味でも、作業スピードをアップさせる努力をするということは、単に自由な時間を生み出すというだけではなく、自分の社会的信用度を高めることにもつながる重要事項だと言えます。ところが、スピードを重視している人、自分のスピードを武器としてアピールする人はまだあまり多くありません。とりわけ、経験値の低い人は、スピードこそが価値であるという観点に、まだ慣れていないような印象を強く受けます。実際、学生でもスピードよりも丁寧にやることのほうが価値が高いと思っている人はたくさんいます。

先日も、英語のレポートを期日までに2ページ提出するという課題を出したのですが、2ページと言っているのに1ページしか書いてこない学生がいました。そこでなぜ1ページしかないのか理由を聞くと、「ちょっと考えすぎてしまって」と言うのですが、これではお話になりません。その学生が悩んだか、どうかなど、こちらは問題視していないからです。2ページ書くということが提出の条件なのですから、できふできにかかわらず、とりあえずは2ページ目の最後まで英語で埋まっていなければ、評価の土俵にすら上がれません。考えすぎた結果、時間がなくなって書けませんでした。ではダメなのです。

スピードが上がらない理由は、一種の心理的障壁みたいなものがあるために、本当に必要ではない作業に多くの時間を使ってしまうからです。でもそれは、本当に大切なこと、本当に必要なこと、今自分が求められていることがわかっていないということです。わからないから悩むのです。ですから、スピードを自分の「武器」と言えるまでに高めるためには、単に作業のスピードを上げる努力をするだけではダメです。普段からストップウォッチを使い、短い時間で脳をフル回転させる訓練を積むことで、短時間で物事の本質を見抜き、そこにアプローチする技術を養うことが必要不可欠なのです。

ゴールへ向かって、シンプルに

武器としてのスピードを身につけることができるかできないかで、その人の生涯に使える時間が大きく変わります。このとてもいい例が、神の手を持つ医師と評される世界的脳外科医・福島孝徳氏です。

彼の技術は素晴らしく、世界中の医師が見学にきては、絶賛していますが、その技術を支えているのは、これまでにしてきた手術のとてつもない数なのです。その数たるや、多いときには年間で900件もの手術をこなしたと言います。その膨大な経験値が、彼の財産となっているわけです。なぜなら、外科医というのは、手術をした件数が多ければ多いほど、経験値が高くなるので、有利だからです。

これは鶏が先か卵が先かというような話なのですが、なぜそれほど速いスピードで手術ができるのかというと、数に裏打ちされた経験値があるからです。経験値が高いと、問題の予想がつくので判断が速くルートにむだがなくなります。そうした経験値を生む数をこなすためにはスピードが必要なのです。

ではどちらが先なのかと言えば、とにかくある一定の経験値を積まなければならないのですから、やはり最初に必要なのはスピードなのです。もちろんスピードを重視するあまりひどいミスをしてはいけませんが、結果が同じレベルであれば、仕事というのは速い人に頼むようになるので、結果的には速さを心がけることが経験値につながります。そういう意昧でも、まずはめいっぱいスピードを重視することが必要だと私は思います。

若いうちは時間が足りない一方で、定年退職後は時間が余って仕方がないなど、時間に関する悩みはつきません。歳をとっても自分のゴールデンタイムを見つけて、楽しむような生き方ができれば、人生はより豊かになるでしょう。時間の使い方とは、人生の価値観そのものです。

時間を生み出し、同時に人生をデザインするための方法を実践することで、人生はより豊かなものになるでしょう。

vol.5 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2019年6月号掲載

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