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Vol.124 現小6世代から、高校では新科目「公共」が始まります

 現小6生が高校生となる2022年度から、高校で実施される新しい学習指導要領の改訂案が公表されています。大学入試改革とあわせて高校の教科・科目が大きく変わることをご存じでしょうか。今回は小中学生で学習する「社会科」がどのように発展していくのか、その1点に絞ってご紹介していきます。

新科目『歴史総合』『地理総合』の衝撃

 小中学校で「社会科」として学習した内容は、高校では「地理歴史」と「公民」という2教科に分かれてさらに深く学んでいくことになります。今回の大改訂では教科の変更はありませんが、その中の科目が再編されていますので一覧で確認してみましょう。
 「地理歴史」では、従来は世界史が必修で日本史と地理は選択科目の扱いでしたが、改訂後は『歴史総合』『地理総合』の2科目が必修になります。その学習内容を簡単にご紹介すると、

『歴史総合』
・日本史と世界史の区別がなくなります
・扱うのは18世紀後半以降、つまり近現代史のみになります

『地理総合』
・防災や自然環境、生活圏の課題など地球規模の課題を扱います
・グローバル化に対応して生活・文化の多様性を理解します
・地図はもちろん地図を加工・管理する地理情報システム(GIS)を活用します

というものです。歴史においては「近代化」「大衆化」「グローバル化」が柱となり、例えば植民地政策や戦争が起こった原因を学び、それらが現代の世界にどのような影響や課題を及ぼしているかについて考察する授業へ転換します。地理においても「グローバル化」に対応すべく、大学で学ぶ比較人類学の授業に近くなっていくかもしれません。
 選択科目にはそれぞれ「探求」という名称がついていて、例えば平安時代や戦国時代の内容は『日本史探求』で学びますが、従来の学習内容(暗記中心の学習)とは一線を画す意図がみられ、知識だけではなく思考力・判断力・表現力といった新しい大学入試でも問われる能力を磨くための改訂だと推測できます。我々が子どもの頃のテストでは「徳川家康が行ったこととして正しいものをすべて選び、年代の古い順に並べなさい」といった出題でしたが、お子さまが高校生になる頃のテストでは「徳川家康率いる東軍が関ケ原の戦いで勝ったことは、当時の日本にどのような影響を及ぼしたのか200字以内で書きなさい」「徳川家康は当時何もなかった江戸に幕府を開き発展させましたが、もしもあなたが徳川家康だったとしたら江戸を発展させるために何をしますか。具体的な根拠とともに400字以内で書きなさい」といった出題に変わるかもしれません。

                                                                                     
改訂後現 行
教科科目必履修科目教科科目必履修科目
地理
歴史
地理総合地理
歴史
世界史A
地理探求 世界史B
歴史総合日本史A日本史か地理
どちらか選択
日本史探求 日本史B
世界史探求 地理A
  地理B
公民公共公民現代社会現代社会か
倫理・政経
どちらか
倫理 倫理
政治・経済 政治・経済

新科目『公共』は学校によって中身が異なる?

 次は「公民」ですが、必修となる新科目『公共』についてご紹介します。18歳で選挙権を得られるようになった現在では、高校生に対して主権者としての自覚や役割を教育する必要が生じています。それを担うのが『公共』の役割となります。内容はキャリア教育も含めて「世の中の仕組みを知る」ことが中心となるようで、討論やディベート、模擬選挙や模擬投票、模擬裁判なども取り入れることが可能です。また、各種契約に関すること、責任と権利、そして情報リテラシーについても扱うとのことで、おそらくネット上のトラブル(著作権や個人情報管理など)まで題材になると予想されます。
 これほど多様な題材を教科書だけで扱うことは難しく、学校によっては例えば選挙管理委員会の協力を仰いだり、弁護士やIT関係の専門家に外部講師として登壇してもらったりするケースが増えるでしょう。首都圏の中高一貫校の一部がすでに「土曜授業」として運用している内容と重複しますが、現在でもOBの存在や学校の立地によっても実現度合いには差がついていますから、『公共』で学習する内容の深さは学校によって千差万別になることが予想されます。
 いまこうして記事を書いていても「この科目は絶対に必要だ」「どうせなら深くしっかりと学べる機会のある高校に行ったほうがよい」と、私自身が親目線でそう思うくらいですから、もしかすると数年後には学校を選ぶ際の1つのポイントになるかもしれません。
 今回の学習指導要領改訂は、大学入試改革が先行する形で騒がれていることもあって、まだ話題にあがることは多くありません。しかしながら、その中身を簡単に見ていくだけでも「今から準備しておくべきこと、習慣づけておくべきこと」がいくつも浮かんできます。いわゆるドリル型と呼ばれる「知識の定着を確認するための勉強」に終始することなく、「なぜ? どうして?」と自問自答する習慣を小学生のうちから少しずつ育てておきたいところです。学校の授業でもアクティブ・ラーニングが導入されますから、積極的な子はこれまで以上に貪欲に知識を吸収し、受け身な姿勢で学ぶ子との差を拡げていくことでしょう。勉強に対する姿勢はもちろん、勉強の楽しさを早く知っておくことが不可欠な時代がもうそこまでやってきています。
 グローバル化や国内の人口減、AIの普及による仕事環境の激変など多種多様な要因が考えられ予測が難しいといわれる中、現小6生はわずか4年後には高1生として将来の進学や職業選択に大きく関わる新科目を学習し始めることになるのです。「社会は苦手」というお子さまであれば、毎日ニュースを見る習慣をつけるだけでもいいでしょう。4年後にはきっと大きな財産になっているはずです。大切なのは、今日からでもやれるものを始めてずっと継続することなのです。

vol.124 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2018年8月号掲載

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