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Vol.64 お米は日本人のこころも身体も元気にしてくれます。

タイトル

日本人は何をどう食べるべきか

 日本人とは切っても切れない存在のお米。今夏、そのお米が店頭から姿を消し、令和の米騒動などとも騒がれました。しかし、近年は食生活の変化によって、お米の消費量が減る傾向にある、というのも気にかかります。
 生物というのは、環境の変化によって驚くほど変容します。人間が今このような形で存在していること自体、内臓も姿もすべて環境に合わせてきた結果で、今の私たちの姿は、環境に合ったデザインと機能を兼ね備えた形と言えるでしょう。
 たとえば日本人は、腸の長さがほかの国の人と違ってとても長い。だから胴長なのですが、それは長い歴史の中でお米をたくさん食べてきたことが影響しています。しかし、ここ50年で、国民一人あたりの消費量が半減し、日本人の食生活は急激に欧米化しましたが、その生活に腸がついていけていません。従来持っている酵素もそうした食生活に合わないため、肉を消化しきれない人もいるし、アルコールに極端に弱い人もいます。生活は急変しても、遺伝子は急には変われないのです。
 何十世代、何百世代と、米や野菜や漬物を食べ続けてきた生活が、日本人の身体をつくってきた。食べるものが変わったからといって、急に自分の代で腸の長さを変えることはできないし、腸の機能を変えることもできないのです。
 生活形態の急激な変化は、天に反すること。そういう意味では、日本人にとってお米のある食卓が今、とても重要なものに思えます。

何が食べたいの? 本当に食べたいの?

 40歳くらいを境に、私はひどく忙しくなりました。大学での仕事のほか、取材を受けたりテレビに出演したり、年間の出版点数が50冊以上になった年もありました。これはどう考えても異常事態です。それをやりながら夜遅くまで騒いで飲んだ日に、倒れてしまいました。生まれて初めての入院です。そのとき、人間の身体は壊れるものだと初めて気づきました。そこまできて初めて気づくなんてどうかしていますが、それが正直な気持ちでした。
 今でも当時の手帳を見ると、ぞっとします。倒れたあとは仕事のペースをコントロールし、週の前半がきつければ後半はゆるくするなどバランスをとるようになりました。休んでみるとわかるのですが、たいていの仕事には代わりになる人がいます。自分がいなくなったらだめだと思いがちですが、たいがいのことは滞りなく進みます。
 当時はある意味で「欲のおもむくまま」だったと言えます。身体から信号が出ていたのに、ペースを抑えることができなかったからです。身体の内側の声を聞けるかどうかは、長生きをする上でとても大事なことです。動物はそれが上手で、あるときはやたらにキャベツばかり食べるのに、翌日になるともう食べない、ということがあります。必要なものを必要な分だけ摂取するのは、彼らが身体の内側の声を聞いている証拠です。
 「本当に食べたいか?」と身体に問いかけてみると、実はそうではないことが多いのです。それでも食べたいと思うのは、脳だけが欲しているときです。もうおなかはいっぱいなのに、目の前においしそうなものがある。体重は百キロを超えて身体が悲鳴を上げているのに、まだ食べる……。こんな人は、脳の快感と身体が欲していることが完全に乖離しています。たまにはごちそうを心ゆくまで食べてもいいと思いますが、欲するままに食べ続けていると、身体が壊れてしまいます。

生気のあるものを食べよう

 人間は、植物の命や魚の命や動物の命をいただきながら生きています。それらの命を新鮮なうちにいただくと、自分の命も元気でいられます。反対に古くなった食べものは、身体の循環を滞らせ、気をふさいでしまいます。
 旬の食べ物や新鮮なもの、水揚げされたばかりの魚などは、やはり生気が満ちているので人気があります。それを食べると、身体も新鮮な循環で回っていくように感じます。
 また、古い食品といっても、漬物などの発酵食品には、時間がたってからおいしくなっていくものがありますので、新しいものばかりがよいというふうにも言いきれません。その食品に、生気があるかどうかをチェックできる目が必要です。

生産者のこころを味わう

 昔はよく「お百姓さんに申し訳ないから、ひと粒も残さないように」と言ったものでした。お弁当のふたの裏についた米粒まで残さず食べました。「お百姓さん、ありがとう」という気持ちが、日本人の中に浸透していました。
 今の食品は外国から輸入されるものも多いですが、「私が作りました」という表示つきで生産者がわかる販売方法も増えてきました。安心できる農家と手を結び、お米や野菜を買うシステムも、新しい流通の形として人気が出ています。自給率が100%に上るお米や、生産者の顔が見えるやり取りは、安心感につながります。
 実は、私の健康に対する知識は情報番組によるものが多く、納豆がいいと聞くと納豆を、ゴマがいいと聞くとゴマを、シナモンがいいと聞くとシナモンを食卓に取り入れました。テレビに踊らされていると言えなくもありませんが、このようなことを繰り返すうち、食事がお米のある和食中心の健康的なものに変わっていったのです。というのも、どんな番組も、たいていは「和食の粗食がいい」という話に落ち着くからです。
 日本には健康情報があふれていますが、それは悪いことではないと思います。天皇陛下の料理人だった人は、様々な素材を工夫して組み合わせ、品目を多くしていたと言っていました。日本人は歴史的に見ると、お米と野菜少々と漬物を食べ続けてきました。動物性脂肪や脂っこいものは、元来口にしないもの。消化酵素などが足りず負担がかかるため、少量にしたほうがよいのです。偏った食事ではなく、品目を増やしたほうがバランスがよいのだと思います。そして、それらにお米はよく合います。

vol.64 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年11月号掲載

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