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Vol.143 大学入試改革の現状について保護者が知っておくべき3つの柱
去る1月18日と19日に最後の大学入試センター試験が行われました。来年からは「大学入試共通テスト(以下共通テスト)」に変わりますが、昨今「改革の目玉」とされてきた変更点のいくつかが実施見送りとなり、教育現場でさえ混乱しているのが現状です。「小中学生にとって大学受験はまだまだ先の話」と楽観視せず、報道だけでは見えてこない大学入試改革の現状を頭に入れておきましょう。
英語の民間試験活用はどうなる?
2019年11月に発表された「共通テストにおける英語民間試験活用の見送り」に関する報道を目にした方も多いことでしょう。
今回実施が見送りになったのは「大学入試英語成績提供システム(以下成績提供システム)」といいます。これは「受験生にIDを割り当て、登録された複数の民間の英語検定試験の成績データを大学入試センターが一元管理して各大学に送付する」ものでした。つまり、共通テストの受験者は事前にこのシステムに情報登録することが必要だったわけです。
ここで保護者の皆さまに知っておいていただきたいことが2つあります。
1つ目は「それでも(来年から)英語の民間試験を活用する大学はたくさんある」ということです。私立大学ではもともと、成績提供システムと受験者から成績証明書を直接提出してもらう方法の2本立てで準備していたところが多いのです。システムが使えなくなっても、願書提出時に直接民間試験の成績データを提出させることができますから、私立大学にとって影響はそれほど大きくありません。むしろ、直接提出の場合は出願月あるいは入試のある月から過去2年間のスコアを利用できると定めていた多くの私立大学にとっては、高3生の4月から12月までを受検期間としていた成績提供システムの利用を取りやめることがプラスに作用している可能性すらあるのです。
これを知らずに準備を怠ると、大学受験時に思わぬハンデを背負う可能性があります。例えば早稲田大学では、政治経済学部は英語民間試験を利用しませんが商学部には民間試験を利用する方式が新設され、国際教養学部では一般入試で民間試験が課され20点を上限に加算される仕組みになっていますので、準備していないと他教科で20点分挽回しなければ合格の可能性が低くなってしまいます。
立教大学では全学部で民間試験のスコアまたは共通テストの英語成績を利用するので、大学独自の英語試験が行われなくなります。高得点のほうが採用されるので、民間試験のスコアを準備しているほうが有利であることは間違いありません。国公立大学においても、私立大学と同様に民間試験の成績データを直接提出させることで「共通テストの英語得点に加算する、あるいは満点とみなす」という処理をするケースがすでにいくつか発表されています。
2つ目は、今回見送りとなった成績提供システムも含めて大学入試における新たな英語試験については、新学習指導要領が適用される2024年度の高3(25年1月受験)からの導入を目途に検討が続けられるということです。この学年は20年3月段階で中1ですから、現在小学生の子どもたちはすべて民間試験が活用されるという前提で準備を進めておく必要があるのです。民間試験の成績は現在ですと出願資格・加点・みなし換算・合否で優遇・試験免除といった形で利用されていますが、今後数年で勢力図が変わってしまう可能性もあります。だからこそ、私立大学や国公立大学の民間試験活用状況の推移はしっかりと見守っておきたいところです。
推薦入試も大改革!?
大学入試改革といえばどうしてもセンター試験が共通テストに変わることばかりがクローズアップされますが、大学が独自に行う個別入試の仕組みも大きく変わります。
従来のAO入試、推薦入試で問題とされてきた「一部の大学における学力不問の選考」にメスが入り、基礎学力の審査と担保が求められます。24年度の高3から本格稼働する「高校生のための学びの基礎診断」という基礎学力を測る試験の結果、あるいは共通テストの結果、大学が個別に行う試験結果などを活用することはもちろん、大学が事前に「受け入れ方針」を明確化しそれに基づいた小論文やプレゼンテーション、口頭試問で評価する調査書や受験生本人が事前に書いた活動報告書や大学希望理由書、学修計画書といった出願書類を評価するなど、現在の仕組みよりも選考条件が厳格化されます。
下表のように、すでに私立大学入学者の半数以上が推薦・AO入試を利用していることを知っておいてください。入試改革の不透明さや首都圏の私立大学が一般入試の合格者を絞っている状況も加わって、推薦・AO入試の活用を考えている高校生は我々保護者世代の受験時とは比較にならないほど多くなっています。行きたい大学や学部が明確ならば、こうした制度を使わない手はありません。小中学生のうちに「大学が求める人物像」をチェックしておいて、それに準じた活動を続け結果を記録・保存しておくくらいでちょうどいいのかもしれません。
記述式見送りの共通テストはどうなる?
共通テストの目玉の1つに「国語・数学で導入される記述式問題」がありました。その前提で試行調査も行われていて、国語の現代文では試験時間を従来のセンター試験よりも20分延ばす代わりに記述式問題が3題(最大80〜120字程度で解答)出題されていました。
これらが見送りとなったことで、センター試験と比べて何がどのように変わるのか。簡単に整理しておきます。
【国語】試験時間はセンター試験と同じ80分で、記述式はなし(全問マーク式解答)。出題傾向は試行調査の傾向を踏襲(複数の資料や図表の読み取り問題もありと思われる)。
【数学】数学Ⅰ・数学Aは従来の60分から10分延びて試験時間は70分。記述式はないが、試行調査と同様に長文を読み進めて処理する問題(太郎と花子の会話を通して「正解を導く過程」を考えさせるなど)が登場することを示唆している。
【英語】試験時間はセンター試験と変化なし。得点配分はセンター試験の「筆記200点」「リスニング50点」計250点満点だったのに対して、共通テストでは「リーディング100点(80分)」「リスニング100点(60分:解答時間30分)」の計200点満点に変わります。共通テストでは「読む」と「聞く」のバランスが均等になる配点となるので、保護者世代とは比べものにならないほど英語の聴き取り能力を鍛えておく必要がある。
来春から始まる共通テストや大学の個別試験で生じる変化は、当面試行錯誤が続くものと思っておいてください。くり返しになりますが大学入試改革の本格稼働は2024年度(25年1月受験)からです。これからしばらくの間、結論が先延ばしにされたり運用方法がコロコロ変わったりということがあると思われますので、このコーナーでも定期的に状況をまとめていく予定です。大学入試が学生生活のすべて、ということではありませんが中学・高校生活においてある種の目標になることも事実です。将来の学校選びにも影響する可能性がありますので、ぜひとも最新情報を注視してください。
vol.143 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年3月号掲載