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Vol.136 首都圏で進む「中高一貫校の高校募集停止」の背景について

 首都圏以外にお住まいの方には馴染みがないかもしれませんが、私立進学校として一定の評価を得ている本郷中学・高校(男子校)が2021年から、豊島岡女子学園(女子校)が2022年から、それぞれ高校入試をやめて完全中高一貫化するとの告知がありました。首都圏の私立進学校では、女子校を中心にすでに高校からの募集停止をしているところが多く、今後もこの流れは加速するだろうと私は考えています。ただし、その理由は必ずしも「大学入試に有利だから」の一点だけではないようです。

背景1 教員の労働環境を守るため

 私立中高一貫校の高校募集停止の流れが今後も続く理由として、「働き方改革」「教員のブラックな労働環境の改善」といった事情が挙げられます。中学入試と高校入試を両方行う私立学校は、組織が中高で完全に分かれていて動きが別々であればよいのですが、そうでない場合は様々な面で「2倍の準備」を要するために先生方に大きな負担となっています。
 例えば入試問題を作成する作業だけをとってみても、その大変さがうかがい知れます。今回高校募集停止を告知した豊島岡女子学園を例に挙げてみると、この学校では中学入試を3回、高校入試を2回行うため、毎年5種類の入試問題が必要となります。

平成31年度豊島岡女子学園中学校・高校の出願状況

 教員にはほぼ毎年作題担当が回ってきます。日々の授業や業務に加えて、おそらくこの時期から入試問題のピックアップが始まり、夏休みには会議で問題を吟味し、場合によっては作り直しが必要になることもあるでしょう。算数数学ならともかく国語となれば「著作権許諾」に関する確認作業も並行して行う必要があります。定期テストの問題を作るのとは比べものにならないほどの労力を要するこの作業を年に5本作るというのは本当に大変です。
 また、入試当日の運営や事務処理にかかる手間もすべて2倍になります。表のように豊島岡女子学園は2月2日、3日、4日で中学入試を行いました。2日が土曜、3日が日曜でしたから休日出勤となることでしょう。また当日夜にホームページで合格発表を行いますから、入試終了直後から全員総出で採点とチェック、そして発表に向けての準備も必要です。これが3日連続で続きます。
 その後の事務処理を含めて2月1週は授業どころではありません。休む暇なく次は11日(祝日)の高校入試で、その前後にも運営で時間を取られるわけです。1月22日には高校の推薦入試も行われていますので、年明けから教員の皆さんがどれほど忙しいかが想像できると思います。これに高校3年生の大学受験が重なっていることも忘れるわけにはいきません。「2倍の準備」がどれほどの負担になるのかおわかりいただけたと思います。
 こうした「2倍の準備」を経て迎える受験生の数ですが、表のとおり中学は3回の合計でおよそ2700人である一方、高校は2回の入試でおよそ500人と差があり、合格者数の違いからも中学入試が大変狭き門になっていることがおわかりいただけると思います。これだけの差がついてしまうと、中学入試組をもっと合格させてあげたいという気持ちはよくわかります。これによって、高校入学組を迎えることで2本立てになっていたカリキュラム調整やら定期試験作成の手間などの負担も軽減できるのですから。

背景2 生徒の気質が変わってきている

 私は25年以上にわたって中学生を指導していますが、特にこの数年、生徒の変化として「(中学入学組の)既存コミュニティに後から入るのがイヤ」という声が大きくなっていることを感じます。中学入学組と混合クラスになる学校であればもちろん、別のクラスを設定している学校であっても「部活で一緒になるかもしれないからイヤだ」と考える生徒が増えています。
 都内には高校入試も行って生徒を受け入れる都立中高一貫校(併設型)もあるのですが、今後順次募集を停止していくことがすでに決まっています。その理由にもこれが挙がっていて、都立私立の差なく一貫校に途中から入ることへの拒否反応が大きいことが、受験生減少の要因となっているようです。
 中高一貫校が高校からの募集も行い、高校入学組を迎え入れる際に求めるのはどのような生徒なのでしょう。学校関係者の多くが口にするのは、あらゆる面において「中学入学組に刺激を与え、自分自身も刺激を受け、相乗効果で成長できる生徒」です。具体的には「向上心のかたまり」のような生徒や「(入試を通して自立を経験した)鋼のメンタルを持つ生徒」であったり、後からコミュニティに入ってきたはずなのに、いつのまにか自分が輪の中心になってしまうような生徒だったりと、必ずしも学力面だけが注目されているわけではないようです。
 よって、既存のコミュニティに溶け込めるかどうかについて始まる前から心配したり悩んだりするような生徒をそもそも欲していないので、高校入試をする中学生の気質が変わってくれば生徒募集そのものを見直そうとする動きになるのは当然です。

 中高一貫校の高校募集停止と聞くと、多くの方が「学力面や進度、大学入試を見据えて」と想像される方が多いことでしょうが、様々な事情が複雑にからみあっているのです。東京の私立女子一貫校に限っていえば、今回の豊島岡女子学園の高校募集停止によって事実上「中学入試時の偏差値60以上の学校で高校から入れるところはない」という事態になってしまいました。それゆえ、これらの学校の多くが難関大学への近道と思われがちですが、実はこの中で合格実績を売りにしている学校はほとんどありません。
 むしろ、女性の生き方・働き方が大きく変わっている中で「この先女性はどのように生きるべきか」というキャリアプランを生徒に考えさせるところが多く、中高一貫校の高校募集停止は「我々の理念をしっかり体得し、一人の女性として自立するための土台作りをするには6年かかります」というメッセージと受け取っていいのではないでしょうか。
 こうしたメッセージは、時代の変化を映し出す鏡でもありますから、中学受験に挑むか否かは別としても、どうか保護者の皆さまには各学校が発信するメッセージに出来る限り触れてほしいと思います。首都圏では数えきれないほどの学校がありますから中学を選ぶ基準を大学受験のみに置くと学校ごとの差が見えなくなってしまいます。まずは「(自分が)どうなりたいか、どう成長したいのか」をお子さまと一緒に考える機会を設け、それを実現できる可能性が高いのが公立中なのか、公立中高一貫なのか、私立中高一貫なのかを調べてあげてください。小学生にはハードルが高いですが、首都圏では高校受験時に初めて学校を調べると「いいな、と思った学校には高校から入れない」というケースが多々あるので、早い時期から定期的に会話しておくことをお薦めします。
 私自身の子どもの頃を考えると想像もできないことなのですが、中高一貫校の高校募集停止とは「子どもの進路選択開始時期」が早くなっていることの証なのです。

vol.136 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2019年8月号掲載

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