HOME > 教育の現場から > Vol.133 「それはなぜですか?」を親子で一緒に考えましょう
Vol.133 「それはなぜですか?」を親子で一緒に考えましょう
いきなりで申し訳ありませんが、「子どもは親の背中を見て育つ」という言葉を思い浮かべてください。そこであなたは、親というものは子どもにどのような「背中」を見せるべきではないと思いますか。また、それはなぜですか。ちょっと考えてみてください。
急に尋ねられても困りますよね(私は困りました)。仮に普段から問題意識を持っていたとしても「不意に聞かれて、すぐに自分の考えを述べること」は決して簡単なことではないはずです。
受験で求められる「丸暗記では通用しない」資質
普段の会話であれば「難しいね、わからないや」で済むことですが、この返答が「自分の人生を左右する」ものだったとしたらどうしますか。すぐにあきらめてしまいますか?
この問いの正体は、2010年度に大阪大学で出題された入試問題です。しかも、小論文や面接ではなく英語の自由英作文(70語前後)として、具体例を挙げて記述させる問題だったのです。
我々保護者は親としての経験がありますから、その気になれば親の視点で論を進めることができますが、「親たるもの……すべき」とは言いにくい立場の受験生は、英語の問題であることを差し引いてもかなり悩んだのではないかと想像できます。
2月号で「事前に決められた正解のない問い」、4月号で「中学入試で増える新しい入試形式」とご紹介させていただきましたが、求められている資質が同様に「独りよがりではない発想で物事を考えられること、それを的確に他者に伝えることができること」であり、けっして知識量で優劣をつけようとしているわけではないことが、この問題からもおわかりいただけることでしょう。
このような背景を理解した上で、もう一度この問題を考えてみてください。英文で70語程度ですから、日本語では200 〜250字程度でまとめることができれば充分だと思われます。
小学生であれば「イライラして八つ当たりをするべきではない」といった、単なる保護者に対する要望や文句で終わることもあるかもしれません。中高生であれば「子どもに『恥ずかしい』と思われることはしない」といった回答が登場するでしょうか。しかしながら、これらの「単なる言いっぱなし」では評価対象にならないことは明らかです。「それはなぜですか」の部分が重要で、その根拠や課題を明示すること(ここでは家庭観や実体験)が求められるからです。
ちなみに私の回答を簡単にまとめると「この問いを子どもに聞かれたときのような、判断に困る場面で解決を放棄して逃げ出すことをすべきではない。なぜなら、判断・選択した根拠を示し伝え、自分でも考えさせることが親の仕事だから」というものでした。宜しくない回答であることはわかります……。
大学入試でこんな題材が登場するの!?
この問いを親子で真剣に話し合うと口論になりかねないので、大阪大学で出題された他年度のテーマのうち、親子で一緒に楽しく考えられるものを紹介しておきます。英語という条件は無視して、ぜひ話し合ってみてください。
【2011年度】日本語には「もったいない」という言葉があります。この言葉がどのような使われ方をするのか外国人に理解してもらいたいときに、あなたはどのように説明しますか。70語程度の英文で書きなさい。
【2014年度】「他人は自分のことをわかってくれない」と思うのはどんな時ですか。またそんな時に、あなたはどう対処しますか。また、それはなぜですか。70語程度の英文で説明しなさい。
【2019年度】「何事もあきらめが肝心」と言われますが、一方で、「あきらめなければ、必ず道は開ける」という言葉もあります。あなたの考えはどちらに近いですか。あなたの過去の経験を一つ挙げて、70語程度の英文で書きなさい。
特に2019年度の「あきらめ」に関する問いは、回答者の人生観がそのまま現れる大変深いものですから、ぜひとも題材として取り上げ、ご自身の「背中」を見せてあげてください。
同様に、親子で楽しく語り合えるテーマは他大学の入試問題にも散見されます。小学生の日常生活に密着している自由英作文あるいは小論文のテーマを紹介していきますので、ご家族で話し合ってみてください。
中央大学
【2015年度】あなたが好きなディズニー以外のアニメ、または、小説・童話は何ですか。また、なぜあなたはそれが好きですか。一作品を選び、80語以上の英語で書きなさい。
福井大学
【2014年度】人間が持つ感情表現の一つに「笑い」があり、私たちの日常生活の様々な場面で「笑い」が起こります。自分の経験を踏まえて、「笑い」が持つ役割についてあなたの考えを80 ~ 90 語の英文で述べなさい。
早稲田大学スポーツ科学部
【2018年度小論文】じゃんけんの選択肢「グー」「チョキ」「パー」に、「キュー」という選択肢も加えた新しいゲームを考案しなさい。解答は、新ゲームの目的およびルールを説明するとともに、その新ゲームの魅力あるいは難点も含めて、601字以上1000字以内で論じなさい。
いかがですか。中央大学の問いは小学生だからこそ自由に語れるテーマですし、福井大学の問いにも人生観が見え隠れします。早稲田大学の問いは思わず苦笑いしてしまいますが、大人も子どもも一緒になって考えることができる絶好の題材で、考えてみると大変難しいものです。
そして、そのまま中学入試・高校入試でも出題されてもおかしくないのが、次に紹介する広島大学の問題です。
広島大学
【2018年度】下の〔A〕と〔B〕の問いに答えなさい。
〔A〕次の表は、2012年から2016年までの5年間における訪日外国人の数(観光・商用などを含む)の推移を示したものです。この表からわかることを90語程度の英語で説明しなさい。
〔B〕今後、訪日外国人の数をさらに増やすとしたら、どのようにすればよいと思いますか。あなたの考えを90語程度の英語でまとめなさい。
繰り返しになりますが、大切なことは「どの意見が正しいか」ではなく「自分の意見に根拠を添える」ことです。これを小学生のうちから習慣にしてしまいたいところですが、このような習慣が「ある日突然身につくものではない」ということは、私の周辺にいる子どもたちを見る限りハッキリしています。
「中学生のときできない者は高3になってもやはりできない」「高3でしっかりできている者は、中学生のときにもしっかりしていた」これが私の実感です。
この習慣付けを意識すればするほど、「作文を書ける小学生」を育てる重要性がおわかりいただけると思います。毎月の作文講座を通して得られる経験は、作文を書く際のルールやテクニックの習得、あるいは入試対策といった効果だけではなく、大学・社会人と成長した後にも必要とされるスキルの土台を磨いているんだという視点を持っていただけると幸いです。
vol.133 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2019年5月号掲載