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Vol.117 指導要領改定で学校は、先生は、子供はどう変わった?

 学習指導要領の改訂はおよそ10年ごとに行われます。「小学校の英語」を中心とした次の改訂内容が話題になり始めている一方で、「脱ゆとり」で大きく変わった現行の指導要領で生じた変化については、かつてのような話題性はなくなっているようです。しかしながら、ここにきて様々な調査結果が公表され始めています。特に教員を対象とした調査では、生徒の変化の様子や今後に向けた課題が浮き彫りになっています。

「脱ゆとり」で中学校はどのように変わった?

 今回は「中学校の学習指導に関する実態調査報告書2017」という中学校教員を対象にした調査結果をもとに、いくつかの項目についてご紹介していきます。

(1)全校的な取り組みについて

 現行の指導要領以前に行われた調査(2010年)と今回の調査(2017年)を比較すると、中学校の取り組みについてその変化がはっきりとわかります。顕著なものを拾い上げると「小・中学校の連携、一貫教育」が13ポイント増、「放課後の補習授業」が11ポイント増、「土曜日の補修や授業」が21ポイント増などが目につきます。小・中学校の連携については「中1ギャップ」という言葉が象徴的ですが、中学校の教員が小学校へ出向き卒業を控えた小6と交流するというケースが多いようです。補習授業については、私立中学では土曜授業も含めて当然のように行われていますが、公立においても首都圏では自治体主導で外部業者に委託するケースが増えています。

(2)生徒の変化について

 公立中での補習授業の必要性が増している理由として「生徒の学力の二極化」を挙げなければなりません。生徒の学習習慣に関する質問を例にとると、2014年の調査結果と比較するだけでも「(習慣がついた生徒が)増えた」が6ポイント増えている一方で、「減った」の割合も8.9ポイント増えています。学力水準についても「低くなった」が7.9ポイントほど増加していて、一保護者としてその原因が知りたいところです。この調査結果では「小学校までの学習内容が定着していない生徒の割合」に関する質問では14年と17年でほとんど差がなく(30%弱)、中学入学以降の学習習慣構築がポイントになっていることが推測できます。

先生によって違う「身につけさせたい力」

先生がもっとも生徒に身につけさせたい力

  理科教員 社会科教員
ものごとを論理的に考える力 33.2% 19.8%
教科の基本的な知識・技能 23.2% 27.0%
自ら学び続ける力 19.3% 25.0%
自分の考えをわかりやすく話す力 11.6% 15.3%
人と協力しながらものごとを進める力 11.1% 11.6%

無答・不明は省略

 今回の調査では、理科教員(中1~中3担当)と社会科教員(中1担当)に対する調査が行われていて、大変興味深い結果が出ています。
 教科の違いがこれほど数値に表れるものなのかと驚かされました。「自ら学び続ける力」は5ポイント以上社会科教員の数値が上回っています。これはおそらく「調べ学習」が影響していると思われます。例えば地図帳で「東京」を調べるだけでも、その場所を確認して終わる子どもとその周辺地域まで目を通す子どもの間には差が生じます。理科はともかく社会科であれば自分の興味・関心しだいでいくらでも世界を拡げることが可能ですから、保護者が一緒になっていろいろと楽しく調べてみるという体験も後々生きてくることでしょう。
 逆に「ものごとを論理的に考える力」を挙げた人は、理科教員が社会科教員より10ポイント以上多くなっていることがわかります。ただし「現在受け持ちの生徒に関して、どれくらい身についているか」という質問だと、「ものごとを論理的に考える力」については、理科・社会科を問わず「(半数以上が)身についている」と答えた割合は25ポイント程度で差がないのです。身についている度合いが少ないからこそ別のことから身につけさせようと考えるのか、それが教科の違いで明確になったことにビックリしました。
 どちらが正解でどちらが間違いと言う話ではありませんが、普段の授業の進め方や評価ポイント、あるいは定期テストの出題傾向には反映されるでしょうから、お子さまへの学習法のアドバイスとしては有効だと思われます。

先生がもっとも生徒に身につけさせたい力(公立・私立)

  理科(公立) 理科(私立) 社会(公立) 社会(私立)
ものごとを論理的に考える力 33.8% 35.2% 19.6% 20.1%
教科の基本的な知識・技能 23.7% 21.0% 28.1% 21.0%
自ら学び続ける力 18.2% 26.6% 23.4% 35.3%

無答・不明は省略

 さらに学校の種別(公立・私立)を重ねた調査結果をご紹介してみます。
 「ものごとを論理的に考える力」は理科でも社会科でも公立・私立の差がほとんどなく、その重要度が教科特性と関連していることがわかりますが、「自ら学び続ける力」に目を向けると、同じ社会科教員でも私立の方が公立より10ポイント以上高くなっていることがわかります。理科教員の間でも差がはっきり出ていますから、ここでは教科特性よりも学習環境の差が影響することがわかります。おそらく私立のほうがタブレット端末等の機器を利用する頻度が高いことが影響していると思われます。私が予備校講座で出向く私立中学・高校でも、生徒たちがタブレット端末を常時持ち歩いていて不明なことがあればその場で検索して確認している姿をよく目にします。最近では自治体単位で公立中学生に端末を配布するところも増えていますが、私立との使い方の差はまだまだ大きいと思われます。

 私は大学で就活対策の授業も担当することがありますが、授業中にスマホをいじる学生を注意することはありません。初めてその光景を目にしたときは驚きましたし「教室を出ていじればいいのに」と思いましたが、学生と話をしてみて「彼らがその場で疑問点を検索して、解決しようとしている」ことがわかったからです。学生が不明な問題に対峙したとき、従来であれば「説明が始まるまで待っていよう」とボンヤリしていたものですが、今は積極的に検索していろいろ探しているのです。先日はSPI対策の授業で「わからない問題を検索したら同じ問題が出てきた。でも解説を読んでもわからなくて……」と質問してきた学生がいて教室中が笑いに包まれました。
 この光景は、私が指導要領や学生の気質の変化を知らなければ、笑いどころかお説教のシーンだったかもしれません。授業後に思い出して冷や汗をかいたのは言うまでもありません。
 小学校の教室でも中学校でも、同様の変化はすでに起こっているはずです。保護者の意識の変化も凄いスピードで進んでいかないと、子どもに置いていかれてしまうかもしれません。


出典 ベネッセ教育総合研究所「中学校の学習指導に関する実態調査報告書」2017年

vol.117 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2018年1月号掲載

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