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Vol.57 「調べて、わかる」は人生を豊かにするキーワードです。
これからの時代、頼りになるのは「調べる力」
私たちは、2022年、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、2023年、ハマスのイスラエル攻撃という世界史的な大事件を目の当たりにしました。
私たちは、日々刻々と変化する世界情勢と無縁ではいられません。世界では、今回の戦争のように「まさか」の事態が起こり得ます。状況が変化したときには、それに応じて何をすべきかを自分できちんと考えて、実行する必要があります。
大切なのは「今、本当に起こっていることは何なのか?」を知ることです。正しい情報を集めて、調べて、考える。この行為こそが、正しく判断するための第一歩となるのです。現実に目を向けて、調べて、判断する習慣を持てば、高度な知性を獲得できますし、変動する状況の中で、自我を保つことも可能となります。
もちろん、これは戦争などの大事件に限った話ではありません。私たちは日常の中で、さまざまな変化を経験しています。たとえば、ビジネスの場では、ロボット、クラウド、ビッグデータ、AIなどの先端技術の導入も各職場で進められています。古い価値観をアップデートできず、いつまでも過去のやり方にこだわっている人は、思考停止に陥っているも同然です。これでは世の中に受け入れられる商品やサービスを生み出すのは難しくなります。
時代に取り残され、結果を出せない状況が続けば、自分自身が不本意な人生を送ることになるだけでなく、会社や日本という国にとっても大きな損失となるでしょう。
探究学習が新たなトレンドに
こうした変化の激しい時代状況を踏まえ、学校教育の現場では新たな課題として「探究学習」が掲げられています。
文部科学省のホームページには、探究学習について、次のような解説があります。
「総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすものである。」
つまり、データが社会の中心となるなかで、私たちは、身近なデータを活用し、新しい知識を創造する探究力が求められています。そのためには、探究のための科学的な思考の方法と統計的にデータを分析する方法を理解し、身に付けなければならないのです。社会的な課題に目を向けるとき、どのような情報が必要で、収集された情報にもれはないか。そして、世にあふれる情報を捉え、解析する力こそがこれからの子どもたちに求められているのです。
「思考、判断、表現」は武器になる
自分で課題を見つけ、自分で解決するために調べて分析する力が重視されているのは、大人も例外ではありませんし、今から学び直しても遅くはありません。お子さんと一緒に「調べる力」を、大人向けにバージョンアップさせましょう。言い換えるなら「大人の探究学習」をすることです。
現代社会は猛烈なスピードで進化しています。ビジネスにおいては、新しい商品やサービスが投入されてもすぐに陳腐化します。次々とアイデアを発想し、イノベーションを生み出さなければ、あっという間に取り残されかねない状況です。さらに、AIの導入がますます進むと、さまざまな職業がAIに置き換わると予想されます。このような状況にあって、私たち大人は、まず時代の流れを的確につかみ、思考して判断して、商品やサービスに結実させていく能力を身に付ける必要があります。時代の流れをつかむ際には、「最近景気が悪い」などと思い込みのレベルで状況を把握せず、きちんとしたデータを調べ、ファクト(事実)を知らなければなりません。
疑問や違和感は、とりあえず調べてみる
疑問や違和感は、何かを調べる際に大きな原動力となります。
2019年に、秋田魁(さきがけ)新報という地方紙のスクープ記事が、優れた報道の担い手に贈られる新聞協会賞(2019年度)を受賞しました。
その記事の内容は、ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地選定をめぐって、防衛省の調査報告書に事実と異なるデータが記載されていることを独自調査によって明らかにしたというものです。
発端は、秋田県秋田市と山口県萩市・阿武町が同システムの配備候補地になったことでした。記者は、「なぜ秋田市が候補地になったのか」「この候補地は住宅もある市街地に近い。危険ではないのか」と疑問に感じ、独自の調査を開始しました。
ほかの候補地を不適地とした理由の中に、周囲の山がレーダー波を遮るから、というものがありました。防衛省の報告書では、男鹿市にある本山の仰角を15度と記載していました。秋田で活動しているその記者は、その記載内容に違和感を抱き、実際よりも山の高さを誇張しているのではないか、との仮説を立てたのです。
計算してみると、本山の仰角は4度という数字が導き出されました。4度と15度ではまったく異なります。現場に足を運び、調べたところ、やはり4度であることが示されました。そして後日、改めて専門業者が測量をした結果、やはり仰角は4度であることが判明。これを受けて、防衛省の調査データにミスがあったと報じ、全国的な反響を呼んだのです。
日常的に疑問や違和感を持とう
本来、官公庁が発表するデータは信頼性が最も高いものであり、疑念を抱こうともしない人が大半でしょう。そんな中、「なぜ秋田市が候補地になるのか?」という疑問と、データへの違和感を出発点に、自分の力で調べた記者の行動力は称賛に値します。日常で疑問や違和感を持ったら、曖昧にせず、実際に調べてみる姿勢が大切です。あきらめず調べていけば真実に到達できますし、調べる力も確実にアップします。
調べることの基本は「データを見ること」です。データに基づいた正しい情報を使用することで、説得力が生まれます。また、それをしっかり分析すれば、ビジネスにおいて日常生活において正しい判断をすることもできます。ですから、常にデータを参照し、それに基づいて思考する習慣を身に付けたいものです。
vol.57 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年4月号掲載