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Vol.118 あまり知られていない大学生の「給付型奨学金」について
奨学金といえば昔も今も「貸与型」が主流ですが、返済をめぐる昨今の報道によって「奨学金=ローン」というイメージが強くなっているようです。その一方、「給付型」の奨学金制度についてその実情が報道されることはほとんどありません。私立高校生への学費支援が進む反面、大学生への学費支援の動きはまだまだ不十分なので、保護者にとって給付型奨学金に関する情報収集は「早めに動いても損はない」ことの一つといえるでしょう。
大学生と奨学金、その現状
奨学金制度といえば、最も有名なのは「日本学生支援機構」の奨学金制度です。約134万人が現在受給していますが、給付ではなく貸与ですから社会人になってから返済する必要があり、諸事情によって卒業後に就職できなかったり十分な収入を得られなかったりする場合には、その返済に苦労する可能性があることがよく報じられています。
他にも多様な奨学金制度(約43万人が受給している)が存在することはあまり知られていないようです。たとえば地方公共団体も大学生向けの奨学金制度を実施していて、全国で約12万5千人が受給しています。都道府県や市区町村が実施しているものですから給付型はおよそ25%と少な目ですが、貸与型(返済する必要あり)とはいえ利子のつかないものが多いので、役所に足を運ばれた際にでもお住まいの地域の制度について確認してみてはいかがでしょうか。
給付・貸与等別奨学生の割合
地方公共団体 | 学校 | 公益法人 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
給付 | 24.5% | 82.7% | 30.0% | 47.2% |
貸与 | 75.2% | 17.1% | 69.5% | 52.5% |
併用 | 0.2% | 0.2% | 0.4% | 0.3% |
注:日本学生支援機構の奨学生約134万人は調査対象外
次に「大学が独自に設けている奨学金制度」を見てみましょう。この制度を利用している学生は約15万人といわれていますが、その8割が「給付型(返済の必要がない)」を受給していることを覚えておいてください。給付型奨学金の中心は大学が持つ奨学金制度で、大学ごとに条件が違うために一般化しにくく、
そのため情報が世に出回らないのです。
早稲田大学の「学生生活調査」の資料(P8)によると、なんらかの奨学金を受給したことのある学生のうち、貸与型の奨学金を受給したのはおよそ6割で、4割弱の学生が給付型(学内・学外合わせて)のみでまかなっている状況が見えてきます。
この数字だけ見ると「給付型ってこんなに受給者が多いんだ」という感想を持つのではないでしょうか。ただし、この大学では受給者に占める「専門職・大学院生」の割合が高く(4割程度)、特に給付型奨学金の受給割合を押し上げていることも覚えておいてください。また、奨学基金の数も大学によって違いますから、この調査結果が他の大学にもあてはまるとは限らないのです。
早稲田大学学生の奨学金状況
受給経験あり申請中含む | 受給していない | |
---|---|---|
構成比 | 37.7% | 62.2% |
早稲田大学学生の受給奨学金詳細(複数回答)
学内奨学金(給付のみ) | 学外奨学金(給付のみ) | 学内+学外奨学金(給付のみ) | 学外奨学金(貸与) | |
---|---|---|---|---|
構成比 | 22.5% | 12.3% | 3.6% | 61.5% |
※小数第2位四捨五入につき、若干の誤差あり
各大学の給付型奨学金制度を見てみると
経済的理由があり、かつ成績優秀である者を対象とした授業料や入学料の免除・減免制度、東日本大震災に関連した各種免除・制度といった制度はもちろんのこと、多くの大学が独自の給付型奨学金制度を持っていて、学生の生活をサポートする仕組みを用意しています。
国立信州大学には授業料・入学料減免制度の適用とは別に「信州大学知の森基金信州大学入学サポート奨学金」という、40万円が入学前に一括して給付される制度があって、文字通り新生活の準備をサポートしてくれます。注目すべきは、平成30年4月の入学予定者分の申請が平成29年11月~
12月で締め切られてしまうことです。信州大学に進学する意志を持って早めに情報を集め、受験の合否とは関係なく、入試の出願よりも先に申請をしておかなければならないのです。
早稲田大学には大学が持つ給付型の奨学基金制度が90種類近くもあります。対象人数は1人のものからなんと約1200人のものまであり、対象学年も新入生~大学院生までと幅広い(特に大学院生向けが手厚い)ので、多くの学生に機会が与えられています。ちな
みに約1200人もの募集があるのは「めざせ!都の西北奨学金」で学部新入生が対象です。申請は信州大学と同様に入試前で締め切られますが、半期(春学期分)の授業料相当額が4年間継続して免除されるものですから、学生生活への大きなサポートとなってい
るようです(「1都3県以外の高校卒業者」などの諸条件があります)。
珍しい奨学金としては、東洋大学が2014年度からスタートさせた「独立自活支援推薦入試」が挙げられます。入学検定料は無料、学費の半額相当の奨学金を4年間支給、希望者は1日2食付の学生寮に月額6万円程度で入居可能なのですが、「イブニングコースに在籍し、昼間は大学の事務局などでアルバイトをする」という付帯条件がついて
います。学生は、学費の半分をこの制度で支給される奨学金で、残りの半分は大学内でのアルバイト収入で支払い大学生活を続けます。「月額固定の嘱託職員」「時給制のアルバイト」と働き方も選べます。昔も今もアルバイトで生計をまかなう大学生の中には、いつしか働
くことが中心になって大学から足が遠のいてしまう人もいますが、この制度であればそんな心配はありませんから保護者にも安心です。
私の教え子にも、家庭の事情で高3時に難関国立大学志望から首都圏私立大学(全額特待)へ進路を変更した子がいました。成績が優秀であったがゆえに多くの大人の説得を受けたそうですが「高校を卒業したら親に経済的負担をかけられない」という信念のもと、進学先でしっかり勉強を続けていきました。給付型奨学金の存在を知っていたからこそ早
めの準備が可能だったことは言うまでもありません。
「調べておいて損はない」というつもりで、せめて成績基準だけでもお子さまと一緒に調べてみるといいかもしれません。成績がよければお金をもらって勉強ができる仕組みが大学にはあるのですから。
参考:独立行政法人 日本学生支援機構「平成25年度奨学金制度における実態調査」
「第36回 早稲田大学学生生活調査報告」
vol.118 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2018年2月号掲載