HOME > 教育の現場から > Vol.102 通知表評定の正しい読み方
Vol.102 通知表評定の正しい読み方
我々が中学生だった時代に比べて、現在の中学生を取り巻く環境はあらゆる面で様変わりしています。スマホをはじめとする生活環境はもちろんのこと、「2学期制」を取り入れる学校が増え、そして何より通知表の評定が「絶対評価」に変わっていることを御存知でしょうか。この「通知表の評定に起こった変化」がもたらしている影響をお伝えしていきます。
評定は「相対評価」から「絶対評価」へ
通知表の評定は、2003年春の中学卒業生から「絶対評価」に変わっています。我々が中学生だった頃の評定は「相対評価」といって、生徒を成績順に並べたときに、5段階評定を
5……7% 4……24% 3……38% 2……24% 1……7%
と配分することで決定されていました。それに対して現在の「絶対評価」とは、指導要領に示されたそれぞれの目標(テストの結果+関心や意欲、態度)への到達度を評価するもので、他の生徒との比較はありませんから、本人の頑張り度合いがストレートに評価として反映されるメリットがある一方で、皆さんも噂では聞いているかもしれませんが『テストで100点をとっても「5」がもらえない』『テストの成績はよくないけどきれいなノートを提出したから「4」』などという現象も起こりうるようになりました。そしてもう一つ、昔と変わらずこの評定が調査書として高校入試に用いられるため、先生によって、あるい
は学校の方針によって評定のつけ方に差が生じる「学校間格差」が表面化するようになったのです。高校入試では、公立はもちろん私立の中にも、この評定を基にした「調査書」を判定基準に使用しているところがありますから、この不公平感は受験する生徒や保護者にとってはもちろん、受け入れる高校側にとっても気になるところです。
「評定の学校間格差」の実例
それでは、評定格差の実情を「都内公立中学校第3学年の平成27年12月31日現在の評定状況」という資料から紹介していきます。先ほど紹介した、かつての「相対評価」における成績分布との違いに注目してください。港区の二つの公立中学校を比較してみます。
国語 | 数学 | 英語 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
A中学 | B中学 | A中学 | B中学 | A中学 | B中学 | |
5 | 20.3% | 8.2% | 20.3% | 4.1% | 15.6% | 6.1% |
4 | 25.0% | 26.5% | 25.0% | 14.3% | 15.6% | 22.4% |
3 | 46.0% | 36.7% | 40.6% | 38.8% | 45.3% | 42.0% |
2 | 7.8% | 22.4% | 14.1% | 30.6% | 23.4% | 22.4% |
1 | 0.0% | 6.1% | 0.0% | 12.2% | 0.0% | 6.1% |
A中学では、国数英の3教科について評定「1」の者が存在しません。国語と数学では評定「5」「4」の割合が相対評価の数字に比べて大きくなっていて、いわゆる「内申」が高めにつけられていることがおわかりいただけると思います。対してB中学では、特に数学で評定が厳しくなっていることがおわかりいただけると思います。評定「5」の者は全体のわずか4.1%しかおらず、「5」「4」の割合をあわせてもA中学の「5」より少なくなっています。さらに評定「1」「2」の者が全体の40%を超えていていることが驚きです。他の区に目を移しても、評定「5」の割合にバラつきがあるのは共通していて、目黒区では数学で全体の33.0%に「5」がついてい る中学校があり、練馬区の英語では「5」の割合が中学校によって26.8%から3.6%まで7倍以上の開きがついています。そして大田区のある中学では数学で「5」をもらった生徒は全体のわずか1.9%、英語で「5」をもらったのは2.9%、そして国語にいたっては0.0%という、にわかには信じがたい厳しい評定となっています。このデータからは読み取れない事情があるのだろうとは推察しますが、ここまで格差が生じてしまうと「評定(内申)の価値」そのものに疑問符をつけざるを得ません。
評定格差は高校入試にどのような影響を与えているか
皆さまの中にも、かつて「内申点で一喜一憂した」という方がいらっしゃることでしょう。公立高校入試では一般入試・推薦入試を問わず合否に影響を及ぼしますし、私立高校の推薦入試では「中3、2学期の5段階評定が20以上」といった受験資格が明記されているところも少なくありません。また私立の中には一般入試の出願資格の中に「評定に2もしくは1がないこと」を明記しているところもあり、評定が基準に達していないと出願すらできないケースも少なくありませんから、前述のような厳しい評定のつけ方をされる中学校に通っている場合などは、受験校の選び方そのものに影響がでることも想定しなければなりません。
次に、「評定の学校間格差」によって受験生が背負うハンディを具体的に紹介していきます。東京都立高校の一般入試では、自分の内申点を合否判定用に換算処理した「1点」(以下換算内申とよぶ)を学力検査で挽回するために必要な得点は3.3点といわれています。よって、港区のA中学とB中学で同じ学力の生徒がいると仮定し、国数英ともに「A中学の生徒は5」「B中学の生徒は4」という評定が与えられたとすれば、B中学の生徒は筆記試験でおよそ10点多く得点しなければならないことになりますから、学校選択制が導入されていない(中学校を選べない)地域・こうした情報が公開されていない地域の方は特に、「評定の学校間格差はある」という前提で準備しておきましょう。
こういった状況をふまえて、現在小学生をお持ちの保護者の皆さまには、『通知表の「3」は普通の成績』という概念を捨ててくださいといつもお話しさせていだいています。前述のA中学のような評定のつけ方だった場
合には、絶対評価の「3」はかつての相対評価だと「2」にあたる可能性が高いことを知り、中1・中2のうちから、定期テスト以外に模試を受けて「客観的な学力測定」を続けることが効果的です。
通知表が「3」に「4」がチラホラ、という場合には、生徒も保護者も『真ん中より少し上くらい』『自分はできるほうだ』と自分の位置を想像するものです。その前提で中3の秋まで過ごし、学校の実力テストや外部の模擬テストを受け始めて、予想以上に悪い成績に衝撃を受ける受験生はけっして少なくありません。数学の評定で全体33.0%に「5」がつく、というような学校にお通いの場合なら、「評定は5なのに、模試を受けたら偏差値が50前後だった」ということだって不思議なことではありません。
こうした実情を考慮したのでしょうか、東京都では2016年からすべての高校(定時制を除く)で「学力検査:調査書=7:3」という学力重視の比率を導入しました。同様の変更は全国各地で行われていますから、公立中学への進学を予定されているご家庭では、「通知表の評定との正しい付き合い方」に注意し情報を収集するようにしてください。
vol.102 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2016年10月号掲載