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Vol.125 「海外勤務をしたくない」と考える人から積極性は感じとれる?
人は誰でも「初めて経験すること」には不安を感じるものです。例えば「海外勤務」もその一つ。グローバル社会という言葉がすっかり市民権を得た今、海外で勤務する教え子も本当に多くなりましたが、世の中全体では海外勤務に消極的な考えや不安を持つ新入社員が多いという調査結果が公表されました。現在小学生の子どもたちが就職するころには海外勤務はもっと一般的になると思うのですが、保護者としてはどのような準備をしておくべきなのでしょうか。
日本企業のグローバル化は他人事?
産業能率大学が発表した「第7回新入社員のグローバル意識調査(2017年実施)」のデータをご紹介していきます。
(表1)日本企業はグローバル化を進めるべきだと思いますか。(%)(経年比較)
2017年 | 2015年 | 2013年 | |
---|---|---|---|
進めるべき どちらかといえば進めるべき |
79.5 | 73.4 | 76.5 |
進めるべきではない どちらかといえば進めるべきではない |
20.5 | 26.6 | 23.5 |
(表2)あなたは今後、海外で働きたいと思いますか。(%)(経年比較)
2017年 | 2015年 | 2013年 | 2010年 | |
---|---|---|---|---|
どんな国・地域でも働きたい | 11.8 | 9.1 | 29.5 | 27.0 |
国・地域によっては働きたい | 27.9 | 27.2 | 12.2 | 24.0 |
働きたいとは思わない | 60.4 | 63.7 | 58.3 | 49.0 |
表1をご覧ください。2017年新入社員のおよそ8割が「日本企業はグローバル化を進めるべき」と考えています。この設問が用意された2013年以降で割合は過去最大となり、現在の日本企業におけるグローバル化の段階を尋ねる設問ではおよそ6割が「成長期・発展期」と回答していることを覚えておいてください(「成熟期・衰退期」は20.7%)。
ところが表2では、「海外では働きたいとは思わない」と回答した新入社員は5人に3人(60%)もいることがわかります。「企業のグローバル化は必要だけど、自分がその役割を担うのはイヤ」という本音が見え隠れする面白いデータになっています。「働きたいとは思わない」と回答した割合は2013年調査で増加して以来大きな変化はありませんが、「どんな国・地域でも働きたい」と回答した割合が2015年を境に激減していることに注目してください。様々な地域での「治安の問題」が報じられる機会が増えたからでしょうか、あるいは就職活動の状況が好転して就職先を選べるようになったからでしょうか、その背景は推測するしかありませんが、「海外勤務」を必ずしも前向きに捉えていない新入社員が増えていることがわかります。
留学経験で分かれる「積極性」
(表3)あなたは今後、海外で働きたいと思いますか。(%)(留学経験有無)
留学経験有 | 留学経験無 | |
---|---|---|
どんな国・地域でも働きたい | 26.5 | 7.9 |
国・地域によっては働きたい | 50.0 | 22.1 |
働きたいとは思わない | 23.5 | 70.0 |
次に表3をご覧ください。新入社員を「留学経験の有無」で分類してみると、学生時代の留学経験によって「海外勤務」に対する考え方が大きく異なっていることがわかります。回答者のうち「留学経験あり」は20.8%とのことですから、母集団数に差があることを考慮する必要はありますが、留学経験の有無と海外進出志向に明確な相関があることがわかります。海外志向の強い人材が少数派である限り、「海外で勤務したいです!」という姿勢を持っている学生が「前向きにチャレンジしようとする意欲がある」と評価されることは容易に想像できます。日本企業のグローバル化が進めば進むほどこうした学生が引く手あまたになるわけですから、いち保護者としては「どうすれば海外勤務に対する抵抗感がなくなるのか」について知りたい気持ちが強くなります。
そこで「海外で働きたい」「海外で働きたくない」と考える理由に注目します。「働きたい」と考える人の回答(複数回答)では「日本ではできない経験を積みたい(73.2%)」「自分自身の視野を広げたい(57.1%)」が上位に並び、前述の「前向きにチャレンジしようとする意欲」に直結していることがわかります。一方で「働きたくない」とした人の理由では「海外勤務は生活面で不安(47.0%)」よりも「自分の語学力に自信がない(63.6%)」がダントツの1位で、「では、どうして向上させようとは思わないのですか」と思わず意地悪な質問をしたくなるほどの消極性が透けて見えています。
多くの中学生・高校生は、その6年間で「社会人になるために必要な要素」をしっかりと学ぶことなく部活や受験勉強に多くの時間を費やし、大学に入っても早ければ3年夏からインターンシップがスタートしますから、留学する暇すらないという声も聞かれます。彼らは留学したくないのではなく、(時間的に)留学できないのです。海外勤務という「まだ見ぬ世界」に不安をいだくのも、「視野の狭い大学生」が量産されてしまうシステムに一因があるのでしょう。現在小学生のお子さまが高校生になるころには、いよいよ教育システムも大きく様変わりすることが決まっています。どうか皆さまは、お子さまに対して「広い視野で世の中を見ること」も中学・高校の間に経験させてあげてください。留学は一事例にしかすぎず、留学でなくても一生の記憶に残る経験を、成功・失敗に関係なく積むことが大切です。その経験の積み重ねが自信や積極性の構築、未知のことに一歩踏み出す際の勇気につながっていくのです。テストの結果に一喜一憂するだけの6年間を過ごすと、強烈なシッペ返しにあう時代になっていることを肝に銘じて、かわいい子には様々な旅や経験をさせてあげてください。
参考:産業能率大学 第7回新入社員のグローバル意識調査
vol.125 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2018年9月号掲載