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Vol.127 「公立中学なんてダメよ」という声が聞こえなくなってきた理由とは
仕事柄、多くの保護者の方々と話をする機会がありますが、「公立中学校に対する不安・不満・ダメ出し」を口にされる方が減ったという実感を持っています。わが家の子どもたちが小学生だった2000年代前半には、多くの保護者が不安を口にし「ゆとり教育への自衛」を中学受験への動機としていたものです。あれから15年弱、公立の小中学校へ子どもを通わせている保護者の学校への評価がどのように変わったのか一目でわかる興味深い調査結果が発表されました。
わずか14年でここまで変わった「保護者による学校評価」
今回ご紹介する「学校教育に対する保護者の意識調査 2018」は、文字通り「子どもを通わせている学校を保護者がどのように評価しているのか」について調べたものです。時系列の調査結果をご紹介しましょう。
学校に対する総合満足度
小学生 | 中学生 | |
---|---|---|
2004年 | 77.6% | 63.9% |
2008年 | 80.9% | 71.4% |
2013年 | 83.0% | 76.3% |
2018年 | 86.8% | 77.8% |
数値は、「とても満足している」と「まあ満足している」の合計
ご覧のとおり「満足している」と回答した保護者が増加しています。特に中学生保護者では伸び率が高くなっており、「あまり満足していない」と回答した割合も2004年の28.1%から2018年は16.5%とかなり改善されているのです。さらに、小学生・中学生の区別はありませんが回答者の属性による分析結果もご紹介してみましょう。
学校に対する総合満足度(保護者学歴別)
2004年 | 2018年 | 差 | |
---|---|---|---|
母大卒・父大卒 | 70.1% | 86.3% | +16.2 |
母大卒・父非大卒 | 72.9% | 88.0% | +15.1 |
母非大卒・父大卒 | 73.5% | 85.0% | +11.5 |
母非大卒・父非大卒 | 74.5% | 81.2% | +6.7 |
数値は、「とても満足している」と「まあ満足している」の合計
学校に対する総合満足度(人口規模別)
2004年 | 2018年 | 差 | |
---|---|---|---|
東京特別区・政令市 | 66.6% | 86.3% | +19.7 |
15万人以上 | 75.8% | 82.9% | +7.1 |
5万人以上15万人未満 | 74.3% | 83.6% | +9.3 |
5万人未満 | 77.8% | 80.4% | +2.6 |
数値は、「とても満足している」と「まあ満足している」の合計
保護者学歴別の表を見ると、2004年当時には最も評価が低かった「母大卒・父大卒」の層が大きく満足度を上げていることがわかります。また、人口規模別の表では、2004年当時には明らかに評価の低かった「東京特別区、政令市」の層が、2018年には最も満足度の高い層に転じていることに注目してください。逆に、2004年当時には最も満足度の高かった層(「母非大卒・父非大卒」「5万人未満」)が、2018年にはどちらも満足度が最も低くなっており、この15年弱の様々な改革に対する評価の違いがハッキリ浮かび上がってきます。
満足度評価激変、その理由とは
わずか14年の間にこれほど満足度が逆転してしまった理由として、大きく二つの原因が考えられます。一つ目はもちろん「脱ゆとり教育」に転じたことで、授業時間の増加や教科書の厚さなど目に見える部分だけでも現場は大きく変わりました。2004年当時は「ゆとり教育」に伴う学力低下が話題になっており、特に都市部の保護者の間で学校に対する不安感が広がっていました。当時の中学受験者層には「公立中に進むことへの不安」を理由として挙げるケースも多かったものです。しかし現在では、2005年前後から登場し始めた公立中高一貫校が一定の評価を得ていることや、中学受験の動機において「激変する社会情勢にあわせて、よりよい環境でレベルの高い教育を受けさせたい」「子どもが目指す夢や目標を最大限後押ししたい」というポジティブなものが多くなっているため、以前に比べて公立中に対するネガティブな声が聞こえなくなっています。調査結果からも、特にこの傾向が高学歴・都市部に目立つことがうかがえます。
二つ目は、現場の様々な改革や変化です。具体的な評価項目(学校の指導や取組みに対する満足度)に注目すると、小学生では「学校の教育方針や指導状況を保護者に伝えること」が2004年から2018年にかけて15.1ポイントの増加、「先生たちの教育熱心さ」が12.1ポイントの増加と目立っています。中学校では「教科の学習指導」の12.0ポイント増、「先生たちの教育熱心さ」の16.5ポイント増に加えて、「道徳や思いやりの心を伝えること」が15.8ポイント増、「社会のマナーやルールを教えること」の15.6ポイント増が目立っています。
この14年の間に我が家でも子どもたちが小学生・中学生の時期を過ごしましたが、学校公開(単なる授業参観ではない授業公開など)や、保護者による学校評価といった動きが始まったのもこの間ですし、何より学校がホームページやメール配信を始めたことによって、情報が素早く保護者の元に届くようになっていますから、従来の「配布物をお読みください」のみだった情報発信に比べると、学校や先生方の様子も見えるようになって安心感にもつながっているはずです。例えば「SNSとの上手な付き合い方について、専門家を招いて指導していただきました」といった情報をすぐに発信できれば、特に時間的な制約の強い都市部の保護者には2004年当時に比べるとかなりプラスの効果が出ることでしょう。2004年当時にはスマホが普及していなかったのですから。
大切なのは「自分の目で確かめる」こと
小学生をお持ちの保護者の皆さまは、これから様々な場面で「お子さまの進路に関する決断」をしなければなりません。中学受験をするのかしないのか、高校受験、大学受験……。スマホで検索すれば様々な意見を目にすることができますが、「拾える情報はすべて過去のもので、この先に通用するかどうかはわからない」ということを覚えておいてください。「脱ゆとり教育」のカリキュラムが始まったのがつい最近のような気がしますが、今年(2018年)からは次の指導要領改訂に伴う移行期間に突入しており、小学校では2020年度から新指導要領がスタートします。現小6世代からは新指導要領で行われる本格的な大学入試新テストが始まります。3年前や5年前の経験談であっても、これから未来を進む皆さまのお子さまにあてはまるとは限りません。
様々な情報を参考にするのはかまいませんが、特にネガティブ情報については必ずご自身の目で確認するようにしてください。「公立中学なんてダメよ」という意見が飛び交うことが往々にしてありますが、特定の地域・学校については正解かもしれませんがすべてにあてはまるわけではありませんし、その原因が今では改善されているかもしれません。
参考資料:ベネッセ教育総合研究所・朝日新聞社共同調査「学校教育に対する保護者の意識調査 2018」
vol.127 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2018年11月号掲載