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Vol.141 急激に増えた「若い先生」が抱える悩み

 塾講師として保護者と面談をする際「中学校(小学校)に若い教員が増えた」という声を聞く機会が増えてきました。1980年前後に大量採用された教員の定年退職期にさしかかり、ここ数年急ピッチで人員補充を進めている途中なので、「若くて元気」な教員がお子さまの担任となる可能性は今後増えていくことでしょう。一方、どんな組織でも急激な若返りには様々な課題が生じます。学校現場も例外ではなく、職員室でも保護者からは見えない課題があるようです。

平均年齢の世代がいない職員室

 表1、2をご覧ください。小学校、中学校ともに2010年、2013年を境に平均年齢が下がり若返りに転じている様子がわかります。前述の通り、大量採用された世代の定年退職に伴う補充のために教員の新規採用を増やした自治体が多かったことによります。
 次に世代別の年齢構成に目を向けると、職員室の内部で深刻な問題が起こっている様子を想像することができます。平均年齢の世代(40代)の減少ぶりにご注目ください。

表1・表2

 どんな組織でも中堅と呼ばれる40代は、小学校中学校ともに2004年には40%前後を占めていましたが、2016年にはいずれも20%台前半にまで落ち込んでしまいました。わずか10年ほどの短期間での急激な年齢構成の変化に組織改革が追いつかず、結果様々な課題が表面化しているようです。
 この世代は企業でいえば中間管理職にあたるポジションで、学校運営の中心となるのはもちろんのこと、先輩である50代と後輩である20~30代をつなぐ役割を担う必要があります。ところが、この世代が少なくなってしまうと、ただでさえ忙しいのですから一人で2役をこなすことができなくなります。つまり若手の面倒を見ている暇がないのです。これによって若手教員が教室で生じている課題を一人で抱え込んで潰れてしまったり、経験がまだ浅い30代教員に指導役を任せた結果新たな問題が生じたりと、一朝一夕には解決できない深刻な課題に発展しています。

頑張る若い教員のここを見て!

 学園ドラマでは、若い教員が騒がしい教室で「はいはい、静かにして~」と叫ぶシーンがあります。その一方でベテランの教員は大きな声を出さずとも視線や立ち居振る舞い、間の取り方などで教室を静かにすることができます。これを技術というならば、教員でも塾講師でも新人の頃は誰でも稚拙な技術しか持ち合わせていません。もちろん教科の指導においても同様ですが、こうした技術は教員研修の座学で短期間に身につくものではありませんので、数多くの経験と失敗から学ぶしかありません。もちろんプロですから一定の水準に達していることは求められますが、いきなり50代のベテランと比べるのは酷な話です。
 その一方で、新人でありながら「よい教員」と言われる人たちは、例外なく「ほとばしる熱意」を武器にしています。これだけは新人や若手のほうがベテランに勝っていることも多いと、私は現場で見ていていつも感心しています。特に小学生たちの溢れるエネルギー(しかも30人分)を毎日一人で全部受け止めてしまうパワーはもう私にはありません。この熱意やパワーは数値化できませんから保護者のみなさまからは評価しにくいとは思いますが、彼らが「自分の技術がない分を熱意でカバーしていく」指導スタイルをどうかデメリットとは受け取らないであげてください。もっとも子どもたちに近い立場で、「お兄さん・お姉さん」的感覚で子どもに接することは、彼らにとって唯一ベテランと張り合える技術なのです。

「全盛期」を迎える先輩を手本にできない悲劇

 20代のうちであれば熱意でカバーできる若手の教員も、30代・40代と年齢を重ねるにつれ子どもたちとの年齢差が大きくなると、当然ながらいつまでも「お兄さん・お姉さん」というスタンスではいられなくなります。経験という大きな武器を手に、子どもたちとの接し方をシフトチェンジする必要に迫られます。自分自身の過去の経験を重ねると、おそらくこのシフトチェンジのタイミングが「全盛期」なのだと思います。体力・熱意では「手抜き」が必要となる一方、自分自身の技量は上がります。「運動エネルギーと位置エネルギーの関係」のように教員の成長にも「エネルギー保存の法則」の類があるとすれば、その両輪は「技術」と「熱意」で、この二つのエネルギーのバランスが最も良いときが「全盛期」だと思います。塾業界では「35歳限界説」という考え方もあり40歳前後で指導の第一線から退く人も少なくありませんが、60歳まで勤める学校の教員ではおそらく40歳前後が「全盛期」なのだろうと想像します。
 ここで年齢構成の表に再度目を通してください。今の職員室には「全盛期」を迎える教員がいないことがおわかりいただけるはずです。20代の新人にとっても、これから脂がのる30代にとっても手本となる先輩がいないことは悲劇でしかありません。「数年後の自分の未来が見えない」ことで不安を感じることもあるでしょうし、授業も保護者対応もお手本がないまま手探りでこなすしかありませんので、何か問題が生じた際の対応一つをとっても相当なストレスを感じるでしょうし心が折れてしまうことだってあるかもしれません。
 だからこそ保護者のみなさまには、どうか若手教員の未熟さを「怠慢」と混同しないであげてください。
 「技術」と「熱意」のうち足りないものをチェックする「減点法」ではなく、得意とするものに目を向けてあげる「加点法」で見てあげてほしいと思います。「アタリ」「ハズレ」といった評価をメールなどでやり取りしあうのは、ベテラン教員に対してだけにしてあげてください。
 今ここで若手教員へのデメリットばかりを指摘すると、彼らがやめることはもちろん昨今の情勢から後に続く教員志望者が質量ともに低下します。これはすなわち、将来の教育現場に深刻な影響を及ぼすことを意味します。
 彼らが毎日職員室でどんな状況にあるのか、少しだけでも思いを寄せていただければ幸いです。

vol.141 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年1月号掲載

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