子供の考える力・書く力はこうすれば伸びる!

HOME > 教育の現場から > Vol.121 私立大学が急激に難化している背景について

Vol.121 私立大学が急激に難化している背景について

 今年の大学入試では、多くの予備校講師が口を揃えて「私立大学(文系)が本当に厳しい」と嘆いています。特定の予備校に限った話ではなく、また地域も首都圏だけでなく関西圏も含めての話だというのです。少子化だから入試は易化しているはずなのに、いったい何が起こっているのでしょうか。最新のデータを交えてご紹介していきます。

私立大学が大幅に難化した理由は「定員抑制策」

 現在小学生のお子さまをお持ちの方が気になりそうな情報として、今年2月に閣議決定された「東京23区の大学の定員増を原則として認めない」法律案のことを覚えておられる方もいらっしゃることでしょう。これは首都圏の大学に限った話ですが、これとは別に、すでに全国的に大きな影響が出ている「大学の定員管理の厳格化」という施策をご存知でしょうか。
 簡単にいえば「定員を超えて学生を入学させたらペナルティ」という制度ですが、そのペナルティは「私学助成金が全額支給されなくなる」という大学には大変重い内容なので、けっして無視することはできません。この施策は2016年度入試から始まっていて、収容定員が8千人以上の「大規模校」では、
 16年 1.17倍 → 17年 1.14倍 → 18年 1.10倍
とラインが決められています。規模が大きくなればなるほど合否ラインぎりぎりにいる受験生の数は多くなり、1点差の中に数百人いることも不思議ではありませんから、ちょっと合格ラインの計算を誤れば入学者数は大きく変わってしまいます。それだけに、この1.10倍というのは大変厳しいラインで、合否判定を最大限慎重に行っていく必要があるのです。


 

主な大学・学部の入試概況

                                                                           
早稲田大学
社会科学部(一般)
定員:450名
明治大学
商学部(一般)
定員:450名
同志社大学
経済学部(一般)
定員:510名
(17年まで495名)
志願者合格者志願者合格者志願者合格者
2015年度11,5581,2057,2311,4815,1411,991
2016年度11,3661,0997,7001,3515,4862,120
2017年度12,2849308,4531,1216,2872,131
2018年度12,986802未発表7,8221,673

2018 年度は補欠・繰り上げ合格を含まず


 表をご覧いただければ一目瞭然ですが、大規模大学の中でも定員の多い学部では、この数年合格者数をずいぶん絞っていることがわかります。大学全体の数字も紹介すると、2017年度入試においては早稲田大学や法政大学では2000名以上(全学部:一般入試合計)、青山学院・明治・立教といった大学でも1000名以上の合格者減となっており、関西圏でも立命館の1800名減を筆頭に関関同立でも同様の傾向が見られます。
 このような「合格者数を絞る」傾向は、大規模大学に限った話ではありません。「中規模校(4千人~8千人)」では18年度で1.20倍、「小規模校(4千人未満)」では18年度1.30倍以上とペナルティのラインが定められており、どの規模の大学を受験する際にも「難化するから安全策で併願校を増やそう」という心理が受験生に働くので、全体的に1人当たりの受験校数を増やす原因になります。
 それに加えて私立大学文系の志願者は、新卒の就職状況が好転したことの影響もあって増加傾向にありますから、ますます「志願者は増えて合格者は減る」という動きに拍車がかかっているのです。
 この傾向はしばらく続くことが予想されます。もしも大学が合格者を絞り過ぎて定員割れをおこしたとしても、定員充足率が0.95倍でも1.0倍と同額となるように私学助成金を上乗せする措置が導入されるとのことで、「正規合格者数を絞り、手続き状況をみながら追加合格を五月雨式に出して調整する」スタイルが増えてくるでしょう。今年でも3月下旬になって追加合格の連絡を受けたというケースは数多く聞かれ、地方在住者だと住居手配からして大変になっているようです。


小学生、中学入試への影響

 これまで述べてきた「大学入試時の不安定さ」は、すでに小学生の保護者にも影響が出始めていて、2018年度の首都圏中学入試での「附属校の志願者増」という形で明らかになりました。


 

首都圏私立大学附属校、準附属校の志願者数(一部)

                                                                                                                         
学校名2017年度
出願者数
2018年度
  出願者数
増加率
早稲田大学早大学院407478117.4%
早稲田実業525568108.2%
慶應大学慶應普通部566615108.7%
慶應中等部1,2711,508118.6%
立教大学立教新座1,7471,926110.2%
香蘭女学校314420133.8%
中央大学中央大附属9331,103118.2%
青山学院大学青山学院857933108.9%
明治大学明治大明治1,3321,558117.0%
法政大学法政大学1,3191,565118.7%
日本大学日大二1,0691,150107.6%
日大豊山1,6401,790109.1%

試験回数が複数ある学校は、複数回次の志願者数合計(四谷大塚資料より)


 もちろん原因は一つではなく、2024年度に本格実施となる入試改革への不安も考慮しなければなりません。新小6の世代からは新学習指導要領で高校3年間学ぶことになり、この世代が大学入試を迎えるタイミングで改革の目玉である「新科目」が登場することが予想されています。
 この春中学入試を終えた新中1の世代は、もしも大学入試で進学先を決められずに浪人することになれば、これまでの準備とは全く異なる「新科目」に向けた新たな入試対策を必要とする可能性もあり、前述の定員抑制策とダブルパンチをもらってしまうかもしれませんから、進学したい私立大学が決まっているご家庭であれば附属校狙いも当然選択肢に入ってくることでしょう。

 まだまだ大学受験なんて先の話、と思っている保護者の方が大半だとは思いますが、現在の小学校高学年が18歳を迎える頃には大学入試を取り巻く環境が激変している可能性を否定できませんから、少しずつ情報を集めておいたほうがよいでしょう。中学入試をするか否かによらず、お子さまの進路を考えるきっかけとしてみてください。

vol.121 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2018年5月号掲載

一覧へ戻る
入会予約キャンペーン
無料体験キット