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Vol.147 コロナショックが入試に及ぼす影響(大学入試編)

 緊急事態宣言が解除されたばかりのある日、名古屋在住の友人から「今東京に行った人には1週間くらい自主隔離をしてほしいと思っている。自分の子どもを東京に行かせるなんて正直躊躇する」と電話で言われ、埼玉在住の私はビックリするとともに他地域の皆さまから関東圏がこのように見られていることを再確認しました。コロナ禍の終息に数年を要すると言われている以上、大学受験を目指す高校生の進路選択にも様々な影響が生じるはずです。

不透明な来春の入試動向は他人事ではない!?

 我々受験関係者が最も気にしているのは「そもそもちゃんと入試を実施できるのだろうか」という点です。2021年1月〜2月にコロナの第2波が来ていないことを祈るしかありません。
 その中で、昨年末に様々な話題を振りまいた大学入学共通テストは、現段階では予定通り実施される方向で準備が進んでいます。このテストではおよそ700 会場が用意され50万人の受験生を収容する予定になっています。もともと不正行為を防止する観点から受験生の着席する間隔が空いていること、県境を越えた試験会場を指定されることが少ないことがあって、感染防止策を強化することで実施可能と判断しているようです。しかしながら、大学の会場では200〜300人を収容できる大教室を使用しているケースもあり換気や試験管理者の安全といった衛生管理面の課題をクリアできるかどうか、コロナに限らず当日の体調不良者をどのように扱うか、交通手段や天候の関係で前泊を必要とする受験生の健康管理など解決すべき点は山積みになっています。
 その一方で、各大学が個別に行う入試については暗雲が立ち込めています。
 AO推薦入試については、通常は6月に要項発表、9月以降に出願というスケジュールで動きますが、今年度は5月末の段階で入試日すら決められない状況です。
 また受験生を評価する方法についても大至急の再考が必要です。学力面においてはこれまでだと高校3年生の夏までの成績が評価対象だった調査書の扱いをどうするのか、共通テストでは見送りとなったもののAO推薦入試では多くの大学が評価対象としている英語の外部試験スコアについては、試験そのものが延期となって成績を更新できていない受験生が多いことをどのように判断するのか、そして部活動については、この夏の実績を加味できないことをどのように考慮するのか。大変多くの受験生に影響を及ぼすこれらの課題が、現段階ではクリアになっていないのです。
 この問題は、非受験学年の高校生あるいは中学生にとっても他人事ではありません。一連の大学入試改革によって、多くの私立大学が今年度から段階的にAO推薦入試による入学者を増やす予定にしていたからです。1
 例えば早稲田大学は、今後募集定員全体に占める割合を一般入試と逆転させて、AO推薦入試を経た入学者を6割まで引き上げる目標を掲げています。社会科学部の全国自己推薦(各都道府県から1人以上を受け入れる)のようなユニークな制度もすでに登場しています。  慶應大学の総合政策学部と環境情報学部(SFC)は、2021年度入試からAO入試の受験機会を年4回とし、それぞれ100名だった定員がいずれも150 名(合計300名)と50%増員しました。その一方で一般入試の定員は各学部50名ずつ減らしているのです。こうした変革が今年度から各大学で始まっていて、現在中学生であっても情報を収集し、基準をクリアするための準備を従来よりも早く進めておく必要が生じているのです。

「数学」「理科」を安易に捨てない受験生が増える!?

 次に一般入試の動向です。確実にいえるのは「今後数年理系の人気が上がる」「地方国立大学の人気が上がる」の2点です。1点目の理系人気ですが、これまでも不況時には「理高文低」の傾向が見られました。リーマンショックによる不況に東日本大震災が加わった2009年~2012年頃には、医療系大学進学を目指す女子が多くなったものです。今後数年の間不況が予想されるだけに、現在小中学生の皆さんも算数や数学、理科の勉強はしっかりと進めておくとよいでしょう。
 2点目は、今年に限らず今後数年は、受験生の「地元志向」が強くなるであろうことが、大きく影響します。
 冒頭で私が聞いた「東京(大阪)に子どもを行かせるのが怖い」という保護者の声は、コロナが終息に向かうまで消えることはないでしょう。また、今回のコロナ禍が保護者の収入に影響を与えているでしょうから、大都市圏で一人暮らしをする子どもへの仕送り額はここ数年に比べて減るはずです。そこへ今回のように緊急事態宣言が出てしまえば、大学生はアルバイトすらできなくなり家賃生活費を含めた金銭的負担は大きなものになってしまうことが容易に予想できるからです。
 さらに、中高生には想像しにくいかもしれませんが今回のコロナ禍によって「就職活動における首都圏・関西圏の優位」が崩れたことを覚えておいてください。これまでは高い交通費と時間をかけて東京や大阪まで出向く必要があった地方在住の大学生が、オンライン面接によって移動の手間を省くことができたのです。正式な面接に至る前段階のOB・OG訪問でさえ、これまではわざわざ東京まで出向いていたため、大学の授業出席にも影響がありました。それが自分の部屋でできるようになれば地方在住の大学生にとっては「オンライン面接で自分の個性を主張できるだろうか」という不安を差し引いたとしてもメリットのほうが大きいのです。
 特に北海道大学や東北大学、九州大学といった各地域を代表する国立大学には、従来であれば東京や関西への進学を考えていた層が多く流入する可能性があります。国立大学受験には文系であっても数学や理科が必要となりますので注意してください。
 その一方で、首都圏や関西圏の私立大学では文系を中心に一般入試の志願者が大きく減ることでしょう。首都圏においては「大学の定員管理の厳格化」という施策によってここ数年合格者を絞る傾向にあったため、私立大学が軒並み難化する状況にありました。2020年春の入試では翌年から始まる大学入試改革に巻き込まれたくないという想いから安全策をとって浪人を嫌う傾向が顕著で、ようやく難化に歯止めがかかったところでした。

首都圏私立大学・学部の入試概況(一部)

 しかしすでに「首都圏の私立大は難しい」というイメージは定着し、早稲田大学政治経済学部や明治大学商学部(共通テスト利用入試)などは文系学部でありながら今春から入試で数学を「必修」としますので、入試に数学や理科が不要な私立文系への進学を第一志望としている受験生にはますます縁遠い存在になってしまいます。
 現在小中学生の保護者の皆さまにおかれましては、「大学入試なんて遠い未来の話」と思わずに今後数年の動向を注視しておくことをお勧めします。世の中の変動と大学入試改革の動向がダブルで不透明なのですから、直前になって慌てることのないように算数や数学、理科も含めてしっかりした基礎学力を身につけておくことが必要なのです。

vol.147 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年7月号掲載

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