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Vol.107 「私立高校の授業料がかからない」となったら学校選びをどうしますか?

 東京都の小池都知事が公表した「都内外の私立高校に通う都内在住の生徒の授業料について、 世帯年収760万円未満の家庭を対象に実質的に無償化する方針」は、中学生はもちろんのこと 小学生を持つ保護者にも大きな関心事となっていることでしょう。もしかすると全国にも波及す るかもしれないこの仕組み、保護者としてチェックしておくべきことを整理してみます。

都内の私立高校に通うといくらかかるの?

 今回の施策により、5万1千人の高校生(都内在住で私立高校に通う生徒の約3割)が年間44万2千円を支給されることになるそうです。この金額は都内の私立高校の平均授業料(左表参照)に相当する額で、保護者の経済的負担が大きく軽減されそうです。

都内私立高校学費の状況(平均)

  H28 H27
授業料 441,547円 439,071円
入学金 250,767円 249,474円
施設費 47,252円 47,824円
その他 164,884円 162,417円
初年度納入金 904,449円 898,785円
検定料 22,342円 22,252円

(2015年12月 東京都報道発表資料より)

 私立高校に通う際には、授業料以外にも入学金に施設費や交通費などの経費を見込む必要があり、高校1年次の納入金総額は平均で授業料の倍額となっていて、保護者の大きな負担となっていることは言うまでもありません(私も保護者として実感しています)。これが初年度でいえば半額、2年次3年次にはおよそ3分の1に負担軽減となれば、経済的事情で進学先を都立に限定しなくても済む生徒が増えてくることでしょう。     

影響を受ける高校、受けない高校

 この施策によって、都立私立ともにどんな高校が影響を受けることになるのでしょうか。まずは全国的に有名な日比谷高校や西、戸山といった都立トップ校の周辺から考えます。これらの学校はむしろ志願者が増えることが予想されます。従来から、学力面では充分にトライできるにもかかわらず「(経済的事情から)都立に進学することが最優先」として志願先を変えていた中学生はそれなりにいるので、彼らが失敗を恐れずにチャレンジできるとすれば、都立トップ校にもメリットは大きく、高校側受験生側の両者にプラスの効果をもたらすことでしょう。
 その反面人気が下がってしまう可能性があるのは、これまで特待制度などを用意して優秀生確保を目指していた私立高校で、この制度のメリットを消されてしまうダメージは大 きいはずです。都立高校で影響を受けるのは、いわゆる2番手・3番手のグループに位置づけされるところでしょう。具体的に言えば、国公立大学への合格者があまり多くなく、卒 業生の進路のボリュームゾーンがいわゆる「MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)」で占められている学校です。それは、学力的に高い「安全策で入学してくる層」が減少するという理由だけではありません。

忘れてはいけない
「大学入試新テスト」の存在

 実は、今春高校受験を迎えた世代は「従来の大学入試センター試験」を受ける最終学年であり、来春高校受験に向かう学年(現中2)は、いよいよ始まる「大学入試新テスト」の1期生です。これに小池施策を重ねると、中学生の受験校選びは一気に複雑なパズルになってしまうのです。
 難関国公立大学や早慶上智を目指すという生徒であれば、新テストなんて気にしないレベルで準備することが前提ですから気にする必要はありませんが、そこまでのレベルに至らな い生徒の場合だと都内の特性として私立大学を選択するケースが大変多くなってきます。その際のボーダーラインが一般的には「MARCH」とされていることを覚えておいてください。
 ご存知の通り「大学入試新テスト」はまだまだ詳細が決まっていない部分がたくさんあります。先行き不透明な現状で判断せざるを得ないとすれば「MARCHの附属に行かせ るほうが同レベルの都立高校に進学するよりもリスクを減らせる」と考えるご家庭が多くなるかもしれません。金額を調べてみましたので比較してください。
 学費においては、前述の都内私立高校学費の平均と有名大学附属高校学費との間には、初年度納入金にこそ15万~ 20万程度の差がありますが、授業料だけを見ればそれほどの大 きな差が見られない高校もあることがわかります。金額の差を埋めて余りあるメリットがあるのかどうか、新中3のご家庭を想像してみてください。

首都圏有名大学附属高校学費(一部)

  授業料 入学金 施設費 その他 初年度納入金
中央大学附属 498,000円 290,000円 0円 280,000円 1,068,000円
中央大学杉並 498,000円 290,000円 0円 290,000円 1,078,000円
明治大学明治 500,400円 300,000円 0円 240,000円 1,040,400円
青山学院高等部 600,000円 320,000円 0円 213,000円 1,133,000円
法政大学高校 486,000円 250,000円 0円 213,000円 949,000円
早稲田実業高校 468,000円 300,000円 120,000円 208,800円 1,096,800円

 早稲田や慶應の附属はレベルが高いから、MARCHの附属を進学先に考えてみる。都の施策で学費の半分を負担してもらえれば、年間50万円前後の費用で大学推薦権が手に入る(100%ではない学校もある)。都立高校に進学した場合を考えると、確かに学費は安いが予備校通いがセットなのでその費用でおそらく相殺され、新テスト1期生としてのリスクもある。そして何より高3の夏にオリンピックがやってくる。大学受験するなら夏は勉強オンリー。附属高校ならボランティアをする時間もあるだろう。一生に一度の大イベントとどう向き合うかも考えておかないといけない……。
 こうなると、「MARCH○名合格!」を謳うレベルの高校が都立私立を問わず、都立トップ校と私立大学附属高校の両方に生徒を持って行かれてしまうことが予想できます。埼玉県にある立教新座高校では、今春の高校入試で志願者が20%(199人増)もの大幅な増加となりました。他の私立高校の志願者数はこの記事を書いている時点ではまだ確定していないのですが、おそらく同様の増加傾向となることでしょう。現中3が「浪人して新テストを受けることを嫌った」傾向だけでこの増加ですから、来年度の学費負担軽減が加わると一部の都立高校は大きなダメージを受けることになるかもしれません。

小学生保護者は「頭の中の整理」を

 家庭の経済的事情に影響されず、親が行かせたい(子どもが行きたい)と思う学校を検討しチャレンジできることは大変よいことではありますが、小学生の保護者は準備に時間が取れる分だけ、溢れるほどの情報と迷うほどの選択肢をきちんと整理しなければなりません。
 中高一貫校において高校3年分の学費が無償化されるとなれば、世帯年収によらず私立中学受験を視野に入れるご家庭も増えてくるでしょう。中学受験はしないものの高校受験 で「学費負担がないなら私立大学附属高校でもいいね」と考えるご家庭は、英語を中心に早めの準備に取りかかることでしょう。もちろんこれまで通り、公立中学校から都立高校 へ進学するケースが最も多いことはいうまでもありません。3年後、6年後、あるいは10年後まで見通して、まずは頭の中を整理しておくことをお勧めします。

vol.107 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2017年3月号掲載

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