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Vol.142 「難関高校を受験する意味・価値」ってどこにあるの?

 昨年11月のことですが、2つの塾からたてつづけに「保護者向けの講演」の依頼がありました。1つは高校入試を直前に控えた中3保護者向け、もう1つはまだまだ受験が遠い中1保護者向けでしたが、依頼されたテーマはどちらも「難関高校を受験する意味、価値」について熱く語ってほしいというもの。私にできることは「数多くの中3生を見てきた塾講師として、あるいは子どもの高校入試・大学入試を経験した一保護者として、商売っ気を抜いた正直なアドバイス」のみ。今回はその内容を書き起こしてみることにします。

保護者の意識は時代の変化に対応できているか

 中学生の保護者は、どうしても高校入試が当面の壁になってしまい視野が狭まるものです。それでは大局観が失われますから、一旦視野を広げてお子さまが大学生になり就職活動している状況を想像してください。
 お子さまが次の2つの企業から内定をもらっていて、どちらを選ぶか悩んでいるようです。お子さまにどちらの企業を薦めますか?
(A)大学生就職ランキングで安定して上位に名を連ねる有名企業
(B)新進気鋭のIT企業。初任給30万円出す代わりに3月までにTOEIC800点以上取れなかったら内定取り消し(現在600点)
 中3・中1どちらの保護者もほとんどの方が(A)を選びました。
続いて「皆さまが起業する場合を考えてみてください。悩んで(A) を選んだ人と(B) を選んだ人。皆さまであればどちらを採用したいと思いますか」と質問しました。
 挙手していただいた結果は、私の予想とは異なっていました。中1保護者の中には1割ほど(A)を選んだ方がいましたが、中3保護者はほぼ全員が(B)を選びました。私はもう少し(A)が多いと思っていましたが、と前置きした上でこのように続けました。「自分が採用するとなれば(B)だけれど、我が子には(A)を薦める。このずれこそが親のアドバイスが子どもの未来に蓋をしている典型ではありませんか?」
 ここまで話して、明らかに保護者のリアクションが変わりました。その上で種明かしをしましたが、これは現実に我が家で起こった話なのです。母親である私の妻はAを全力で薦めましたが、子どもが選んだのはB でした。30年ほど前の私自身でもありえない選択ですが、子どもがいうには「一生その会社に勤める気はない。常にキャリアアップを目指すのは当たり前なのだから、最初から挑戦するほうを選ぶ。どうせ転職時にもTOEICは必要だし」とのこと。現在社会人になっている教え子たちに聞いても同様に「一生今の会社にいることは前提としていない」と言いますから、どうやらうちの子が特殊ということではなさそうです。
 この話では、頷くお父さまが目立ちました。我が家では、子どものおかげで今の大学生にとって「就職=ゴール」ではないということ、常に挑み続けることが当たり前であると認識できましたが、子どもが中学生だったら間違いなく気づいていません。子どもの話を聞いたときの私と同様に「目から鱗が落ちる」状態だった方も多かったことでしょう。ここまで10分程度話して、保護者の皆さまの表情が真剣になったことを実感しました。
 もう少し講演のトーンで続けていきます。
 「鶏口となるも牛後となるなかれ」かつてこの言葉を聞かされたことのある方はいらっしゃいますか(半数以上挙手)。私も中3の頃親に言われました。「トップ校のビリよりも2番手校のトップのほうがいい」という意味です。
 昭和ならこれでよかったでしょう。しかし今は違います。お子さまは「一生アップデートを続けることが当たり前」の時代を生き抜くのです。「不合格で悲しむ姿は見たくない」という気持ちはわかりますが、お子さまが合格を自力でつかむ可能性を信じるよりも、自分の気持ちを優先して「子どもの可能性に蓋をする」ことが、どれほどお子さまを迷わせるかを我が家の事例から学んでほしいと思います。

「難関高校を受験する意味・価値」は必ずある

 「難関校を受験する意味、価値」として2つのことを述べます。我々保護者の中学生時代と現在とでは、指導要領以外にも大きく変わっていることがあり、1つ目は東京や埼玉に代表される「学区の撤廃」です。現在、日比谷高校は東京全域、浦和高校は埼玉全域から受験生がやってきますが、この効果をわかりやすく、ある「学区」内の在籍者数を2000人、1つの学校の定員が200人と仮定してお話しします。
 この場合生徒は10の高校に分かれ、上位10 %が通うトップ校には「最上位~偏差値63程度(偏差値65で上位7%弱)」の生徒が集まります。ところが「学区」を撤廃して在籍者数を10000人と仮定すれば50校に分かれますから、トップ校に通う生徒は全体の2%に絞られ「最上位~偏差値70程度」の生徒だけで定員です。これが入学者の質を高める役割を果たしています。また学区撤廃には「偏差値的に差がない高校が学区をまたげば複数あるので、自分の成績だけでなく各高校の個性や特徴で選べる」メリットがあります。勉強面だけでなく芸術やスポーツを切り口とした差別化も可能ですから、安易に偏差値だけを見て受かりそうな高校を選ぶのではなく、お子さま自身が行きたい学校を定めて「挑む」ことが重要になっています。「学区に3校しかなくて行きたいところがない」であれば偏差値で選ぶのもわかりますが、東京であれば私立も含めると数えきれないほどの高校があります。これだけの選択肢がありながら「行きたい高校が見つからない」ようでは、「挑む」という姿勢とは程遠いことは明らかです。小・中学生時代からの様々な経験の積み重ねによってしかこの姿勢は育ちませんので、今日から親子で学校を調べてみてください。
 2つ目は、高校選びにおいて「お祭り効果」とも呼ばれる意識を無視できないということです。これは「自分よりレベルの高い集団であっても、その中に混じってワイワイやっているといつのまにかそのレベルが当たり前の基準となる」というものです。
 例えば塾のクラス替えですと、成績的にギリギリ上のクラスに上がれるとして「もう少し基礎を固めて自信がついたら上がります」という子と「ついていけるかわからないけれど、どうせなら高いレベルでやります」と飛び込む子、成績が上昇するのは多くの場合後者です。これは塾講師としての経験上明らかと言わざるを得ません。
 現実には、勉強面だけを考えるならば下のクラスからでも目標に到達することは可能です。しかし、子どもたちの今後の人生に置き換えてください。これだけ変化のスピードが速くて複雑化している中で「様々な条件がクリアできてからスタートします」「失敗したらいけないので、現時点での安全安心が確保できる選択肢を選びます」なんてことを言っていたら、おそらく一生世の中の変化に追いつくことは不可能でしょう。怖れず飛び込んで「お祭り効果」を体感し、習慣にしてしまうことが「一生アップデートを続ける」ための第一歩だと私は思います。

 「難関校に挑むか否か」という判断は、お子さまの人生にとって数ある選択のうちの1つでしかありません。難関校に行けば幸せになれるとも、行かなければ不幸になるとも限らないからです。しかしながら、ここで「挑む」という選択を取らない者が冒頭の質問において(B)を選ぶようになるには、高大7年間で相当な刺激を受ける必要があるでしょう。「起業するなら(B)の人を選ぶ」と挙手された方がこれだけ多かったことを、どうか忘れずに日々お子さまと接してあげてください。

vol.142 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年2月号掲載

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