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Vol.74 世界を広い視野でとらえましょう。

タイトル

地理が私たちに教えてくれること

 地理という教科は、いま本当に人気がありません。選択で取る人が少ない。それは、地理という教科のイメージがつかみにくいからではないでしょうか。地理は一応、社会の分野に入っていますが、純粋な文系ではありません。意外にも、半分は理系の学問なのです。たとえば気候とか、生産量の変化とかグラフなどは基本が統計です。地質学なども、歴史の要素はありますが、分析の手法は理系のものです。だから、大学の地理学科は、「ニューギニアに住む人々」といったことを調べる文系の人と、天気が好きな理系の人など、ふつうは大学進学で別々になる、文系と理系の両方の人が同居しています。そのため、とらえどころがない感じがするのではないかと思うのです。
 しかし、地理という教科は、大人になってから「ちゃんとやっておけばよかった」と言う人がけっこう多い。それは実社会に出て、地理で学んだデータのもつ意味が実感としてわかってくるからでしょう。
 私も講演などで日本全国を巡るようになって、人間に対して風土が及ぼす影響というのははとても大きいな、と思うようになりました。単に方言が違うというだけでなく、話すテンポには北国の厳しい寒さが影響しているといったことがわかってきたからです。
 でもそれは、必ずしも現地に行かなくても、地理で学ぶデータからわかることなのですね。だから、単なる数字としてボヤッとながめるのではなく、何がイメージできるのか考えると、急に地理はイキイキとしたものになってきます。
 たとえば、年間降水量のグラフを見たときに「こんなに雨が少ないのではとても住めないな」とか「ここは年中、暖かくてけっこういいかも」と想像してみる。都市の名前がなくて、年間降水量と気温から住みたい順に並べろと言われたら、ニューヨークに憧れていたけれど、自分が合っているのは実はケープタウンかもしれない、なんてことがわかってきます。

データから世界が見える

 中東の戦争の背景には宗教の違いがありますが、これにも地理が関わっています。たとえば、砂漠の宗教と多湿の国の宗教はかなり違います。気候条件の厳しい砂漠では、アラーのような一人の神が、厳しい戒律を課してきます。それを守らないと、生き抜いていけないからです。
 しかし、温暖で雨が多いと何もしなくても草木が生え、食べ物が実ります。だから、日本では「八百万の神」といって、あらゆるところに神様がいてくれるおかげで、食べ物には不自由しないという考え方になります。
 地理を学ぶと、そういう世界の大枠がわかってきます。データから人間を理解できるようになってくるのです。自分をそこにあてはめたらどうかなと、生活感覚を重ねていくと、本来の地理の面白さが見えてきます。
 たとえば石油が値上がり傾向で、社会的な問題になっているとします。そうしたら、石油の消費量の推移のグラフを見てみます。ものすごい急カーブで増えていることでしょう。これでは石油の消費量が少し増えただけでもたまらないな、というのがわかります。でも、少し遡ってみると、ほんの100年前の明治時代は、石油をほとんど使っていなかった。では、石油がなくてもまったく困らない生活って、どういう生活だろうと想像してみる。
 地理というのは、大局的な観点から物事を見る練習になるものです。随分前に、『世界がもし100人の村だったら』という本が話題になりました。これは、そういう見方です。上から見てつかみ取るような、俯瞰する感覚。それが地理の面白さです。

大局的な目を養う

 そもそも地理とは、世界を把握したいという欲望から生まれたものです。世界を旅して得た「ここに山脈がある」「自分たちと違う人種がいる」といった知識を集めたものです。身の回りのことだけでなく、自分たちの知らない世界を、広い視野でとらえようとしたのが地理なのです。
 だから、子どもや学生たちには、世界を知るという、地理の基本的な欲望を持っていてもらいたい。それは地理という学問が、実は世界を大きく動かす感性を養う学問だからです。
 優秀な政治家は、地理的な数字に強いものです。災害が起こっても、ここを押さえればこの地域は大丈夫だから、ここに注力しようなどとパッとわかる。
 日本は平和だと言っているけれど、実は自然災害が多くて安定していない国なのです。火山噴火や地震、水害などで一気に土地が崩れてしまう。そこをかんがみて、この辺りにダムを作ろうなどを考えるのが政治家です。
 政治家に限らず、日本を動かしていこうと思ったら、データから大きくとらえる地理的な感覚は、必要なことです。地理はしっかり経済と結びついているのです。データから世界中のさまざまな実情がわかります。
 地理というのはマイナーな感じですけど、明日を担う人間が、ぜひ学ぶべき教科です。大人になると、その大切さがわかります。地理はいろいろなことがわかる教科なんだと、もっと早く知っておきたかったなと思ってしまいます。

これからの地理

 地理の学習も変わってきています。高校では「地理探究」と名前を変え、現代社会が抱える課題を理解し、持続可能な社会の実現に向けて貢献できる力を養うための重要な科目として位置づけられています。
 この科目の誕生には、グローバル化が進む現代社会において、地理的な見方・考え方を通じて世界の諸課題を探究できる人材の育成が急務となっているという背景があります。こういった傾向は、非常にいいことだと思います。
 大人がするべきことは、学ぶおもしろさに目覚めさせ、勉強への気力を育むこと。勉強はつまらないものという、まちがった風潮を変えていくことです。
 また、大人も学び続けるべきだと私は思っています。自分自身ができないことを、子どもに押しつけてはダメです。
 大人も、楽しく学びましょう。
 新しい知識は、あなたに心のゆとりをもたらし、豊かな人間にしてくれるでしょう。

vol.74 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2025年9月号掲載

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