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Vol.146 お子さまが生きる「アフターコロナの世の中」を想像してみる
家族の健康管理に仕事や収入のこと、今後の生活への不安が尽きない自粛生活が続きますが、目の前の事象にばかり気をとられていると、想定外のスピードで変化しながらやってくる「アフターコロナの世の中」への対応が後手に回ります。今後世の中に飛び出していくお子さまが将来困らないように、一度ご家族で「コロナ前とは変わってしまうこと」について話し合ってみてください。
「アフターコロナの世の中」はこう変わってしまう!?
1.オンラインが生活を変える
在宅勤務やオンライン会議、オンライン診療にオンライン教育など、否応なく試行錯誤しながらスタートした様々なオンライン化は、ノウハウを蓄積することによって数年後には当たり前のことになっているでしょう。塾講師も対面授業にこだわりを持つ人が多く、平時であれば「IT関係には疎いから」という言い訳が通用したかもしれませんが、このご時世にそんな言い訳をしてオンライン化に対応しようとしなければ、一瞬で「いらない人」扱いされてしまいます。会社の視点では、今回のコロナ騒動がなければ後回しになっていたであろう課題や問題点を一気に改善させ、経営をスリム化させるチャンスとなることでしょう。このことはお子さまに伝えていただきたいと思っています。
在宅勤務の保護者がオンライン会議をしている様子をお子さまに見せるだけでも効果はあります。そのような仕事形態でない方も、何らかの形でお子さまにオンライン〇〇を経験させる機会を作ってあげてください。保護者自身がこの急激な変化を軽視しお子さまを変化から遠ざければ、その経験値の差は、将来より大きなものになってしまいます。
外出自粛によって経営難に陥ったカレー屋さんの話ですが、オンラインで「スパイスカレーを一緒に作る」イベントを立ち上げました。事前にスパイスを送り(材料費1人500円)、オンライン会議システムを通して作り方を指導し(参加費2000円)、参加者はそれぞれの自宅でスパイスカレーを作って食べるのですが、これが「楽しい」と評判になっています。平時であれば誰もやろうとしないし参加もしないことで、私には想像もできなかったことです。もしもこれが流行すれば、料理教室の形や飲食店舗の形、そして飲食の楽しみ方だって変えてしまう可能性を秘めています。
お子さまが生きる「アフターコロナの世の中」は、こうした新しい機会を作り出す人とその機会に好奇心を持って参加できる人たちが中心になって作りあげていくことでしょう。
2.学校と社会の乖離が大きくなる
在宅勤務が今後増えると、仕事の進め方や評価システムは大きく変わることになります。ニュースを見ていると「1日8時間PCの前にいなければならず、監視されているようでイヤだ」という声を拾い上げていますが、社員にこのような環境を強要する会社は多くなく大半は「成果主義」を評価に取り入れるようになるでしょう。頑張りを認めてもらう評価システムは少なくなり、途中経過はともかくとして最終的に「何を成し遂げたかが評価の対象となる働き方」が増えていくことになります。
この「頑張りを認めるシステム」は公立中学校における現行の内申制度そのものだとお気づきの方も多いでしょう。在宅勤務によって働き方改革が否応なく進むと、中学校の在り方が同じスピードで変化しない限り教室内の常識と世間の常識の乖離がどんどん大きくなってしまいます。
2時間である仕事(学習)を仕上げる人と、8時間かけてようやくある仕事(学習)を仕上げる人がいるとします。コロナ前の世の中では、職場でも教室でも、一生懸命な様子が伝わる取り組み方や丁寧な作業工程を伝えることで、2時間かかろうが8時間かかろうが同等の評価を得られるチャンスはあったはずです。
しかしながら仕事に関して言えば、在宅勤務になってしまえば個人の頑張りは他の人に伝わりませんし関心事にもなりませんから、従来8時間かけて仕上げていた人は「ただの仕事が遅い人」「言われたことをのんびりこなしているだけの人」という評価になってしまいます。
もしもお子さまが8時間かけないと仕上がらないタイプだとしたら、「2時間で仕上げられるタイプの人と同じ土俵で勝負するのは得策ではない。今後はオンラインや在宅勤務ではなく、現場に出向くことが求められる職種や業態が向いている」ことを伝えてあげないと、10年後にはおそらくミスマッチを生むでしょう。
この変化を中学校がつかみ普段の指導に活かせるでしょうか。残念ながら答えはノーです。アフターコロナに向けた保護者の役割は、このことを他人任せにせず自分自身でお子さまに伝えることでしょう。
2時間で仕事(学習)を仕上げられるタイプの人にとっても、世の中の変化は学校の選び方と連動します。彼らにとっての10年後、15年後は、自身の生産性やモチベーションを自己管理さえできればいくらでも高評価を得られる時代になるでしょう。ところが、公立中学校が旧態依然として「早く終わったなら待っていなさい」という指導に終始する可能性が高いわけです。お子さまのタイプを認識できている保護者であればあるほど公立中学校のその環境を選ばないでしょう。よって都市部を中心に中学受験率は上がり、お子さまが切磋琢磨できる環境を求める保護者が増えていくと思われます。
3.自分がどう見られているか、の基準が変わる
皆さんは一度も会ったことのない人をどこまで信頼できますか? オンライン会議が主流となるアフターコロナの世の中では、人間関係の構築、信頼関係の蓄積方法もコロナ前とは違って当たり前です。
今までは、実際に会って名刺交換をして世間話をしながら「相手がどんな人なのか」を探っていくのが当たり前でした。服装や身なりで判断することもあるでしょう。しかしオンライン会議では、画面を通して見える部分だけしっかりしていれば、下半身はパジャマだって問題ありません。
アフターコロナの世の中では「実際に会ったことがなくても、オンラインの画面上のやり取りだけで信頼関係を築き仕事を進められる」スキルを身につけていることが求められ、従来とは違った工夫をしなければなりません。ポイントは2つあって、
・ オンライン会議に参加したとき、自分がどう見えているか考える
自分自身もそうですが、ビデオ通話で映し出された自分の姿にガッカリすることが少なくありません。子どもの頃から自分が被写体となることに慣れている子どもたちのほうが感覚は優れているはずですが、「自分がよい(かわいい)と思うもの」と「他人によい印象を与えるもの」が違うことは、伝えておく必要があります。
・自身が発信する情報の質が問われる
コロナ前の会議であれば、自分が会話に参加できなかったとしても書記を務めるなどすれば、それなりに参加した感を出すことはできました。これがオンライン会議になれば、発言しない者はいないのと同じになってしまいます。異文化の相手とのやり取りも当たり前になる時代ですから、英語を中心とした語学力の強化や作文講座を通して身につける「論理的な説明能力」の強化は、これまでと同様に重要視されるはずです。
そして何より、何事にも前向きに好奇心を持って情報収集にあたり、他の参加者に自分の価値を印象づけられなければ「オンライン上で信頼関係を築く」ことは到底実現できません。私が見る限りだと、「好奇心と積極性」が随時感じ取れる人ほどオンライン上での印象はよいものになります。
小中学生の間に見聞すること、学ぶことのうち、何が将来に役立つかなんて誰にもわからないわけですから、少なくとも日々の学習においては「たとえ苦手な教科であっても前向きに取り組む」ことを習慣にしてしまうことから始めてはいかがでしょう。
vol.146 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年6月号掲載