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Vol.9 「小学生時代に「お金」について考える」

タイトル

お金儲けをしたかった子ども時代

私の実家は商売をしています。祖父が家具職人で、父の代に高度経済成長に乗って家具の製造工場を造りました。今は中国製品にやられて厳しいですが……。当時は家の中に三面鏡が三十台くらい並んでいて、顔を入れて見るのが楽しかった。九十面鏡ですね(笑)。でも今、三面鏡はまったく見ませんね。今は造り付けの家具でないと部屋が狭くなってしまうので、鏡台自体が売れない。住宅事情や生活様式の変化が、ハッキリと出てしまう業界なんです。

そういう、商売と世の中の流れとの接点みたいなところで暮らし、商人の感覚があったから、学者になったとき、「この業界は、なんて経済的センスのない人たちの集まりなんだろう」ってビックリしました。

小さい頃には「お金を儲けてみたい」という気持ちが、すごく強かったんです。幼稚園の頃は、「車屋さん」とか「飛行機屋さん」になりたいと思っていた。その理由はというと、一番大きなものを扱う人が一番儲かるんだと思っていたからです。家具では小さいと。そんなこと考える幼稚園児、普通はいないでしょう。小学校に入ったら、ちょっとロマンが入ってプロ野球選手になりたいとか、思いましたけれど。

あと、コイン集めにもハマりました。古銭も楽しいのですが、もっぱら現行コインです。昭和33年の十円玉は高い。コインは発行年によって希少価値が違います。穴のあいた五十円でも、すごく高価なものがあるんです。しかもそれが明治時代の銀貨になると、そのもの自体に価値がありますよね。紙幣はただの約束事だけですけれど、銀貨って銀ですから……、きれいにする薬液とか、買いました。ほかにも埋蔵金の話も大好きで、その手の本をワクワクしながらずっと読んでいました。同時に経済評論家が書いた『利殖の方法』みたいな本も。

でも、中学生あたりからどうもおかしくなったというか、10年ぐらい「お金を儲けよう」ということを忘れてしまいます。大学受験の頃は「お金儲けとかではなく、世界で一番価値のある仕事をしよう」と思うように。そういう「人生論」にハマって、お金に興味がなくなったんです。

大学院で研究しながら築地でアルバイト

どうも私の中には、人生論にハマってしまうような「志こころざし系」の自分と、小さい頃に夢見た「金儲け系」を目指す自分、という二つの体系があるようです。

大学では「世の中で一番、価値のある仕事は裁判官である」と「志系」へ。それで法学部へ進んだのはいいのですが、ぜんぜん性格が裁判官に合わないと、司法試験を受けてからわかりました。そこでまた考え直して、世の中で一番、価値のある仕事は「教育だ!」と。「文部大臣」って仕事がいいなと思っていたのですが(笑)。しょうがないから大学院へ……。そうしたら、大学院というのは給料が出ないうえに、授業料を払わなければいけない。しかも段々、いい年にもなってきます。

官庁や企業へ行った友だちは、最初の5年間くらいは仕事を覚えながら給料をもらえます。私は仕事も覚えないし、しかもお金を払って役に立たないことをやっていて(笑)。10年間ぐらいいたでしょうか。あの時が人生で一番不機嫌な時代だったかもしれません。その頃、世間はどうだったかといえば、バブルです。どんどん世の中の景気がよくなってきて、大学院時代がバブルの絶頂期。

同級生たちも、マンション転がせばいいってまじめに信じていました。片や私は26歳で、すでに結婚もしていて、お金がない。だからアルバイトをするのですが、夜は研究をしなくてはいけないから、バイトタイムは朝。築地の市場でリヤカー引きをしていました。何だか知らないけれど、世の中ってところはお金をくれないところだなって思いました。親はあんなに簡単にくれたのに(笑)。

貧しさの経験で気づいた
お金を得るためのシステム

当時は、人生で初めて貧しさを体験した時代でした。定職に就いているわけではなかったので安定した収入はありません。だから生活はいつもギリギリの状態。住まいも家賃の安い古いアパートです。部屋でネズミを見たこともありました。ですが、決して悲嘆に暮れることはありませんでした。逆にそういった貧困生活の中で学問を極めたいという情熱が高まりました。

ある日、大学の同窓生たちと食事をしたんです。同窓生たちは企業や組織の中で活躍し、日本の将来や世界経済の動向について論じあっていました。その姿に自分とは違う大人を感じました。今は学問を極める修業期間と決めていた自分にとって収入面の差に引け目はなかったのですが、彼らと比較し、決定的な違いがありました。それは、自分がお金を得るシステムにマッチした方法論を持っているか、否か。同窓生たちは、職場で組織が求めている能力を出すことで評価を獲得している。つまり仕事というシステムに適応している。だから収入を得ているのです。

では自分はどうでしょう。今、大学院生として一つのテーマに沿って研究し、論文にまとめている。それは自分が研究したい内容。しかし、それを仕事というシステムで捉えたときに、働いている彼らと大きな落差があることに気づきました。教育学者として生きていくためには、自分の能力を「やりたいこと」と「社会が求めていること」のバランスが取れた状態で使っていかなければならないことでした。この時の気づきは、大きかったですね。ベストセラーとなった『声に出して読みたい日本語』(草思社)は、この視点から生まれました。

お金は誰にとっても重要な問題

お金は、語り方を少し間違うと「金もうけ主義」、「守銭奴」といった人格否定的なことまで言われます。そんなお金に対する大人たちの愛憎半ばする思いが反映されてしまい、これまで子どもたちにお金について上手に教えることは難しいこととされてきました。

私自身は子どもの頃から不思議と倹約家で、靴は穴があくまではき、無駄遣いしないで貯蓄をしていました。貯めること自体に喜びがあったのですが、家族が浪費家だったので、家のお金がなくなったときのことを心配して、家のあちこちに数百円ずつ隠すなどしていました。合わすと30〜40万円くらいになったと思います。

それから二十数年後、それをバブル崩壊直前の間抜けな時期に株につぎこんで失ってしまいました。幼い頃の思い出も一緒になくなってしまったような思いでした。今なら大した額ではないのですが、二宮金次郎のような倹約少年には想像もつかないことだったのです。

だから、私利私欲から少し距離を置くことができる人生に入った私から伝えたいことがあります。ぜひ一度親子で「お金」について話し合ってください。そして「お金を甘く見ると痛い目にあう」ということをきちんと子どもに教えてあげてほしいと思います。

vol.9 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年2月号掲載

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