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Vol.75 元気は目に表れます。~目の休息は、身体、心、脳の休息です
一日に数度「目のチェック」を
私は身体についての研究を、二十歳頃から行ってきました。そのときに出会ったのが、江戸時代に書かれた貝原益軒の『養生訓』です。「養生」とは、現代の言葉に置き換えると、もっとも近いのが「健康」ですが、ここに書かれたその言葉が身体だけでなく、心のストレスも少なくし、心にすっと入ってきたのです。そして実際に、年を重ねて若いときのように無理がきかなくなったとき、益軒のアドバイスを取り入れて生活するようになると、その良さがさらにわかってきました。
目に精神ある人は寿(いのちなが)し。
精神なき人は夭(いのちみじか)し。
『養生訓(巻第二の23)』貝原益軒
「目に精神ある人」という表現がユニークです。精神とは、生気のことです。特に病人を見るときには、目に生気が宿っているかどうかを確認せよと益軒は言います。
多くの人は好きなことをやっているとき、目に精神が宿るのでしょう。しかし目の輝きが、長命か短命かの差だとは、普通は考えません。「あの人は元気そうだな」と思うくらいです。
子どもが小さかったころを振り返ると、目に力がないときは心身の具合が悪いときでした。元気のなさは、手や足には表れません。ほっぺやおでこにも表れない。表情の中でも、目にはっきりと表れます。不安があったり、いじめがあったりすると、目に力がなくなるのです。
子どもを教える仕事をしていると、目をキラキラさせてこちらを向いているときと、そうでないときの違いがよくわかります。先生というのは、「今日はこの子は調子が悪そうだな」とか「元気がないな」ということを、目の力を見て感じるものです。目の生気は、人を相手に仕事をしていると刺さってくるからです。
鏡で「目ヂカラ」チェックをしよう
人は多かれ少なかれ、相手の目に精神があるかどうかを感じながら、生きているものです。まずは自分の子どもや家族の目を、意識しながら過ごしてみることをおすすめします。
そして、自分の目の精神を確認することも重要です。鏡で表情を見たときが、自己チェックのタイミングです。一日に何度か鏡を見て、自分の目に精神があるかどうかを確認する。それだけでも、意識的に気分を上げていくことは可能です。時折、電車の中で窓に映る自分の顔があまりに疲れた表情をしていて、驚くことがあります。そんなときも、目に力を入れてみると、気や血がめぐってくるように思います。「目ヂカラ」という言葉が流行りましたが、やる気のある目をしているかどうか、自他共に注目してみましょう。
目からの情報を遮断する
一方で、用事がなければ目を開かないほうがいい。とも益軒は言っています。
私たちは寝ているとき以外、目を閉じることは少ないものです。用事がなければ目を開くなというのは無茶な話ですが、実はこれにも一理あります。人間は、ほとんどの情報を目から取り入れています。目が開いていると、あふれるような情報がずっと入り続けてくることになる。それが気を減らし、心身の疲労の原因となります。そういう意味で、目を閉じるだけでもかなり休まるのです。
私は寝つきがあまりよくないのですが、「目を閉じて横になるだけでも、睡眠に近い休息がとれる」という話を聞き、眠れなくても焦らなくなりました。目を閉じ、横になって静かにしているだけでいい。無理に眠らなくてもいいことに気づいたのです
それ以来、五分でも静かに目を閉じていると、かなり脳が休まることがわかりました。眠ったのと同じくらい疲れがとれて回復できるのです。仕事中に目を閉じるのは難しいかもしれませんが、特にパソコンを使う人は目が疲れるので、目の周りをやさしくマッサージした上で「ちょっと一分」目を閉じてリラックスする。目を休ませるというよりも、こうして脳をときどき休ませ、ゆったりと深呼吸をしてからまた再開する。そのほうが仕事も長く続けられると思います。
自然の中で「気」の交換をしよう
人間の身体の中に「元気」というものがあるとすると、自然の中には「天地の気」があります。元気のもとは天地の気であり、それらが互いに出入りしているイメージを描きましょう。元気と天気、元気と外気はすべてつながっています。ところが残念ながら、天地の気と自分の元気がつながっているとは、多くの人が意識していません。
東京のような都会では、土も緑も少ないため天地の気を感じにくくなっています。都会に暮らしている人は、知らず知らずのうちに気を減らしています。それを取り戻すには、自然の中に入っていくのが一番です。自然の中に身を置けば、天地の気と「気の交換」ができます。緑や山や海が持つ気はとてつもなく大きいので、たびたび出かける機会を持つとよいでしょう。
日本はそもそも山と緑の国なので、自然があることが当たり前すぎて、都市を造っていくときに緑化が考慮されませんでした。ですから都会に住んでいる人は、時間があればちょこちょこと山や海へと遠出し、天地の気を吸収しに行くといいのです。自然の緑は目も休まるし、植物が持っている気に満ちています。植物の、緑の恵みは、人間にとって非常に大きいものです。身の回りの自然が織りなす緑を堪能しながら、日ごろの目の疲れを解消してみてはいかがでしょうか。
vol.75 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2025年10月号掲載

