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Vol.113 大学入試改革で問われる「英語への準備」
従来の大学入試センター試験は現高校1年生の受験をもって終了します。まだまだ不透明な部分もありますが、代替となる「大学入試新テスト」の全体像がようやく見えてきました。目玉の一つである英語の大改革を中心にこれまでわかっていることを整理し、今後の準備と留意点について考えてみましょう。
センター試験廃止後の大学入試はこうなる
大学入試改革のスケジュールを世代別に整理すると、次のようになります(先行実施、本格実施という名称は便宜上で、正式なものではありません)。
大学受験時期 | センター試験 | 共通テスト
(先行実施) |
共通テスト
(本格実施) |
|
---|---|---|---|---|
現高1 | 2020年春 | ○ | × | × |
現中3 | 2021年春 | × | ○ | × |
現中2 | 2022年春 | × | ○ | × |
現中1 | 2023年春 | × | ○ | × |
現小6 | 2024年春 | × | ○ | × |
現小5 | 2025年春 | × | × | ○ |
予定通り、現行の大学入試センター試験は2020年1月で廃止され(現高1が最後)、東京オリンピックが終了した後の冬から新テスト(大学入試共通テスト)が実施されます。新テスト1期生となる現中3から現小6の世代は現行の学習指導要領で学ぶこともあって、様々な点で現センター試験と併存することがわかってきました。その反面、新学習指導要領で学ぶ現小5以降の世代については、現在のシステムに基づいた準備はあまり意味を成さない可能性すら考えておく必要がありそうです。
それでは、世代別に「大学入試共通テスト」の詳細を見ていきましょう。
(1) 現中3から現小6までの「先行実施」はどうなるの?
・国語と数学で記述式問題が加わる
・英語は民間の検定試験も導入。ただし、大学入試センターが作成する現行のスタイルに準じたマークシート試験も併存する(採用は各大学が決定)
(2) 現小5以降の「本格実施」はどうなるの?
・世界史と日本史が統合される
・新設される「理数」という教科から「理数探究(仮称)」という科目が登場する可能性も
・地歴公民、理科でも記述式問題が導入される(検討中)
・英語は民間の資格検定試験に全面移行
大きく変わる「英語」への対応はどうする?
英語では「読む・聞く・書く・話す」の4技能の習得が問われます。そのため、現小6までの世代において併存する形で残るマークシート試験についても、現行のセンター試験と比べれば出題傾向や分野別の配点バランスが変わることが予想されます。特に現小6のお子さま(もちろん現小5以降でも)では、進学先の中学(将来的には高校も)が、必ずしもこうした変化を察知しているとは限らない可能性も視野に入れておかねばなりません。
具体的には、
①ここ数年の、お住まいの地域の高校入試問題(英語)に注目しましょう。皆さんが中学生の頃との「出題傾向の変化」について、ご自身の目で確認しておきたいところです。
②お子さまが通うことになる中学校の授業内容に気を配りましょう(公立・私立を問わず授業公開に出かけてご自身の目で確認する)。従来の英語教育で弱点とされている「話す」への意識の高さは、教室内での先生の様子でわかります。生徒が積極的に英語を使おうとしない環境で学習を続けることは、長い目で見ると大きなハンデになっていきます。
③ご自身の目で確認した①と②の内容から、「お子さまに足りない環境(話す・聞くを中心に)」が明確になれば、早めに塾などで補強を始めましょう。私立中学をお考えのご家庭では、その中学の定期試験問題も見せてもらうといいでしょう。記号問題が多かったり、英文和訳や単語の並び替え問題といった従来通りの出題に終始したりしているところであれ
ば、学校に頼らない独自の準備が必要になることでしょう。
④中学校の「英検対策」の充実度も確認しておきましょう。私立中であれば継続的に英検対策に時間を割き、直前には面接対策まで行うところも少なくありません。対して公立は、対策が行われないことは当然として、部活の顧問に理解がなく日曜日に休めないといったケースすら考えられるものです。さしあたり中学生の間は、英検を定期的に受けて「自分
の英語力を客観的に数値化する」ことが当たり前になると考えておきましょう。
現小5以降の世代では民間の検定試験に全面移行しますから、中学高校を問わず早めに一定レベルに到達し、できる限り早く「大学が設定する基準のスコア」を獲得することが そのまま大学入試へのアドバンテージになります。現中3~現小6の世代では、大学によって民間試験とマークシート試験の扱いが変わりますが、将来的なことを考えれば「検定試験を採用しない」とする大学が多くなるとは思えず、受験生側にとっても年1回のマークシート試験のみで準備するよりは、年に複数回受けられる民間の検定試験のほうが使い勝手がよい可能性が高く、「マークシート試験は保険扱い」と考えるほうが主流になることでしょう。
中3段階でどのレベルまで到達していればいいの?
高校入試においては、これまでも私立を中心に「英検を用いた加点・優遇制度」が用いられてきましたが、最近では公立高校にもその流れが及んでいます。福井県では、来春の入試から英語の得点に英検の成績に応じた加点をし、英検2級取得者で最大15点の優遇が行われます。大きな話題となったのは大阪府で、今年度の高校入試から、英検、TOEFLiBT、IELTSというおそらく大学入試共通テストでも採用されるであろう検定試験について、例えば英検準1級を取得していれば高校入試の英語を満点扱いにするという思い切った制度を導入しました。
大阪府立高校入試「英語」の得点読み替え換算表
TOEFL iBT | IELTS | 英検 | 読み替え 得点率 |
---|---|---|---|
60点 | 6 | 準1級 | 100% |
50点 | 5.5 | (対応無し) | 90% |
40点 | 5 | 2級 | 80% |
(大阪府ホームページより)
注目すべきは、福井県でも大阪府でも「英検2級」が目安として登場していることです。
中学生であれば準2級取得でも十分に凄いことだと一般的にはいわれていますから、大阪府が満点に換算する英検準1級(大学中級程度)に至っては、私も含めて保護者世代の多くが自分の感覚と照らして「そんなに高いレベルなの!」となることでしょう。しかしながら、今回の大学入試改革と連動しているこの仕組みは、子どもたちに「上限を定めず、自分の目標に向かって突き進むこと」の重要性を明確なメッセージとして伝えています。
10年、20年というスパンで見れば、このような姿勢がスポーツ界と同様に勉強でも基本スタイルになっていくのかもしれません。
保護者の過去の経験も、受験のテクニックやマニュアルも通用しなくなる時代がいよいよやってきます。幸いなことに英語は高校・大学受験で学びを終えるものではありませんから、親子で早い段階から受験に終始しない目標を設定し、長期的に歩みを進めることが最善策であろうと私は強く思います。
vol.113 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2017年9月号掲載