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Vol.104 お子さまの英語学習で気をつけておきたいこと
「小学校で英語が必修化」「高校の英語の授業は基本的に英語で行う」など、話題満載でスタートした新学習指導要領に基づく英語教育ですが、理想と現実のギャップについて興味深いデータ(中高の英語教員に対するアンケート結果)が公表されました。現在小学生のお子さまをお持ちの保護者にとって必見のアンケート結果を紹介していくことにします。
教員が「授業で実行できていない」と感じること
いきなりビックリするようなデータを紹介します。英語教員として重要だと思いながらも、授業を通して実行できていないことについての質問と結果です。20世紀型の英語教育から大転換したはずの現行の英語教育について、どうやら「中学校や高校に頼れないことがある」のが現実のようです。表の【1】-【2】の差が大きければ大きいほど傾向が顕著ということですから、お子さまが小学生のうちにこれを知っておくことはとても大切で、適切な時期に保護者として手助けしておくことが明確になり、あるいは中学受験をお考えの場合には学校選びのポイントにもなるでしょう。
英語を指導する際にとても重要だと思うこと/十分実行していること
中学校 | 高 校 | |||
---|---|---|---|---|
【1】 | 【2】 | 【1】 | 【2】 | |
基礎的内容は定着するように反復練習を行う | 87.4 | 54.7 | 78.2 | 40.2 |
生徒が自分の考えを英語で表現する機会を作る | 82.3 | 19.2 | 66.8 | 9.9 |
英語はコミュニケーションの手段と意識して指導する | 78.1 | 35.0 | 67.1 | 23.8 |
既習事項を繰り返し学習できるようにする | 76.9 | 38.5 | 63.4 | 29.9 |
入試に対応できるように指導する | 62.2 | 30.1 | 60.5 | 35.3 |
(単位:% 【1】とても重要だと思う 【2】十分に実行している)
小学校で英語が必修化されていますから、皆さまのお子さまも小学校で英語の授業を受けているかもしれません。様子をお聞きになられている方であれば、随分小学校とはイメージが違っていることがおわかりいただけると思います。中学や高校の英語授業で最も実現できていないこととされる「生徒が自分の考えを英語で表現する機会を作る」という項目は、そもそもこれを改善しない限りはグローバル化に対応できないということで指導要領を改訂した経緯があったはずなのですが……。
それを裏付けるデータをもう一つ重ねてみることにします。「(中学・高校の)教員から見る、生徒が英語でつまずく原因」という大変興味深いアンケート結果です。教室で行われている英語授業を想像してみてください。 小学校で「英語は楽しいもの」というスタンスで授業を受けてきた子どもたちが、中学に入ってギャップを感じ、それを消化できないまま高校生になっている姿が想像できる数値が出てきました。中学校ではもちろん定期テストがありますから楽しくコミュニケーションをとるだけの授業では成立しないのは当然なのですが、おそらく「中1の英語」への順応がうまくいっていないこと、具体的には「文法といかにつきあい、苦手意識を持たずに進めるか」という点でつまずいていることが予想できます。
英語に対して苦手意識やつまずきを感じている生徒の原因 (単位:%)
中学校 | 高 校 | |
---|---|---|
単語(発音・綴り・意味)を覚えるのが苦手 | 60.9 | 58.1 |
英語に限らず学習習慣がついていない | 60.2 | 65.7 |
文法事項が理解できない | 40.9 | 61.0 |
英語に対する抵抗感 | 30.5 | 46.7 |
英語を話すことが苦手 | 24.2 | 38.8 |
英語を聞き取ることが苦手 | 13.3 | 29.2 |
※「とてもあてはまる」の%
こうしたことがわかっていれば、小学生のお子さまへの「英語の準備」は時期によって若干の変化を持たせることが必要になってきます。小学校の英語授業はもちろんのこと、早い子は幼稚園の頃から英会話をはじめとするスクールに通うなどして、我々の子ども時代に比べれば、今の子どもたちが「生の英語」に触れる機会は格段に増えています。低学年のうちから親しむ英語は本当の意味で「子どもたちの財産」になりますが、「中学や高校での英語の学力」とは一致しない部分もあるのです。「英語は楽しい」と感じる子どもたちが中学で暗い顔をしなくてすむように、英語を「読む」「書く」習慣も、6年生あたりから少しずつご家庭でつけてあげる必要がありそうですし、何より「自分の考えを英語で表現する練習」を継続しておかないと、30年前となんら変わらない授業スタイルに巻き込まれて「英語を学習する目的」すら見失ってしまう可能性も否定できないのです。
本当に英語の授業は「英語」で進められているの?
2013年度の高校入学生から全面実施となった新学習指導要領によって、高校の英語の授業は「英語」で行うことが基本とされています。いわゆる進学校であればともかく、すべての高校に導入することは素人目にみてもかなり高いハードルだということを予測できるのですが、その実態についてアンケート結果を紹介していきます。
授業中、あなた(英語教師)が英語を使用する割合について
中学校 | 高 校 | |
---|---|---|
ほとんど使わない | 2.4 | 11.7 |
30%程度使う | 32.8 | 39.3 |
50%程度使う | 44.6 | 30.4 |
70%程度使う | 14.7 | 12.0 |
ほとんど英語で授業 | 3.1 | 3.8 |
(単位:% 無回答・不明は除く)
このデータを見る限り、高校のおよそ半分が「英語の授業で英語を使うのは30%以下」となっていて、むしろ中学校のほうが積極的に英語で授業を行っている(6割以上が授業の半分以上を英語で)ようです。
英語を聞く力や話す力をつけるために「オーラル・コミュニケーションⅠ」という授業が、多くの高校には現在用意されているのですが、それでも「授業を英語で行う」ことへの移行はスムーズに進んでいないようです。
新指導要領による英語教育変革の目的が「実社会で使えない英語」ではなく「使える英語」の習得にあることはいうまでもありません。否応なく国際社会の一員としての振る舞いが求められるであろうこれからの子どもたちに、「大学入試に有利だから」という理由だけで英語を勉強させるというのは、もう時代遅れだ、ということで始まった改革ですが、その実態はまだまだ道半ばのようです。
これから中学・高校と進学していく皆さまのお子さまは、ちょうど大きな変革の波の中を泳いでいくことになります。まだまだ明確な羅針盤が用意されていないのが現状ですから、保護者が明確な意図を持って環境を作るあるいは選ぶ必要性が高まっています。
「英語はあくまでもコミュニケーションツールです」が建前になってしまっている現状にどう対応すればいいのか、これを第一に考えてあげてください。
資料:ベネッセ教育総合研究所「中高の英語指導に関する実態調査2015」
vol.104 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2016年12月号掲載